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2017年10月03日22:10

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平安五神伝二作目 発つ鳥跡を濁す 2章ー2

こうして外敵を予防した弟子達は、講義の終了を予感して一足先に連れだって教室を離れる。保栄が小さく息を吐く。

「字は美しいのになぁ・・・同じ線と円と点を用いているのに、どうしてああも差が出るのか・・・」
「まぁまぁ、神がお師様に与えなかった唯一の一物と思えば充分すぎる程じゃないですか」
「む、まぁな・・・」

実の兄を褒められて悪い気はしないのだろう、保栄は非難を止める。その隙に光元は袖口から昨夜用意した料紙の束を取り出す。

「そうだ・・・これ、依頼されてた書類です。それと、来月分の暦と昨日の怪鳥の件の報告書を・・・」

兄弟子はそれらを受け取る際、袖口から何かが落ちる。黒い布きれのようだ。荷物がなくなって身軽になった光元が屈んでそれを拾い上げる。

「保栄殿、これは?」
「とある依頼でな、この衣類・・・布の持ち主を探している」
「へぇ・・・」

指を擦り合わせて布の質感を確認する。光沢を帯びた布は折っても折り目が付かず、冷たい感触を帯びていた。何処かで感じた手触りの気がするのだが、詳細を思い出せない。光元は布を丁寧に畳んで保栄に返す。

「へぇ・・・なんだか滑らかな手触りですね。僕も何か判ったら報告します」
「あぁ、宜しく頼む」

保栄が片眉を上げる。

「ところで、お前に珍しく持ち帰り残業までして妙に手際がいいな。誰かの爪の垢でも煎じて飲んだか?」
「あはは〜、実は今日早めに上がらせて頂きたくて・・・」
「そんな所だろう、とは思っていた。・・・いいだろう、たまにはな」

数秒の沈黙の後、光元は大きくした瞳を瞬く。

「・・・保栄殿こそ、変な物煎じて飲んだんじゃないですか?」
「どういう意味かな光元?」
「いえ、正直断られると思ってましたし・・・生真面目な保栄殿から、こんな率直に承諾がもらえると思ってなかったと言うか、なんというか・・・」
「お前にも仕事内で済ませられない要件の一つや二つはあるだろうと考慮してやったまでだが・・・期待に沿えて、何故か私に回されてきた今日の陰陽頭分の業務を分業してやっても―――」
「上司様の寛大なる御心に感謝の意を以って甘んじようと思いまぁーす!!」

上司の重たい思いやりを諸手を上げて大音声でかき消す光元。その様子に苦笑を否めない兄弟子。

「冗談はさておき・・・私もお前に頼みたい事があるから、それで貸し借りはないものとしよう。正午には終わるからついて来い」
「何処に行くんです・・・?」
「なぁに、そんなに遠くはないさ」

陰陽師二人は渡殿を歩く。陰陽寮の外へ続く道だと光元は無言で察していた。


続く
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