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2017年12月22日14:48

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本 ”店長がいっぱい” 山本幸久

”店長がいっぱい”   山本幸久

好きな作家、三年前に出た作品が文庫化(一章追加)されたので、
早速お買い上げ。

国内外に百二十七店舗を展開する他人丼のチェーン店友々家(ゆうゆうや)。
シングルマザーだった創業会長が一代で築きあげたものの、
頼りない息子が社長になり、現場は迷走中。
そんな中で奮闘努力する店長達の物語。

いつも通り、普通に働く人たちの、普通の苦脳と頑張りに共感し、
そして最後はじんわりと感動しました。

八王子店/ 元広告代理店の腕利き営業マン、稼業の蕎麦屋を継ぐために
会社を辞めるもうまくいかず、蕎麦屋を潰して友々家のFCになった店長、
売り上げが伸びず家族に迷惑かけたり、二代目社長の思いつきで始まった
クリスマスキャンペーンの売れ行きが悪くて悩む。
神泉店/入社五年目の女店長、同い年で他のバイトに厳しすぎるダンサー志望の
古株バイトに振り回される。
渋川店/家出してバイトを始め、頑張りを認められ店長に抜擢されるも、
仕事はできないが地元では人気者で客を呼ぶ年配のバイトに手を焼く。
札幌店/離婚後、稼ぐためにFCになった55歳の女店長、新、メニュー開発で
20代のバイト達と一致団結して盛り上がる。
南の島店(海外)/本社開発部のやり手の部長だったが、社長企画の失敗の
責任を取らされ左遷させられた店長、テンポが違う現地のバイトに戸惑ったり、
謎の日本人が近づいてきたり、、、。
江ノ島店/元ヤンだったが今では真面目に頑張っている女店長、
そこに二代目社長が正体を隠して現場を体験するためにやってくる。
西荻店/戦隊モノのヒーローをやっていた元役者の店長、いくら頑張っても
売り上げも上がらない、休みもない店長の現状に疑問を覚え、
自分をヒーローと思って慕う店長仲間を誘ってストライキを起こすも、、、。

これらの様々な悩みを抱えた店長の物語が一人一章で語られ、
それぞれの章に美人で仕事ができる本社の店舗支援の霧賀(すごく魅力的)、
二代目をなんとか一人前にしたい会長、
ひ弱で他人の意見を聞かない二代目社長が登場して物語が展開していきます。

愛すべき店長達の自らの人生の選択ミス、とほほなバイト、迷惑な客、
本社からのピントはずれのキャンペーンと二代目社長の役に立たない応援DVD、
といった働く人なら誰にも心当たりがある、やる気を挫く出来事に笑い、
頼りになるバイトや霧賀嬢の頑張り、いざとなれば現場に赴く会長の協力で
なんとか困難を乗り越えて行く姿にホロリとします。

各店長と霧賀嬢が考えた企画が進んでいったり、
最後は二代目も現場の苦労を知り、少し成長したり、
会長の秘めたる思いや元夫の謎が明らかになったり、
そういった章をまたいだストーリーも展開していて、
そちらでも最終的には感動させられたり。

某牛丼チェーン◯き家のワンオペ問題が起こったのが2014年3月ですが、
この小説が文芸誌で連載され始めたのは2013年、
つまり社会問題化される前にすでにこのテーマを取り上げていたという
まことにタイムリーな作品。

店長達はいくら頑張っても幸せになれないことにジレンマを感じます。
それは創業者である会長も気づいていて、
従業員みんなを幸せにするために店を増やしてきたはずなのに、
どこで間違えたのか? と自問自答する。
長く続くデフレ社会においては外食産業にとどまらず、小売り、運送業など
いろんな業種に共通の本当に難しい問題です。

でも、この物語で救いなのは
店長達、そしてバイト達みんなが友々丼に自信をもち、
会長が作り上げた会社が好きなことです。
だからこそ、今日も明日も、
楽しみに食べにきてくれる人のたちのために店を開け、
いらっしゃいと大きな声で挨拶する。
そんな姿を見て、ちょっと笑って、ちょっとホロっとして、元気をもらう、
それこそが、一生懸命仕事を頑張る普通の人々を優しい視線で描く作者の真骨頂、
今作も楽しませてもらいました。

絶妙トロトロ卵の友々丼、食べてみたいです。


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