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2017年08月20日13:50

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真実の縄文杉登山

確かに2大旅行情報誌には嘘は書かれていない。しかし本当のところも
書かれていないように思ったので、ここに52歳を目前に控えた、普通
のデスクワーク会社員が、持病の腰痛と五十肩を引っさげたままでトラ
イした、リアルな縄文杉登山記を残すことにした。

8月某日、3時に起床しホテルが用意してくれた朝食用と昼食用の軽食
を携え、4時に迎えのバンに乗車。4時35分のバスにて荒川登山口ま
で移動。大型バスは満席。5時10分に登山口に到着。そこでパンとチ
ーズとハムの朝食を摂り、トイレを済ませたら5時50分に登山開始と
なる。

スタートしたら延々とトロッコ道が続く。ガイドブックでは、「朝の空
気の中で元気よく」とか「植物や景色を楽しみながら」などと記されて
いるが、歩き出して30分もすれば滝のような汗が滴り落ち、既に息は
あがっている。1時間半以上かかってようやく「小杉谷橋」まで来る。
元気よく楽しむ余裕なんかこれっぽっちもない。

もう僕はこの登山を始めてしまったことを、深海よりも深く後悔してい
た。苦しい。こんなことはガイドブックには一言も載っていなかった。

小杉谷橋を過ぎても、延々とトロッコの道が続く。ガイドの説明なんか
全然耳に入らない。ああ、横になりたい、畳の上で寝ころびたいという
考えしか浮かんでこない。ガイドブックに載っているモデルの写真は笑
顔だが、愛想笑いですら出来ない。しかもトロッコの道はエンドレス。
3〜4回は心が折れる。苦痛と怒りと悲しみが体を纏う。

それでもスパルタンなガイドに引きずられて、大株歩道入口まで来る。
そこでトイレを済ませたら、本格的登山が開始になる。景色的には単調
であったトロッコ道から脱したので目先は変わるが、この山登りがキツ
イ。もう靴擦れと筋肉痛と打撲で足なんか動かないのに、登らざるを得
ない。ウィルソン株まで来る。ただ中に入るのも順番待ち。そこらじゅ
う人だらけ。情緒も何もない。でもそんな事すら、もうどうでも良くな
っている。

その後は地獄の1丁目〜3丁目とか言われている、急激な山道となる。
一気に数十メートルもの高低差を登るので、心臓が破裂寸前になる。持
病で心臓に疾患のある人は、下手したら死ぬかもしれないという考えが
脳裏をよぎる。喋ることもできず、ただひたすら呼吸をするだけ。はあ
はあと言う息が出て、空気を吸い込むだけに徹する。ガイドブックの写
真はなんであんな笑ってられんだ?実際の僕は汗だくだし、泥だらけだ
し、死にそうだ。あんな爽やかさは微塵もない。

それからどこをどう行ったか知らないが、10時半頃に昼食となる。バ
ナナとみかんも入っていたが、触る気すら起きなかった。弁当はおにぎ
りが3個と塩辛い焼き鮭と出汁巻き玉子。空腹かどうかも良くわからな
いし、食欲より痛みが勝っているので食べる気も出ない。とは言え、何
か食べておかないといけないのはわかっているので、何とか8割ぐらい
を無理やり胃に詰め込む。

そしてまた登山になる。そして11時35分、やっと縄文杉に到着。5
時間45分も要した。しかしデッキから見る縄文杉は遠くて小さい。ガ
イドブックでは、「圧倒的な存在感に絶句」とか「スピリチュアルな雰
囲気」とか記されているが、デッキからではそんなものは皆無。ただの
樹じゃねえかという気持ちしか起こらない。しかもどこに行っても人だ
らけ。ガイドブックのようなシーンには絶対にならない。軽く清水寺ぐ
らい人はいるし。これまでの労苦が報われるような感動はない。そのこ
とを自覚して唖然とするだけだ。

そしてすぐさま下山となる。そこでまた絶望感が襲ってくる。来た道を
戻るのだが、当然同じだけ歩かなければならない。ガイドブックでは縄
文杉の地点を「GOAL!」と書いてたが違う。折り返し地点だろ。さ
すがに下りでは心臓への負担は軽いものの、靴の中で足の指が最悪の状
態になり始めた。指先に重みがかかるからだ。痛い。水ぶくれになって
いることは容易に想像がついた。しかしガイドに無理やり引きずられて
先に行くしかない。

下山では結局5時間40分かかった。足は鉛のように重い。太ももと太
ももの裏側と、脹脛と脛が痛い痛いと言う。靴の中で指も擦れあって痛
い痛いと言う。それでも歩く。トロッコ道も、登り同様エンドレスに長
い。当たり前だが。デビッドボウイの曲を「スペースオディテー」から
「ブルージーン」まで、好きなのを頭の中で流し続けてもまだ道は続い
ている。帰りでも2回ぐらい心が折れる。それでも最後の力を振り絞っ
て、ようやくスタート地点に辿り着いた。

確かに、スパルタンなガイドがいなければ走破出来なかったのも事実だ
し、自分に体力がないのも事実ではあるが、行って良かったとはこれっ
ぽっちも思わなかった。これまで生きてきた中で一番しんどかったし、
体が痛んだのも一番だった。そういう事は一切ガイドブックには書かれ
てはいない。また登りたいなどとは決して思わない。一億円積まれても
断ることは明白。まあガイドには感謝してはいるが。

下山してすぐにトレッキングシューズを脱いだ。それからは靴下のまま
ホテルまで戻った。ホテルに着くや否や、靴も穿いていたジャージも、
軍手も下着も全部捨てた。背中はリュックのせいで全体に汗疹になって
いる。すぐに温泉に入って体を洗ったが、疲労と痛みで風呂上りは死ん
だように横になるしかなかった。

というような負の側面は、一言もガイドブックには載っていないのだ。
僕にとっては片手落ちとしか言いようがない。情報誌を読めば、誰でも
が気軽に登れるような気持ちになるが、決してそんなことはないのだ。
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