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2018年07月25日11:59

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7月歌舞伎座は海老蔵の「宙乗り」二題

18年7月歌舞伎座(昼/通し狂言「三國無雙瓢箪久」)


歌舞伎座は海老蔵の「宙乗り」二題


通し狂言「三國無雙瓢箪久 〜出世太閤記〜」は、初見。7月の歌舞伎座は、早々と満席、全席売り切れの盛況。海老蔵人気だろうし、夜の部の「源氏物語」人気でもあるだろう。看板にも「海老蔵宙乗り相勤め申し候」、と謳う。宙乗りの演出が、海老蔵芝居のセールスポイントの一つになっているのではないか。実力は別として、歌舞伎役者の人気では、海老蔵がダントツだろう。

海老蔵は、今回、息子の勸玄とともに昼夜通しで出演している。夜の部の「源氏物語」を起爆剤として、昼夜とも早々と売り切れ状態を作り上げ、その勢いも借りて松竹を満足させた結果を踏まえて、来年4月以降の興行で、十三代目團十郎を襲名し、合わせて息子の八代目新之助襲名を披露するのではないかという情報がある。これは、いずれ、松竹が正式に発表することだろう。

海老蔵の出世の前に、まずは、今月の演目「出世太閤記」について、記録しておこう。私がこの演目を観るのは、今回が初めて。というのも、今回の作品は、「三國無雙瓢箪久(さんごくむそうひさごのめでたや)」という古くからの外題を掲げているものの、過去の「太閤記もの」をベースに再構成した、事実上の新作歌舞伎だからだ。

まず、今回の場面構成は、次の通り。
序幕第一場「西遊記(夢の場)」、第二場「本能寺の場」、第三場「備中高松城外、秀吉陣中の場」。二幕目第一場「小栗栖竹藪の場」、第二場「近江湖水の場」、第三場「松下嘉兵衛住家の場」。大詰第一場「大徳寺焼香の場」、第二場「同 奥庭の場」。

次に、今回の主な配役は、以下の通り。羽柴秀吉と孫悟空のふた役:海老蔵、明智光秀と明智左馬之助のふた役:獅童、松下嘉兵衛と柴田勝家のふた役:右團次、秀吉女房・八重:児太郎、三法師:堀越勸玄、光秀妻・皐月:雀右衛門、嘉兵衛妻・呉竹:東蔵ほか。

初見なので、コンパクトながら粗筋も含めて記録しておこう。
序幕第一場。これは、本来の出世太閤記とは、関係が無い。海老蔵の宙乗りの場面を挿入するためのアイディア。また、松竹の山田洋次監督作品「男はつらいよ」シリーズで、しばしば用いられた映画冒頭のシーン、渥美清扮するフーテンの寅こと、車寅次郎の「夢の場」演出のモノマネだろう。映画も芝居も松竹に権利ありだから、問題がない、ということだろう。芝居の前に、まず、花道スッポンから羽織袴姿の素顔の海老蔵が登場。国立の歌舞伎鑑賞教室のように、演目の説明をする。定式幕が開いた舞台は、西日本を主とした当時の地図を描いた道具幕が掛かっている。海老蔵は、この芝居は、豊臣秀吉の出世物語を通しで見せる、などと説明し、愛嬌を振りまく。説明を終えると、海老蔵は、スッポンから退場。定式幕が閉まる。

再び、定式幕が開くと、そこは、唐土(今の中国)のとある山中。紅少娥(べにしょうが)閣という御殿がある。背景には峨々たる深山が見える。標高も高い。三蔵法師(齊入)が、猪八戒(九團次)、沙悟浄(亀鶴)をお供に従えて、天竺に向かっている。その途中、一行は妖怪の金毛九尾狐に襲われ、法師が連れ去られてしまった。法師は、紅少娥、実は金毛九尾狐(萬次郎)とともにセリ下がって行く。代わりに、女剣士たちがセリ上がってくる。猪八戒と沙悟浄は、金毛九尾狐の眷族の女剣士張張(芝のぶ)、同じく薔薇薔薇(猿紫)と闘うが、劣勢である。そこへ花道から現れたのは、孫悟空(海老蔵)である。本舞台に走り込んできた孫悟空は、女剣士たちと立ち回りになる。女剣士たちを追い散らすと、通力による飛翔術、つまり宙乗りで三蔵法師の救出に向かう。雲の道具幕振り被せ、孫悟空の宙乗り、海老蔵三階席に特設された宙乗りの出口へ。場内暗転(あんてん)、やがて、明転(あかてん)で、第二場「本能寺の場」へ場面展開。ここまでは、寅さんの夢ならぬ森蘭丸の夢。孫悟空→ 猿→ サル→ 秀吉という連想の演出。

序幕第二場。中国攻めに向かう途中の織田信長一行。信長が逗留しているのは、京の本能寺。蓮の花の襖絵。衝立にも蓮の花。本舞台では、一筋隈の化粧をした森蘭丸(廣松)が、西遊記で活躍する孫悟空の夢を見ていた。そこへ、蘭丸の弟の力丸(福太郎)が、花道から慌ただしく駆け込んで来る。謀反を起こした明智光秀(獅童)が本能寺に攻めてきたと伝える。やがて、紫尽くめの裃上下の衣装に桔梗の紋、眉間に三日月の刀疵という光秀が入ってくる。「伽羅先代萩」の仁木弾正の雰囲気。信長が寝所に火を掛け、自害したと伝えられると、森兄弟に斬りつけ、一人高笑いをする。定式幕が閉まる。このあと、幕ごとの場面の繋ぎには、録音した海老蔵の声で解説が入る。

序幕第三場。まず、城外。城内に籠城する毛利軍。秀吉軍は、水攻め戦法。長期戦に備え、さらに陣中の士気を維持するために、知恵者秀吉らしくロジスティック対策。兵士たちのために寿司屋、小料理屋などケイタリングの店が城外の陣中に並ぶ。秀吉(海老蔵)は、小料理屋で魚を捌いている。舞台下手には、小屋。「おとし咄 浮世物語 御伽亭」という看板が掛かっている。小屋の前に曽呂利新左衛門(新蔵)ら。そこへ、花道から旅の猿廻し、実は明智光秀の家臣・明智左馬之助(獅童)と女髪結い、実は秀吉の女房・八重(児太郎)がやって来る。八重は、松下嘉兵衛の娘で、秀吉が藤吉と名乗って嘉兵衛に奉公していた時代の恋人。秀吉は、嘉兵衛の使いで出かけたまま行方不明になっているので、秀吉の子を宿した身で家出をした八重が夫を探しに来たのだ。備中高松で、ようやく秀吉と再会。旅の途中で産み落とした息子は行方不明(これは、伏線)。喜びもつかの間、旅の苦労や子を見失った悲しみで、八重は癇癪を起こす。小料理屋の皿や小鉢を秀吉に向かって投げつけると、猿廻しの眉間に当たってしまう。秀吉が猿廻しに声をかけると、猿廻しは何故か、秀吉に刃向かう。立ち回りとなる。猿廻しは、明智光秀の家臣・明智左馬之助と判る。光秀の謀反を聞き、秀吉は京へと引き返す決断をする。幕の振り落としで、秀吉方の軍兵が姿を見せる。

二幕目第一場。山の遠見。京の山崎で秀吉軍に敗れた明智軍は、小栗栖村に落ち延びる。小栗栖村の百姓たちは、褒美の金を目当てに落ち武者狩りをしている。光秀の息子・明智重次郎(市川福之助)が見つけられてしまうが、郎党の村越伍助(市蔵)の機転で伍助の背負う鎧櫃に隠れて、逃れる。加藤清正(坂東亀蔵)も、ふたりの後を追う。遅れてやってきた光秀(獅童)は、馬上にいて百姓の長兵衛(九團次)の竹槍で突かれてしまい、最期は覚悟の自害をして果てる。栄華の夢覚めし。獅童の吹き替え。さらに、花道より左馬之助(獅童のふた役)が駆けつけ、主君の最期を確認すると眉間の傷を奇貨として、自らが光秀になりかわり、時機を待って、秀吉に攻め入る覚悟を決める。

一方、花道より光秀の妻・皐月(雀右衛門)も、初陣の重次郎を心配してやって来る。「熊谷陣屋」の熊谷小次郎の母・相模と同じだ。百姓たちに襲われるが、上手から現れた八重の父親・松下嘉兵衛(右團次)に助けられる。日が暮れて、だんまりの演出。雀右衛門(皐月)、右團次(嘉兵衛)、市蔵(伍助)、坂東亀蔵(清正)、ふたりは上手から参加。九團次(長兵衛)も加わり、皆で探り合う。小屋から出て来た秀吉(海老蔵)も、だんまりに参加し、落ちていた重次郎の守袋を拾うことになる。幕。

二幕目第二場。幕が開くと、青々とした海原の道具幕。光秀の鎧陣羽織を着て、大鹿毛に乗った左馬之助(獅童)が、花道から現れる。左馬之助は、舞台上手、坂本城を目指して琵琶湖の湖水の上を渡って行く。青々とした浪幕の内を闊歩する獅童。見得にて幕。

二幕目第三場。松下嘉兵衛は、かつては藤吉(当時の秀吉)の雇主。今は、光秀方。秀吉方の捕手頭が嘉兵衛宅を訪れる。応対する嘉兵衛の妻・呉竹(東蔵)。百姓の畑作(家橘)が、光秀討ち死にを知らせる。呉竹は、奥に光秀の妻・皐月を匿っている。

嘉兵衛(右團次)が勘当した娘の八重がやって来る。八重は、藤吉こと秀吉の女房。奥から現れた嘉兵衛は、八重に取り合わない。秀吉が藤吉と知れても、年季証文を残したままの秀吉は、まだ自分の家来だと言い張る。そこへ、奴姿の秀吉(海老蔵)が花道から現れ、かつての主、嘉兵衛に平身低頭する。下手から鎧櫃を背負った伍助(市蔵)を呼び込み、鎧櫃の中から明智の嫡男・重次郎を差し出す。驚く皐月(雀右衛門)。嘉兵衛は、年季証文を秀吉に返す。皐月は、秀吉を討とうとするが、秀吉は皐月と重次郎を庇う。秀吉が先に拾っていた守袋を見た八重は、12年前、生き別れた息子の物だと証言する。つまり、重次郎は、秀吉と八重の子であったのを光秀と皐月が育ててきたことが判明する。しかし、重次郎は、光秀の子として死にたいと、育ての親・光秀の討死に殉じて、後追い自害をする。秀吉は信長の意志を継ぎ天下統一を目指すことを誓う。幕。

大詰第一場。信長の四十九日。大徳寺で法要。後継者を巡って争う大紋姿の家臣たち。焼香の順番で揉めている。老臣の柴田勝家(右團次)が宥めている。前田利家(友右衛門)が現れ、法要の施主は信長の孫の三法師だと秀吉の意向を告げる。御簾が上がると、衣冠を整えた秀吉(海老蔵)と三法師(勸玄)が、奥から現れる。秀吉は朝廷の勅諚を取り出し、織田家の後継は三法師であり、合わせて、自らも中将に任じられたと告知する。不満の勝家を利家が押さえ込み、三法師の後見人は秀吉だと認めさせる。

大詰第二場。幕外、大徳寺の外には明智の残党が集まっている。幕が開くと、大徳寺奥庭。秀吉(海老蔵)が石橋の上で残党たちに囲まれている。立ち回りとなり、左馬之助(獅童)も花道から現れ、本舞台で左馬之助と秀吉の一騎打ちへ。秀吉は、光秀を討ったのは、戦乱を終わらせて、天下泰平を実現させるためだ、と主張し、左馬之助に恨みを晴らせと説き伏せる。これを聞き入れ、手を取り合う秀吉と左馬之助。「なにはともあれ、こんにちはこれぎり」。プロジェクションマッピングで、場内では、舞台間口より大きな虹が映し出される。大団円。
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