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2017年08月30日00:23

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原爆スラム

 Eテレのこのドキュメンタリーを見るまで私もその存在を知らなかったのですが、かつて広島市にはそう呼ばれた一角がありました。

フォト


 番組によると、それは広島市旧市街の中央部、本川と元安川が分岐する相生橋のさらに上流部分の両岸、上の画像では赤い線を引いたところがそうだったみたいです。ちなみに、爆心地は赤丸で示しました。
 この画像中の中央左側に本川小学校原爆慰霊碑とありますが、これは本川小学校の敷地内にあって、ここが私の通った小学校です。
 ここからは本当に指呼の間ともいえる距離にあり、活動圏内のようにも見えるのですが、小学校低学年のころには画像の市電の線路より北へ行くことはほとんどありませんでした。
 もっとも、市電より北も学区内ではあるので、同級生は日常的に接していた可能性はあります。話題に出たような記憶は一切ありませんけれども。

 画像の中央上方に広島市こども文化科学館がありまして、ここが1980年開館だそうですから、高学年になったころには併設されていた児童図書館によく行っていたのですが、河沿いのところはずっと工事中だったように記憶しています。

 いわゆる原爆スラムが完全に撤去されたのがちょうどこのころだそうですから、私はぎりぎり目にすることができなかったみたいです。
 工事の終わったこの川岸は、川面に映える白い石材できれいに護岸され、芝生も植えられて見晴らしのいいところになっていました。現在はここで花見やバーベキューをしているようですが、当時は喫茶店に入るお金もなさそうなカップルが幾組も並んで腰を下ろしていて、今となってはよくそんな危なっかしいことをしたものだと思うのですけど、私と友人たちは冷やかし半分に近くでノルマンディー上陸作戦ごっこなどをしていました。でも、怒って追っかけてくるような人はいませんでした。

 そもそもなぜスラムと呼ばれるような場所ができたかといえば、戦争や原爆で焼け出された人たちが、権利関係の曖昧な川の近くに集まって暮らすようになったからだそうです。
 映画『仁義なき戦い』もここを舞台にしたシーンがいくつもあるらしく、市内に残された戦争の痕ともいえる存在でした。
 外からは一帯が危ないところ、近づくべきでないところと思われていたようですが、実はそうでもなかったみたいです。もっとも、中には本当に危ないところもあったらしく、18年間そこに住んだ人によると、その間に2件ばかり殺人事件があったといいます。

 地元の広島大学がかなり細かい調査をしていて、各戸の間取りや持ち物などの記録まで残っているのですが、それによるとピアノやバイオリンがあったり、そうした楽器を子どもに習わせている家もあったらしく、スラムという言葉にはややそぐわない実態も浮かび上がってきます。

 実際のところ、戦後すぐは日本中が貧しかったといえますが、その後に高度経済成長があり、70年代になって低成長へと移行していきます。その間、ほぼそろって生活の底上げがなされ、この一帯もその恩恵に浴したはずで、いわゆるスラムのまま置き捨てられたというよりは、戦後30年ともなればそこで生まれて育った世代もでてきますから、番組中に何人もの出身者にインタビューしているのですが、抜けられないというより、不便だけれども気安さもあり、これまでのいきがかりでそのまま暮らしを続けていたみたいでした。

 とはいえ、さすがにずっとそのままというわけにいかないので、一帯の整理を進めるべく、ここに原爆スラムという呼称がつけられます。つまり、実は原爆スラムという名前はようやくここで生まれました。命名の主は市議会議員だったらしく、現在ならちょっと問題になりそうな手法ですが、当時はこれが奏功してスラム撤去へとつながっていきました。

 最後まで残った住人は基町アパートに移り住んだそうです。この基町アパートも広島市の戦後を語るには避けて通れない存在でして、そういえば中学時代の友人がここに住んでいて訪ねていった記憶もあるのですけど、まとまった知識がないのでここに書けることはありません。

 やはり、80年ごろでしたか、市内の川をめぐる遊覧船が就航しました。地元紙は「まだ川から眺められるものが少ない」と否定的な記事が載せ、読んだ私もたしかにそうだと思ったのですけど、このころにやっと市内の他の場所にもあった川沿いのスラムを整理できたそうですから、むしろ、川から眺めてもようやく不法建築を目にせずにすむようになったというのが実際のところではありました。

 身近なところに戦争のよすがが残っていたのだけれど、微妙にすれ違って知らないまま過ごしてきたことに不思議な感慨をおぼえました。

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