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2017年05月13日21:37

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渋谷へ『笑う招き猫』を観にいく

 川崎駅周辺にはシネコンが三つあり、合計するとスクリーンが31あるのですが、この映画を上映しているところはありませんでした。ここで、平日の仕事帰りに観るというのん気なプランはあっさり挫折します。

 なんとなく嫌な予感を抱きつつさらに調べてみると横浜でも上映しておらず、そもそも神奈川県では観ることができません。都内でも渋谷と新宿で一館ずつやっているだけで、近い方の渋谷を調べてみても上映は朝一と夜の二回のみ。しかも、すでに行った人によるとそこはとても小さなところで、さらにゴールデンウィーク明けには夜だけになるとのこと。
 この調子だと、今週末にはもうやっていない可能性すらあります(実際、そうでした)。仕方なく平日に渋谷へ出かけるという、出不精の自分にしてはガンバなみの大冒険をくり広げる羽目になったのでした。

 そこはいかにも渋谷らしい小洒落たものを扱うテナントの入ったビルの7Fと8Fにあり、スクリーンはそれほど大きくないのが一つと小さなのが二つ、『笑う招き猫』は最も小さいスクリーンでの上映のようでした。
 小さいところで一日一回しか上映しないのであれば、すぐ埋まってしまうかもしれないので念のため早めに出かけたこちらの周到さをあざ笑うかのように、チケット購入時に見せられた座席指定の画面では、席がまだ5つぐらいしかふさがっていません。深夜とはいえ、TBSでスピンオフ・ドラマを放送した映画とは思えない入りに戦慄が走ります。

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 ロビーには、20日から公開される幸福の科学の映画、『君のまなざし』の特製パネルが。少し時間が余ったので併設されているカフェでコーヒーを飲んだのですが、ここにも公開を記念して、スピリチュアルソーダなる特別メニューが。さらに驚くべきことに、客は私ともう一人だけだったのですが、その人はこともあろうにそのスピリチュアルソーダを注文していたのでした。マジかよ。
 まあでも、話のタネに飲んでおけばよかったと今になって思います。霊言と称して似てない物真似をくり出すクソ度胸だって身につくかもしれないし。

 カフェの他に小さな売店もあり、見たところスタッフはいずれも女性で4人ほど。売店の人が場内アナウンスも兼ねていたり、見ていると必要な個所にその都度人が入っていく感じで、めまぐるしく交代しながら発券や案内、清掃などすべての業務をこの人数でこなしているようでした。今やすべて映画がデジタルになっているので可能な芸当でもあるでしょうが、えらいチームワークやなと感心することしきりです。しかも、全員が女性なだけあってというべきか、雰囲気も柔らかくて和やかでした。

 ロビーの脇には、スタッフ製作による松井玲奈紹介ポスターが貼られていました。おそらくネット上にあったものを無理やり拡大して粒子の粗くなった松井玲奈の画像が、手作り感を際立たせています。内容は簡単な経歴や、過去作において彼女が演じた役についてなど。取り上げられた作品は『マジすか学園』と『ギフト』と『ニーチェ先生』でした。『笑う招き猫』と作演・主演が同じ直近の『ランドリー茅ヶ崎』を外していることが注意を引きますが、あくまでポスター作成者のインプレッションを書いたのであって、これから映画を観る人に松井玲奈についての過不足のない予備知識を提示することを意図してはいない、ということだと思います。
 こういう作り手のパーソナリティが前面に出る語り口こそが、いかにも渋谷のミニシアターということなのでしょうか。

 私も『ニーチェ先生』で初めて彼女を観ました。あの福田雄一の深夜ドラマなので、相変わらず佐藤二朗がやりたい放題(当人にしてみればやられたい放題でしょうけど)でした。松井玲奈はバイト店員の主人公を執拗に追いかけまわす看護師で、その振る舞いの奇矯さや過激さはたしかにおかしかったのですけど、福田雄一は役者の演技でなにかを伝えようとはあまり思っていないというか、むしろ、演じようとする役者と演じられる役の間の齟齬に興味があるようで、つまり、あまりうまくいかずに少し壊れるくらいを狙う人なのですけど、松井玲奈は与えられた役を破綻なくコントロールしており、それはそれであの中では異質な雰囲気に仕上がっていました。

 AKB出身者がなかなか元AKBという立ち位置から脱却できなかったり、開き直ってそこを足場に商売へ精を出すなか、むしろ、彼女はSKEにいたことが不思議に思えてしまうぐらい、アイドル然としたところがありません。
 元来、役者志望であってアイドルグループをショートカットのために利用した節さえ窺えます。それは純粋なアイドルのファンにとっては好ましいことではないかもしれませんが、そこで思い出すのは"Document of AKB48"における篠田麻里子のコメント、「自分たちはやりたいことがあってAKBに入ったけど、今の子たちはAKBが目標になっている」でしょうか。

 実際、アイドルになりたい人だけのアイドルグループより、異質な存在もとりこんだ集団の方が強そうな感じはするし、運営サイドからすれば踏み台にしてのし上がるつもりぐらいの人間にこそ来てほしいということはあると思います。
 さらにまた、養成所や小劇場からのたたき上げで20代のうちから何度も主役を演じるということもないでしょう。きわめてクレバーな進路選択をした人物だと思います。

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 横浜市鶴見区の防災ポスターで清水富美加を初めて見ました。2011年、今から6年前のことです。地味で見過ごされがちなこの手のポスターですが、大手のプロダクションがこれから売りこむ新人を起用するケースも多く、しばらくして各メディアで頻繁に見かけるようになることも珍しくありません。

 数年後、『仮面ライダーフォーゼ』のヒロインとしてクレジットに名前を見つけ、清水はともかくとして、富美加は珍しい名前なので思い出しました。
 歴代の仮面ライダーシリーズの中にあってひときわコメディ色の強いフォーゼですが、彼女自身もシリーズ屈指のコミカルなヒロインといっても過言ではない活躍ぶりを見せていました。
 舞台が高校で学園物でもあるこのライダーにあって、彼女は重度の宇宙オタク、ろくに友達もなく、学園祭の出し物に小惑星探査機はやぶさのコスプレで参加し、「るんるんぼっくの名前ははやぶさくーん、はやいけど、ぶさくはないよ……」と歌って満場のブーイングを受け、退場させられます。
 後に番組の公式ホームページで明らかにされたところによると、この歌は彼女自身が作詞したものとのこと。それを読んで、とんでもないヒロインが出演しているのだと感心したことを今でも鮮明に思い出します。

 その後、変態仮面の映画化『HK』にも出演したらしいのですが、私が次に見たのは朝ドラ『まれ』のサブヒロインでした。サブヒロインの位置づけは番組によって異なりますが、『まれ』ではアンチテーゼを体現する存在であり、バットマンにおけるジョーカーといいますか、朝ドラですからそれほど頻繁にやりあったりはしませんが、中盤で決定的に対立するシーンもあり、これがなかなかの迫力でネットでも物議を醸し出していました。

 彼女に一方的に思いをよせる幼なじみを演じていたのが高畑裕太で、ドラマ終了後には二人の関係に焦点をあてたスピンオフ・ドラマも放送されました。その番宣で出演したNHKのバラエティ番組では、ずっと間合いを詰めようとする高畑裕太に対し、清水富美加が一貫して拒否の姿勢を貫き、バラエティ向けのギミックとしてそういう関係をアピールしているのかと思っていたのですが、後の逮捕と出家という二つの事件により、あれはけっこうマジだったことが判明してしまいました。

 個人的には、『あまちゃん』以降、唯一最後まで見た朝ドラなので思い入れがあるのですが、『あまちゃん』の後で平均視聴率が20%を切ったのがたしかこれだけだし、前述の事情で再放送のない封印された朝ドラとなってしまいました。

 その後、おぎやはぎの深夜のコント番組『SICK』にも出演し、たしかこれは月間ギャラクシー賞を受賞していたと思います。

 出家の後に放送された『竜の歯医者』ではヒロインのアフレコを担当し、これもなかなかの佳作でした。
 こうして見てくると、かなり順調にキャリアを積み重ねてきており、所属事務所レプロエンターテイメントのその方面における手腕はなかなかのものだと認めざるをえない気はします。

 役者というのはお座敷がかかって始めて仕事にかかれる職業です。どこででどの役をもらうかが評価を左右するのに関わらず、基本的には自分で選べないきわめて投機性の高い職種だとも思います。
 時流にあわない企画、支離滅裂な脚本、要領を得ない演出にあたってしまうと、どんなに力のある俳優が頑張ったところでどうにもなりません。それでも、観客や視聴者にとっては最も手前にいる存在ですから、評価はすべてそこに帰してしまいがちです。注目度の高さゆえ、決定権はほとんどないにも関わらず功罪ともに過大評価されがちなのが役者という存在といえるでしょう。
 そういう状況にあって、彼女はかなり恵まれた存在だったと思います。多くの人間が渇望しながら手にできなかった幸運を弊履のごとく投げ捨てたのには、私も少なからず驚かされました。

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 宣誓されてしまえば、こちらとしても、「お、おう」と若干腰は引けがちながら応じざるをえないところではありますが、例えば、桜庭ななみも仕事には恵まれなかった方かなとは思います。いや、むしろ、これでも運のいい方かもしれないのですけれど。
 あと、井上真央も子役からずっとやってきて経歴は長いのに、出演作を眺めるとカンボジア並みに地雷だらけで逆にすごい、よくあれだけ踏めたものだと別の意味で感嘆の念を禁じえません。そして、さらにそれであのポジションにとどまっているのですから、ユリ・ゲラーじゃなくてヘレン・ケラーばりに奇跡の人といえるでしょう。

 前置きが長くなりすぎてもうほとんど終盤ですが、そんな二人がW主演、先行して放送されたスピンオフ・ドラマも楽しめたとなれば、映画への期待が高まって当然といえます。
 もちろん、これは危険な兆候でもあります。ハードルが上がりきった状態で観て、失意のどん底に叩き落とされた例は枚挙に暇がありません。『みんなエスパーだよ』の悲劇はまだ記憶に鮮やかです。
 座席の埋まり具合でかなり冷水を浴びせかけられたとはいえ、油断は禁物。いよいよ開場時間を迎え、緊張しながら指定のシートにつきます。映画が始まる前にいくつかCMが流れ、その中にのんこと能年玲奈の出演するものがあったりして、これまた微妙な気分にさせられますが、なんとか気分を立て直すといよいよ本編が始まりました。

 上映館を調べるため公式ホームページも少し見たのですが、この原作を実写化するにあたって、なんとしてもクリアしなければならなかった課題は、役者に漫才を演じさせることだったようです。実際、観にいく人にとっても、そこが最も危惧した部分ではなかったでしょうか。
 ダンスやパフォーマンスなら吹き替えがあるし、演奏なら上から音をかぶせることもできますが、漫才は芸としてシンプルな分だけ、逆にごまかすのは難しいといえそうです。一昔前、やはり、駆け出しのお笑いコンビを描いたテレビドラマがありましたが(筒井道隆が主演だったような)、漫才のシーンは省いたり無音にしていたそうです。この処置を一概に逃げと非難することはできないでしょう。それぐらい、お笑いをドラマの中でやるのは難しいと思います。

 とはいえ、スピンオフ・ドラマでもっともよかったのは、第一話冒頭のアカコとヒトミが一緒にネタを作っているところだったし、最終話終了後の映画の宣伝で松井玲奈は「映画の方ではちゃんと漫才もやっています」とあえて言及していました。多くを論じなかったところに、かえって自信を感じました。

 結論から言ってしまうと、映画もその中で演じられた漫才もおもしろかったです。
 映画は、きわめて流動的でめまぐるしく強弱の入れかわる人間関係や、ズームでフレームを操作して人物を画面から出し入れするところに飯塚節が炸裂していました。
 漫才については、やはり、松井玲奈と清水富美加という2枚のカードありきの企画だったのではないかと思います。この二人がそろわなければ、そもそもクランクインしなかったのではないかでしょうか。

 この映画のせいで、今後しばらくドラマや映画の中でお笑いを避けて描くことは難しくなったかもしれません。とはいえ、これだけのクオリティへと至るのは生半可なことではなく、業界的には「余計なことをしやがって」ということのような気がします。あとこの水準までもっていけそうなのは松岡茉優ぐらいしか思い浮かびません。

 主要キャスト以外では、マネージャーを演じた東京03の角田晃広が印象的でした。『ランドリー茅ヶ崎』の第一話のゲストとして、周囲の雰囲気にすぐ流されてしまう自分を嫌悪するサラリーマンを巧みに演じていました。今回のキャスティングはその実績を買われてのものだと思います。ちなみに、『ランドリー茅ヶ崎』では彼が握りっ屁をしていました。飯塚健は握りっ屁が好きみたいです。子どもかよ。

「客をなんだと思ってるんだ。時間と足を使って来てくれてんだよ」

 ストレートすぎる正論で、悪くすると陳腐になりかねないこの台詞を任されていました。他にも、出番こそ多くはないものの、「いいことと悪いことはいっしょにくるんだよ」や「負けんじゃねえぞ」といった台詞で映画の要所をしめていました。
 不本意なテレビの仕事で腐っている二人に向かって、「怒られたら俺が謝ってやるから」とその場でカフェテラスのテーブルの上に立たせて、いきなりライブを始めさせるシーンはありえないだろうけれど、妙に突き抜けた爽快感があったし、ふざけて録音部の仕草で焼けた肉を差し出してくる二人に対して、呆れながらも付き合って口で受け取るところでは不思議と温かさが伝わってきて、だからこそ、彼が去っていった時、ヒロイン二人の関係に大きな影響が及んでくる流れにも納得がいきました。

「うどんでも作りましょうか」
「そば派だから」
「じゃ、そば作りますよ」
「でも、麺棒ないし」
「いや、粉からは打ちませんよ?」

 だいたいこんな感じで、日常のなにげないやりとりに微細な違和感を混入して笑いに転化させる飯塚脚本にあって、まっとうな熱い台詞を映画の中で過不足なく機能させられるかはひとえに役者の力量だと思います。決してお笑い芸人の映画だから、本職も仕込んでおこうというようなことではなく、たしかにこの人が適役だったなと思えるキャスティングでした。

 思いつく欠点としては、スピンオフ・ドラマの時にも感じたことですが、設定に反してこの二人が売れない芸人にはまったく見えないことでしょうか。いまテレビで活躍しているどんな女芸人よりも、劇中の二人の方が売れてるオーラだだ漏れです。
 勢いのある若手を起用したからだし、売れてない芸人の売れてないオーラを持ちこむと映画そのものが変成して洒落にならなくなるかもしれないので、仕方ないのかもしれませんが。

 そんなわけで十分に満足したのですが、終わって幕が下り、明るくなった周囲を見渡してみたら観客は自分も含めて13人でした。おもしろかったんですけどねえ。

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