恩師

87歳の母

植物園の脇の道で 大谷先生に会った。 ベビーカーの中には「光太郎ちゃん」がニコニコしている。幸せそうな母子の姿だ。
先生は ご近所さんだけど生粋のお嬢様で、 駅のそばのでっかい門のある家にお住まい。
学習院の出で「清子様」と親しく、ご降家される前に お忍びでいらした事もあった。
そして私の長年のフルートの先生でもある。

私 が、「せんせい〜」 と言いながら バイクのエンジンを切って駆け寄ると
先生は 「良かった。風美さん 元気そうで。 また、泣いてるんじゃないかと心配してました」といって下さった。

母が川越に入院する前に、先生と私達 母娘は コンビニてで よく顔を合わせていた。
先生は お若いけれど お母様を随分前に亡くされた。ガンだったように記憶しているが、その後、先生は、 「私はずっとその治療方法に悔いが残っているんです。 母はとうとう亡くなってしまって ・・・。 ごめんね ごめんねと母に謝ったんです。」
と、私に話され
だからこそ、私が母親を介護している事をいつも気にかけてくださっていた。

母が川越に入院して 今日でちょうど 1ケ月。
その直前は 母が荒れて、私は、もう母にどう対処していいかわからない時期で
その時、先生にお会いして 「お母様 いかがですか？」と優しく聞かれた時、私は不覚にも泣いてしまったのだった。

そして 今 「母が落ち着いて 私も 気持ちに余裕ができました」と答える事ができた。

所沢インターからの道は 落葉樹の 大きなケヤキ並木で この季節は赤いサザンカが咲いている。
この道を これからどの位通うのだろう。 やがてすっかり葉が落ちて 黒々とした枝ばかりになり、白い雪の道を走る日があるかもしれない。
無事に春が来て 柔らかな新緑の中を走り、青葉の季節になり、また秋が来る、それらの季節を何回か繰り返す事ができたらなあ、と思う。

「今日は水曜日だから、また日曜日には来るからね」と言ったら 指を折って数えた母。
もう少し 人生の時間がありますように。

富士急ハイランドは、クリスマスイルミネーション。