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2018年01月25日20:33

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1月新橋演舞場・夜/新作歌舞伎「日本むかし話」

18年1月新橋演舞場(夜/新作歌舞伎 通し狂言「日本むかし話」)


連作から生まれた新作歌舞伎


「日本むかし話」は、宮沢章夫原作(脚本)、宮本亜門演出、市川海老蔵主演の新作歌舞伎。「新作」歌舞伎とは、戦後生まれの歌舞伎のこと。そうでない歌舞伎は、江戸時代に生まれた「古典」歌舞伎と明治維新以降戦前までに上演された「新」歌舞伎という3つのグループに大きく分けられる。


新作歌舞伎通し狂言「日本むかし話」は、どのようにして歌舞伎化されたか


2013年8月、渋谷のシアターコクーンで市川海老蔵自主上演「AB KAI」の第一回公演がなされた。テーマは、昔話の「花咲爺さん」をベースにした「疾風如白狗怒涛之花咲爺物語。」であった。2015年には、自主上演の第三回公演では、昔話の「浦島太郎」をベースにした「竜宮物語」、さらに、「桃太郎」をベースにした「桃太郎鬼ヶ島外伝」と続く。いずれも、発想は同じで、よく知られている昔話をベースに現代社会と世相へメッセージを送ろうという作品であった。今回は、「花咲爺さん」「浦島太郎」「桃太郎」という、それなりに独立した作品に加えて、「一寸法師」「竹取物語」のふたつを加え、前段5話とし、先行3作品に登場した「鬼石」を縦軸とする物語として、通し狂言「日本むかし話」として上演した。通し上演は、今回が初演である。通し狂言という形にしたのは、そういう事情であった。

この演目の場割は、次の通り。
序幕「プロローグ むかし話」、序章「或る星の黄昏」、第一章「竜宮物語」、第二章「桃太郎鬼ヶ島外伝」、二幕目第三章「竹取」、第四章「疾風如白狗怒濤之花咲爺物語。」、大詰第五章「一寸法師」、第六章「かぐや姫」。

序幕「プロローグ むかし話」。お婆さん(梅花)が、なかなか寝付かない子どものために昔話を聞かせることにした。物語は 不思議な石の話。或る星から物語は始まる。

序章「或る星の黄昏」。
不思議な石がある或る星。石のお陰で誰もが幸せに暮らしていた。或る星の大王(友右衛門)は、后(吉弥)とともに幸せに暮らしていた。石とは、平和憲法。大王夫妻は天皇夫妻、というように私には直ぐにイメージされてしまうが、原作者の思いとは違うかもしれない。夫妻の間に子が生まれたので宴を開いている。大王の弟・盤面(いわつら)大臣(九團次)が来て、石を投げ捨ててしまう。或る星の平和を維持していたのは石の力ではなく、自分の功績だと主張して、大王を殺す。そして自分が大王になる。逃れた后は、生まれた我が子に行方不明の石の探索を命じる。

第一章「竜宮物語」。
不思議な石は地球に辿り着く。日本に近い海底の竜宮城。城主の乙姫(笑也)は、臥せっている。乙姫は陸の男の生き肝を食べなければ、生きられないという体質なのだ。そこへ、大きな音とともに、不思議な石が落ちてくる。

浦島太郎(右團次)が、亀吉に連れられてやって来る。乙姫に会い、酒を酌み交わすうちに二人は恋仲になる。太郎の生き肝を食べることを断念した乙姫は太郎を地上へ送り返す。生き肝を食べなかった乙姫の体は朽ち始める。滅びの舞を舞う竜宮城を後に石は海面へと上って行く。

第二章「桃太郎鬼ヶ島外伝」。
鬼ヶ島。5人の男鬼たちとおばば鬼(女鬼)が住む。鬼石と呼ばれる不思議な石がある。桃太郎がやって来る。黒鬼(九團次)、緑鬼(市蔵)、青鬼(右團次)、赤鬼(海老蔵)、黄鬼(弘太郎)たちは、どうすべきか。鬼たちは、桃太郎と争わずに、島を守る手段はないかと相談するが、良い知恵は浮かばず、鬼石に祈るばかり。不甲斐ない鬼たちに怒った赤鬼は石を海に投げ捨てて、島を出て行く、と言う。見た目が違うという理由で鬼を退治しようとする人間をなじる。自分たちの島を守ろうと鬼たちは桃太郎に戦いを挑むが、退治されてしまう。

二幕目第三章「竹取」。
或る星の后の娘(堀越麗か)が天の川に乗って地球にやって来た。竹林の中で動物たちに守られている。竹取の翁(家橘)ががやって来ると竹林の中から娘が現れる。翁の飼い犬・シロ(海老蔵)が伺うと、娘はかぐや姫だと答える。翁はかぐや姫を守ることにする。

第四章「花咲爺物語」。
深い森の中白犬が兵士たちに追われている。白犬は怪我をするが、逃げ延びる。
村の畑。正造爺(右團次)が畑を耕している。畑では芽が出ない。秋の収穫も覚束ない。女房のセツ婆が握った握り飯を食べようとする。そこへ怪我をした白犬があらわれる。正造爺は白犬を介抱して家に連れ帰る。様子を見ていた一蔵(市蔵)と二太郎(九團次)が、残された握り飯を食べようとすると、村一番の強欲者 の得松 爺(獅童)が現れて握り飯を横取りする。

白犬(海老蔵)は、正造爺の女房のセツ婆(笑三郎)が 迎えると、突然、喋り始める。驚いた老夫婦は白犬をシロと名付けて息子として育てることにした。1年が過ぎた。村の畑は、今年も芽が出ない。得松爺が庄屋を連れて訪ねて来た。シロの行方を尋ねる。鬼退治をした桃太郎は鬼ヶ島から鬼石を盗んだ悪人で、その家来の白犬が石を隠して、この辺りに潜んでいる、というのだ。川へ水汲みにやって来たシロと正造爺の前を一寸法師が流れて行く。セツ婆がシロたちを探しに来る。シロから桃太郎との経緯を聞き、悪いのは桃太郎ではなく、鬼石を奪おうとしている村人たちだと判る。そこで、老夫婦はシロを赤く塗り、赤犬のアカとして匿う。

アカが、隠していた石を掘り出し、石に向かって「ここ掘れワンワン」というと、金銀が湧き出す。それを見た得松爺が、鬼石を奪いアカに呪文を唱えさせるが、出て来たのは魔物たち。得松爺は魔物に惑わされて死んでしまう。

贅言;シロ(海老蔵)は、宙乗りを披露する。「枯れ木に花を咲かせましょう」と言いながら、花びらを振りまく。場内は、桜吹雪で薄い紅に染まる。かぐや姫(児太郎)も、月への帰還時に本舞台のままながら、宙乗りを披露する。

大詰第五章「一寸法師」。
京の三条宰相殿。都へやって来た一寸法師(鷹之資)は、宰相殿に仕える。ここは、舞踊劇。姫君に恋した一寸法師は、夜、姫の部屋に忍び込む。小さい一寸法師は、姫に踏まれそうになる。ゴキブリが出て来る。一寸法師の一途な恋心は姫にも通じる。姫の大きな掌が上手に現れ、一寸法師をたのしいきぶんにさせる。

第六章「かぐや姫」。
かぐや姫の屋敷。美しく成長した姫。石作皇子(市蔵)、右大臣阿部御主人(廣松)、車持皇子(弘太郎)、中納言石上麿(市川福太郎)の貴公子4人が、かぐや姫への求婚にやって来た。不在の貴公子重信ノ尊は、海に漕ぎ出し行方不明になっているという。かぐや姫(児太郎)は、4人の貴公子の申し出に良い返事をしない。持ってきた品物も拒否する。かぐや姫のおかげで贅沢三昧の生活をするようになった竹取翁夫婦は、かぐや姫に結婚を勧めるが、姫は断る。

やがて、やつれ果てた重信ノ尊(海老蔵)が現れ、姫が望む品を探し出せなかったと詫びる。素直な尊の姿に感じ入ったかぐや姫は、自分が望む品は鬼石だと告白する。

鬼石は、シロの力で魔物を生み出す石となり、蛭ヶ谷に打ち捨てられ、石の周囲は魔物で溢れているという。尊は蛭ヶ谷へ向かう。尊は魔物の王・悪鬼王(九團次)に立ち向かう。魔力にまけそうになっていると、後を追ってきたかぐや姫が尊の勇気と自分の守り刀の威徳を合わせれば、どんな魔物でも倒せるという。二人は心を合わせて悪鬼王を倒す。二人の思いが結ばれた時、皮肉にもかぐや姫の旅立ちを告げる赤い星が流れる。

幕切れに、梅花に連れられた子供たちが現れ、子供たちと一緒に観客はむかし話を聞かされていた、という演出であった。

主な配役は、海老蔵:赤鬼、シロ、重信ノ尊。右團次:浦島太郎、青鬼、正造爺。笑三郎:セツ婆。獅童:得松爺。友右衛門:大王。吉弥:后。児太郎:かぐや姫。笑也:乙姫。堀越麗禾:幼少かぐや姫。鷹之資:一寸法師。家橘:竹取の翁。齋入 :竹取の女房、おばば鬼。市蔵:緑鬼、一蔵、石作皇子。九團次:盤面大臣、黒鬼、二太郎、悪鬼王。弘太郎:亀吉、黄鬼、車持皇子。廣松:潮女、阿部御主人。梅花:お婆さん。

序章の不思議な石の存在が、おもしろいと思って見ていたら、途中で、「鬼石」になり、金銀ザクザクまでは存在感があったが、魔の石になった後は、有耶無耶になってしまったようだ。大団円には出てこない。残念。それとともに、御伽噺の連作で作り上げた新作歌舞伎も、幻影が醒めてしまったような気がした。先行作品の3作品と比べて、今回追加した2作品の完成度というか熟成度というか、かなりの段差があるように感じた。

新作歌舞伎であり、通し狂言への挑戦という、その初演の舞台だったので、粗筋を含めて記録した。
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