野戦病院にて
吉田嘉七
負傷の友をとわむとおとずれし いたつきのとも
前線の野戦病院は崩れたる家そのままに
荒れ果てし床に伏したる枕べに
看護婦の姿は無けれ、一輪の花の咲くあり みとりめ
顔半ば失える兵、片頬の髭あと青し
その頬に笑み浮べ、ただれし唇ゆがめ
静かなる言葉に戦いのさまをば語り
失いし部下の功のみを言う
折からや飯バケツ足もて蹴りてベッドに運ぶ
あわれ腕ささげし兵の音たてて運び行けば
二つの脚断ちきりし隣なる軍曹の
箸あやつりてかの戦友に食わせむとする
皇み光に心を生きて、 おのが肉体の すめみひかりに
光りをうしなえる兵も再び勢い征く日を
楽しみて木蔭に憩い、零れ日に膝を伸ばして こぼれひに
掌の光りをひとり懐かしめる
なべてこはひそけし、音無き世に生くる者
その背にしずこころなく花散りかかり
半身を捧げし兵、今しその荒屋の隅に
あます半身も亦捧げ終わりしとぞ
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