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2018年07月18日16:13

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稲垣浩 「ゲンと不動明王」(1961) (新文芸坐)

 劇場側からフィルムについて「おことわり」があり、今回上映された
プリントは、不動明王が登場するシーンだけ、白黒に紫がかった着色
がされているプリントだ、ということだった。実際そのとおりで、
主役であるゲンとイズミの姉妹の生活を語るシーンはモノクロ、
不動明王(三船敏郎)が登場するゲンの夢のシーンは、青みがかった着色
がされていた。
 CS日本映画専門CHで放送したおりに、録画して観ているのだが、
そのときの録画をみると、スクリーンで今回観たよりも、やや赤がきつい
気がする。いずれにせよ、部分的カラーといってよいだろう。

 このカラーリングされた部分の特技監督を円谷英二がつとめている。

 Movie Walker https://movie.walkerplus.com/mv20249/

 児童映画に分類されるこの映画の主人公はゲンとイズミという2人
の兄弟。東北の山中の寺で、父親である住職と暮らすこの兄弟に、
新しい母親が来ることになり、仲のよい兄妹の生活がかわっていく
様子を描く。

 物語の主眼は、兄のゲンの成長にあり、ゲンはもともと妹思いだが
やんちゃできかんぼうな少年である。
 後妻にくるおその(乙羽信子)は、男の子を亡くしており、そのため
男の子を育てるのはつらい、と言ったため、別の村(あららぎ村)の
寺の住職(笠智衆)の世話で、村の雑貨屋へもらわれていくことに
なる。
 雑貨屋のおばさんは厳しい人で、ゲンのことを労働力としかみて
おらず、家族と別れて寂しいゲンはおねしょをしたり、犬を飼おう
としたりするが、おばさんにきつく叱られる。そんな彼の心の支えが
寺の不動明王像だった。ゲンが宝物にしているめんこはお不動さまの
顔だったのだ。

 すると夢の中にお不動さまが現れ、ゲンを夢の世界で鍛えたり、
空を一緒に飛んだり、いたずらのやまないゲンをたしなめたりしてくれる
のだった。この不動明王が特撮で、仏像から大きくなるその役を
三船敏郎が演じている。

 児童映画で、しかも、不動明王の像が生きて動き出す、という
特撮が主の役回りということで、合成シーンも多く、演じにくいところ
もあるだろうと思われるのに、三船が、とても誠実に「不動明王」
をひとつの役柄として真摯に取り組んでいるのがスクリーンから伝わり
まず、それに感銘をうけた。

 主役2人の子役の演技も生き生きとして、特に、妹役のイズミ
(坂部尚子)が可愛らしい。ネットで検索すると、有名なのが、
ウルトラQ「悪魔っ子」のリリーで、なるほど名子役と思わせる。
そのほかにも「世界大戦争」にも出演しているようだ。

 ゲンは、学校でいじめられ、蜂の巣をとれ、とはやしたてられて
蜂に襲われたのを期にイズミのもとへ帰ってくるが、今度はおその
とうまくいかない。特に、おそのが誤って、宝物の不動のめんこを
捨ててしまったあと、「おだいこく!」とおそのをののしるので、
ついに手がとんでくる始末。

 おそのは、もともとこの結婚に不満で、この事件で実家へ帰って
しまい、母になじんでいたイズミは寂しがる。ゲンとともに、母を
探しに街まで数キロの道のりを歩いていくが、途中で夜になり、
泣きながら歩いている2人を、バスの運転手の安男が見つけて村へ
連れ帰った。

 兄弟の周囲の大人たちも、子役達に負けず劣らず、芸達者ぞろい
である。先ほどあげた、後妻役の乙和信子(珍しく、結婚に不満で、
ゲンには冷たい継母の役である)、父親役の千秋実(これも、あんまり
いいお父さんとは言いがたい)、ゲンたち一家の生活を後見する役目で
、のちにゲンが小僧として修行することになるクオン寺の住職が笠智衆。
いかにも村の世話役、という感じが笠らしい。

 村の若いカップル、バス運転手の夏木陽介と焼酎屋の看板娘、浜美枝。
主役のゲンがいじめられたり、継母のおそのと激しい諍いをしたり、
と少し心が苦しくなるシーンが多いので、夏木&浜の若くて明るい
カップルの日常は、ホッと息をつかせてくれた。

 隠れた主役は、團伊玖磨の音楽!
 これが文句なく素晴らしい。冒頭からほとんどのシーンに音楽が
つけられており、ミュージカルとはいかないまでも「音楽劇」の色彩
が強く、山寺の日常、ゲンの心の動き、不動明王が登場する幻想的な
特撮シーンと次々に繰り広げられる音楽は、それだけで映画を前に
進める推進力をもっている。やはりこういう映画音楽の力は、
劇場鑑賞でなければ実感できない。

 最後は、不動明王との交流を通じて成長したゲンが、あららぎ村の
寺の小僧にあがることになり、山寺の生活に不満を感じていたおその
も帰ってくることになって、一応、ハッピーエンドなのだが、
前述のように、ゲンのむき出しのいたずらやきかん気、それに対する
大人の厳しい態度は、ちょっと見ていて辛かった。時代や背景の違い
もあろうが…

 不動明王が、ゲンをたしなめるために、ゲンに広い世界にはいろいろ
不幸な子供がいるのだ、と見せてまわるところが三船らしくてよかった
かな。

 いずれにせよ、劇場でこそ真価のわかる映画だと思う。
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