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2017年10月04日06:55

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平安五神伝二作目 発つ鳥跡を濁す 2章−3

その頃、光元配下の妖異達と朱雀兄妹は揃って平安京の路地を歩いていた。
明るい道には物を売り買いする者から先を急ぐ役人、悪事を見張る検非違使など当然ながら人間が多数出歩いている。その中でも妖異の化身達の姿は特徴的で、特に金や赤の髪色は目立つはずなだが周囲にそれを見咎める者はいない。

「まったく・・・陰陽師様々だな」

前方で聞こえた玄武の呟きに、燿は目の前に掲げた自らの右手首を見やる。そこには品のよい赤い組紐が巻かれていた。出仕前、光元が玄武に預けていった物の一本だ。伝言によれば、身に着けた者の妖気を隠し、更に容姿まで普遍なものに歪めて周囲に見せているらしい。

夜の住人である妖異達がわざわざ昼間に出歩いて何をしているかと言えば・・・平安京内の散策である。此処にやって来て間もない黄龍と朱雀達に、平安京の文字通り明るい場面も見てもらい興味を持ってもらいたい・・・欲あわば守護したいという自分に賛同してもらいたい、という光元の思惑による取り計らいだ。当然、案内役は滞在歴の長い玄武が務めている。
一同は白い塀が並ぶ通りを歩いていく。足音と玄武の無味乾燥な説明が響く。

「まずは光元の自宅がある左京。人間の中でも階級の高い者達がこぞって自宅を建てる区域だ。当然警備も厚く、比較的治安の良い所という事になる。その分土地の価値も高い。本来なら光元なんて下級役人が住める区域ではないが・・・借家という事で例外だ」

似たような十字路が続く中、玄武がおもむろに角を曲がる。白く高い塀が減り、草地など開けた場所が目立ってきた。木の小屋のような家屋なども伺える。

「南に向かうと平民の民家なども目立ってくる。西へ行けば都の中央を走る朱雀大路にぶつかるが・・・ただっ広い道に興味がありそうな奴はいなさそうだな」

案内役という役柄に面倒そうな顔つきをしている玄武の口から、更に特大のため息。

「・・・それ以前に、オレの話を聞いてる奴はいるのか?」
「きゃははは!コーちゃん見て見て、とんぼ!とんぼぉ!!」
「あんなん捕まえても腹の足しになんねぇぞ。それより向こうの家からいい匂いすんだけどな〜」
「朝ご飯食べたばっかだよぉ〜」

前方を進む朱雀の娘と、それを肩車した黄龍は虫と空気を追って空ばかり見上げているし、後ろの燿は燿で無表情に視線だけ向けて周囲の家屋を眺めている。誰もが自分の興味ある事柄ばかり追っていて、玄武の話など耳に入っていない様子だった。

「・・・朱雀大路から向こうの区画を右京と呼ぶ。左右の起点は羅生門でなく天皇の居住区である内裏であり・・・」

その事実に気付きつつ、玄武もまた義務的に説明を続けていく。彼もまた、都を案内するという光元からの任務を果たしているだけであり、新参者が話を聞いているかどうかなど興味がないのだから。
今後協力関係を結ぶかもしれない、玄武と黄龍に至っては結ばなければならない者達の交流と思えない構図である。光元が見れば、人の思いやりをふいにするこれらを、今後まとめ上げていかねばならないのかと嘆きの声をあげる事だろう。
ある一角を過ぎた辺りで、前方からの人のざわめきが急に大きくなった。つられて視線を向けた少女と男達の歩みが停まる。玄武だけは相変わらずの調子だった。

「此処は今回目的としていた場所・・・都の住人が最も活用しているだろう、東市(ひがしのいち)だ」

そこは路地の両脇を店が並び占める区域だった。藁や布、木などで出来た屋根の下で商人達が様々な物を並べて買い手を求めている。服や反物や装飾品、果実や穀物、干物などを売る場所もある。中には奇怪な形の壺を並べる怪しい店なども伺える。

「人に慣れるには文化に触れる事も必要、と言うのが光元の提案だ。そこで、大した質量ではないがお前達には買い物を体験してもらう・・・だから待て。誰も窃盗を始めろとは言ってない」

その言葉を待たずに飛び出しそうな黄龍の青布を掴み玄武が引き留める。

「一応物と同等の価値とされる銅板、カヘイというものが存在するがあまり下級層には出回っておらず通用しない事も多い。基本は物々交換だからこれを使え」

玄武が長い袖から各々の手へ落としたのは口が縛れる形式の麻袋であった。中に重みを感じる。

「人間一人が一日に消費する相当量の米が入っている。どれほどのものと交換出来るかは相手と交渉次第だな。一刻したらこの場所へ帰るように」
「これで美味いもん食えるんだな、行くぞ朱夏!」
「おー!」

我先にと黄龍と朱夏が駆けだしていく。

「オレは光元からの頼まれ物の買い出しに行く」

やっと手綱を離す事が出来た玄武は二人とは別の区画へ歩き出した。

「……」

暫く路地に突っ立っていた燿であったが、結局朱夏の向かった方へと歩き出す。


続く
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