mixiユーザー(id:14438782)

2017年12月15日22:15

97 view

レトロな焼肉屋さん

 先週の金曜日は職場の飲み会があった。場所はJR川崎駅と京急川崎駅の間といっていいところなのだけれど、ちょっと驚くぐらいレトロの雰囲気を漂わせていた。古い建屋が立ち並んだ間の、細い路地を入っていくとあるだけれど、初見ではまず見落としてしまうと思う。

フォト


 なにもないと言われていた川崎駅前ながら(とはいえ、さいか屋はあったのだから、印象にすぎないはず)、1980年には岡田屋モアーズ、1988年にルフロン、2003年にダイス、2006年にラゾーナと新しい巨大商業施設の建設が続くなか(一方でさいか屋は2015年に閉店)、まるっきり時代から取り残されたような一角がある。
 実際にはJRの線路と幹線道路で三方を遮られていて、陸の孤島のようになってしまっているのだけれど、それだけに再開発でもしないとどうにもならないはずなのに、なんだか昔のままなのだった。

 自宅兼用とおぼしきお店は10席ほどのカウンターと4人掛けのテーブルが2卓。自分たちは奥の座敷に通されたのだけれど、そこはいつもは物置にでもなっているのか、部屋の隅に雑多な器物が積み上げられ、白い布をかけて隠してあった。
 お店は店主の男性と、その娘さんらしい中高生とおぼしき二人、さらに少しだけお婆さんのような年配の女性も出てらした。
 そして、もっぱらホール係を担当する二人の娘さんが、おもてなしなんぞという近年のしゃらくさい流行を一顧だにせず、初めてやってきた遠縁の親戚ぐらいへの素っ気なさで応対してくれるのだった。
 でも、懇切丁寧にされるとこちらも気を遣うので、個人的にはこれぐらいの接客態度がありがたい。

 しかし、もっともレトロというか昭和の息遣いを感じたのは、そのオペレーションである。現在、チェーン店だと注文を受けた店員は端末を操作して入力するだけだし、厨房はそれを受けてひたすら順番に作るだけ、できた料理はどこへ運ぶかの伝票といっしょにホール係へ引き渡されるので、相互のやりとりはすべてシステムが請け負い、完全な分業体制が敷かれている。個人店でもこれを入れているお店は多いと思う。
 しかし、このお店にそんなものはないし、客の方は完全に平成のノリでサワーやカクテルの類を五月雨式に注文するものだから、未分化体制では対処しきれず、終盤はかなりオーダーが混沌とした状況に陥っていた。

 昭和のころはそれなりにまとめて注文してたっけと記憶をたぐってみるけれど、なんせ未成年だったし思い出せない。でも、まわらなければ仕方がないのだから、客の方でもそれなりの配慮はしていたような気もする。
 しかし、平成に慣れ切ってしまうと、そもそもそういう発想すらなくなるわけで、ここに昭和と平成の断絶を痛感したのだった。

 お店の立地として、川崎駅西口多摩川沿い方面のソリッドスクエアや川崎産業振興会館の人たちが、まっすぐ西口に向かうのではなく東口にまわりこむと店の近くを通過するぐらいだから、ふりの客というのはほとんどなくて、基本的に常連さんばかりなのだと思う。で、その人たちがボトルキープでちびちびやりながらお肉を焼いて食べるのが本来のスタイルなのだろう。
 それなら、問題ないはずだけれども、そこへ平成スタイルのグループがやってきて見事に破綻したのだった。

 肝心の焼肉はおいしかった。お値段もかなりリーズナブルだったと思う。でも、まずい焼き肉って食べたことがないし、おいしいならおいしいだけで十分というか、いくつもあるおいしいをさらに分類して序列をつけるというようなことにはまるで情熱がわかないので、そこから先に踏みこんでなにかを述べる準備がこちらにはまったくない。

 そして、文中で昭和という語を使ってしまったけれど、それでつくづく思うのは、当時の感覚って完全に体内から揮発してしまっているから、この言葉って実はほとんど意味を失ってしまっているよなということだった。
 そもそも昭和のころだったら、その時代ごとの気分を書き表して較べてみればおもしろそうだというセンスそのものが、皆無だったのではあるまいか。
 そういう意味では、日本は順調に衰退していってるのだろう。そして、またそれが自分としては居心地がいいというあたりも、いかがなものかと思うのである。思うだけだが。
 塩野七生だったら、衰退できるほど繁栄してもなかっただろというところだろうか。ちなみに、「降る雪や明治は遠くなりにけり」という中村草田男の句は昭和6年の作だそうな。

フォト


2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2017年12月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      

最近の日記

もっと見る