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2017年05月20日00:18

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「マンチェスター・バイ・ザ・シー」深い悲しみの中で生きる

人生って、本当に思いがけない不運なことも起きる。そして
人は、簡単にはその悲しみや苦しみから、抜け出すことも、
乗り越えることも出来ないことがある。
どんなに周りが支えようとしても、
その支えを受け付けられないほどの苦しみもあるのだと。

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=10258677&id=4207207
http://manchesterbythesea.jp/

ボストンで便利屋として働くリー(ケイシー・アフレック)のもとに、
故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーで暮らす兄の
危篤が伝えられ、急いで着いたときには、亡くなっていた。

兄の遺言は、16歳の甥のパトリック(ルーカス・ヘッジズ)の
後見人になって、一緒に暮らしてほしいというもの。
しかし、リーにはこの町に戻りたくないわけがあった。

パトリックの幼い日、兄の漁船に乗って釣りをし、
リーと戯れるシーンは、海辺の絵画のように美しい。

やがて明かされる、リーの身に起こった悲劇。
この事件の前と後が交互に描かれる。光と影のように。
故郷に帰りたくないというリーの気持ちも理解できる。

しかし、兄の妻は飲んだくれで離婚していて、
パトリックは独り残されており、リーがみるしかない。

リーは、元妻ランディ(ミシェル・ウィリアムズ)と
ばったり出会う。結婚して赤ん坊もできたランディ。
この再会のシーンは美しくも痛ましく哀切だ。

パトリックは、ガールフレンドを二股かけ、
彼女を家に泊め、音楽やアイスホッケーを楽しみ、
今までの父親との生活を何とか保とうとする。

「便利屋の叔父さんの仕事は、ボストンでなく、
この町でもある、僕の生活はこの町に根ざしているから、
引越すのは嫌だ、叔父さんがここに住めばいい」と頼み込む。

しかしリーは、トラウマを乗り越えることが出来ない。
どうしてもこの町には帰りたくないのだ。
どうして?と思うほど、ちょっとしたことで暴力を振るう。
荒んで閉じてしまった心をぶつけるかのように。

それにしても、彼の罪でもあり、罪だと責めるのは酷。
取り調べる警官も、罪には問わないというほどに。
妻が悲しみをぶつけるのはリー。しかしリーも深い傷を負う。

なんと苦しい事件だったことだろう。
兄の友人のジョージはそんなリーをそっと支える。

それでもリーの悲しみは和らがない。住めない…と。
そして、甥の希望を叶えようと奔走し、優しく心を包む。

どの人もやさしい。悪人はいない。
当事者であるリーの心を、遠く近く支えようとする。
濃やかに人の心の襞を丁寧に描いた名作。


この作品は、最初にマット・デイモンの構想で、
彼がリーを演じる予定だったらしいが、
ケイシーに譲り、自分はプロデューサーをつとめた。

彼は、ケイシーの兄のベン・アフレックと親友で、
その弟のケイシーに役を譲ったのだとか。それも、
なんとなく、この映画のジョージとリーの関係を思わせる。

こんなに渋い地味な、そして濃やかなアメリカ映画もあるんだ…。
北東部のマサチューセッツ州、ボストンから2時間の港町、
もっとも英国らしいところと、ヘンに納得した。


もう20年近く前になるだろうか。私が10代の時に、
夏休みの交換留学をした彼の家を、
20年ぶりに、息子と一緒に訪ねた。

この映画の町よりももっと北。ニューハンプシャー州の
ポーツマス。日露戦争のポーツマス条約締結の町。

小型機から降りたら、滑走路が1つの小さなエアポートだった。
やはり映画のように冬で、風が身を切るように冷たかった。

ボストンにも行ったが、マイナス20度。
雪のちらつく日もあった。帰りにロブスターを買って、
丸茹でしてバターソースが、とても美味しかった。

若い時に会って、素敵な青年で憧れたのに、そして
1歳しか違わないのに、日本人は幼く見えるのか子供扱い。
「『卒業』が良かった」と言うと、「まだ早い!」だなんて。
彼は弁護士になって、きれいな銀髪になっていた。

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