初めて見たもの
吉田嘉七
米もないでせう
金もないでせう
あなたの背負ふリュックサックも
生活の苦しみも重いでせう
だけど
女が窓から汽車にのる
生きてゆくため、食ふためには
人は何でも捨てるでせう
復員列車にわり込んで
他人の足を踏むくらい
そいつは何でもないでせう
だけど
女が窓から汽車にのる
通り道から便所まで
なるほど兵隊でいっぱいです
あなたの入る場所もない
けれどのらねばならぬとすれば
ガラスの壊れた窓しかない
これは止むを得ぬことでせう
だけど
女が窓から汽車にのる
シンタも心も弾丸傷だらけ たまきずだらけ
だうにか生きて帰つて来た
わたくしたちが日本を見る
その最初の汽車の窓から
ああ
女が窓から汽車にのる
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