日の丸の飛機の残骸
比島詠 詠人不知
無残やな見渡す限り日の丸の飛機の残骸
此処の路傍に、其の叢に、おゝあの藪蔭にも、此の畠にも
翼は折れ、エンジンは飛び、胴は逆立ち
色なお褪せぬ日の丸の印は、あはれ、裂けて散る
遥かの山麓に至るまで、キラキラと目を射るものは銀翼
整然たるマイスの列を乱すは錆びたる金属の塊
之を操りて大空を翔り来たり、群がる敵機に割って入りたる
若きパイロットの血潮は空し
これを造るにその生活の全てを捧げつくせし我が同胞よ
来たりても見よ此の姿
熱帯の午後の太陽灼くが如く
水牛悠然と群れて残骸を踏んで行く
これぞわが民族の運命なるかや
捕われの身を載せて高速度の米車は走る
往けども往けども累々たり、
日の丸の飛機の残骸
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日の丸の印: ひのまるのしるし
マイス: とうもろこし
我が同胞よ: わがはらからよ
民族の運命: はらからのさだめ
高速度の米車: はいすぴーどのべいしゃ
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S21〜23年頃の詠と思われます。
飛行機の死屍累々、絶望的な戦場で、兵があれほど待ち望んだ日の丸の翼。
場所はルソン島、北部、大量の残骸という手がかりから、クラーク飛行場ではないか、と推測されます。
アリさんが、この種の詠を日記に刻むのは、この風景が過去のものではありますが、今を表し、すぐ先の未来を描き切っているからです。
波打ち際に砂の塔を積み上げるようなことです。 しかし、この作業は続けます。
止むに止まれぬモノに導かれて、この作業を続けています。
こんなことして、なんになるの?って?
何にもならなくて、いいし、何かになるということもなく、ただ、自らのために、波打ち際に砂の礎を積んでいます。
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