２０世紀に君臨したソヴィエト連邦が１９９３年に崩壊してからおよそ四半世紀。旧ソ連の一部だったロシア以外の国では、今ではＥＵに組み込まれた国もある。これらの国のプログレは、西欧的な感受性とスラブ的な民族性が共存しつつ溶け合っていて、楽しめるのだ。
・ 曲 バンド アルバム
�� Return to the cold sea of nothing / The Worm Ouroboros [ Of things that never were 2009 Ukraine ]
ウクライナはロシアと並んで比較的プログレの盛んな土地柄だと思われるが、ワーム・ウロボロスは出色の演奏技術を誇る。メンバーは５人で、中心人物セルゲイ・グヴォツディワケヴィッチは、キーボード、ギター、ベース、フルートのほかにヴォーカルを担当する才人。しかしこのバンドの特色はもう１人専任の管楽器奏者がフルートやクラリネットを自在に操ることにある。ジェネシス・タイプから出発して、管楽器が交錯し、精緻なドラムスが鳴り渡る。陰影も叙情もある凝ったシンフォで、曲により重厚な暗黒性も見せる。
�� Raindrops / Sunchild [ The invisible line 2009 Ukraine ]
同じウクライナでもこちらはキャメル・タイプの叙情派シンフォ、サンチャイルド。アントニー・カルギルを中心とするプロジェクトであり、彼は作詞作曲のほか、ヴォーカルとキーボードを担当する。オーボエやバスーンの専任奏者や女性バック・コーラス２人を含む総勢１１人のミュージシャンがクレジットされている。曲名からキャメルの「レインダンス」を思い出させるが、演奏力はキャメル以上。そしてたおやなフルートがこれぞシンフォと言わせる典雅さだ。
�� Call of the wind / Artsruni [ Cruzaid 2002 Armenia ]
辺境アルメニアのアルツルニは、６人編成。ギターとヴォーカルのヴァハン・アルツルニがリーダーだが、ここでも専任奏者のフルートが草原に吹く風のように自由だ。軽快なリズムと力強く雄々しいヴォーカル。これほどヴォーカルがうまいのに、インストルメンタル中心なのが残念。曲により目いっぱい引っ張る泣きのギターも印象的。
�� Stop the machine / Linnu Tee [ Linnu Tee 1989 Estonia ]
バルト３国のエストニア８０年代のリンヌ・ティー。６人編成で、ツイン・キーボードの専任奏者に加えて、ヴォーカルとベースもキーボードを弾く。しかし凝ったシンフォというわけではなくて、時代を反映してノリノリのポップな曲が多い。８０年代イエスの影響下にあるが、ヴォーカルのインデレク・パットは、ハイトーンではなくて、むしろガラガラ声の魅力。
�� Tilk / Mess [ Kusi ereselt 2004 Estonia 2004 ]
エストニアは小国ながらドイツ圏にあり複数のプログレ・バンドを輩出している。メスは、金髪で長身の美青年スヴェン・グリュンベルグを中心とする４人組。この人はキース・エマーソンのようにキーボードを弾き、グレッグ・レイクのように歌う。本作はスタジオ盤とライブ盤のＣＤ２枚組。ライブでは荒々しいモーグ・シンセサイザーが無調的な轟音を轟かせ、エマーソンそっくり。そして音楽は、ナイスのようにクラシカルだ。
�� The sea / Holy Lambs [ Salt on the earth 1999 Latvia ]
バルト３国ラトビアのホーリー・ラムも水準の高いシンフォ・バンドだ。５人編成で、アイガースがギターとヴォーカルだが、この曲ではレヴァという女性ヴォーカルが加わり、この人の声が実に少年的。私はずっと男性ヴォーカルだと思っていた。そして大海原のようなゆったりとした空間を描き出すギターが展開する。
�� Short / 7 Ocean [ The mysterious vace of strange entities 2008 Belarus ]
ベラルーシのセブン・オーシャンは３人組で、エレクサンダー・エレトスキーをキーボード奏者とするキーボード・トリオのようだ。しかしＥＬＰというよりも、キャメルのように曲調は密やかで穏やか。枯淡なヴォーカルはクセのある現地語だが、悲哀な感情をしっとりと滲ませている。
�� Anti dolorosm / In Spe [ In Spe 1983 Estonia ]
イン・スぺは、まだソ連だった１９８３年の現地語で歌う８人組。女性１人を含む３キーボードで、フルート・リコーダーの専任がおり、更にヴォコーダーの専任がいる。楽器編成はすごいが、音楽はオーソドックスで控えめだ。キーボード・バンドに泣きギター、そして滑らかなヴォーカルは民族調だ。
�� Gisliar / Pesniary [ Gusliar 1980 Belarus ]
ベラルーシのスニャーリは、写真で見ると９人のミュージシャンが映っている大所帯のクラシカル・ロック・バンド。このアルバムは３７分で１曲、ユンカ・クパフの詩「バロウ」を音楽にしたものだというが、オーケストラや男女合唱さらにはブラス隊が鳴り響き、スラブ民族的でクラシカルな展開。荘厳な男女混声合唱は「原子心母」のようで、この力作を作り上げた創造力に感銘を受ける。
�� The blindness - wife's prayer / From.Uz [ Sodom and Gomorrah 2013 Uzbekistan ]
イスラム教圏のウズベキスタンから輩出したその名もフロム・ウズ。５人編成で、キーボードとヴォーカルの担当が２人いる。しかし、インストルメンタルが中心で、ヴォーカルは、歌というよりもナレーションあるいはヴォイスに近い。この曲は女性ナレーションが神秘的な雰囲気を醸し出すシリアス・シンフォ。そして、キーボードの大河。ラストに再び女声が聴こえる。
[次点] Aas / Pantokrator [ Jai servi seisma 1996 Estonia ]
エストニアのパントクラトールは、５人組でキーボード奏者エリク・サッコフを中心とするようだ。イエス・タイプと聞いて買ったがとんでもない。民謡としか思えない男声の掛け声とヴォーカルに続いて、ややハードなロックの演奏と少しだけ爽やかなヴォーカルが出てくる。民謡とプログレの融合だと思って聴けば、面白味があって納得できる。
○このほか、候補にしたバンド
Karfagen ( Ukraine ), X Religion ( Uzbekistan )
○プログレ／ロシアの荘重な曲１０選（２０１６年２月７日）
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1950149298&owner_id=9666295
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