プログレッシブ・ロックが誕生して今年で５０年。最初のプログレ作品は、７０年代全盛期には、ムーディー・ブルースの「デイズ・オブ・フューチャー・パスド」だというのが定説だった。今では、ビートルズの「サージェント・ペッパーズ」を持って最初のプログレとするという説もある。いずれにしても、半世紀も前の作品を振り返ってみると、私たちはすごすぎる先祖たちを目の当たりにすることになる。
・ 曲 バンド アルバム
�� Nights in white satin（サテンの夜）/ Moody Blues [ Days of future passed / UK]
すべてはこの曲から始まった。ムーディー・ブルースは、シンフォニック・ロックの祖。ヴォーカルのバックはメロトロン。間奏にはオーケストラ。そしてフルートが舞う。ロックとオーケストラが共演した最初の作品であり、しかし実際には別々に録音したものを重ねている。ジャスティン・ヘイワードの繊細なハイトーンのシャウトが、これほど悲哀に満ちて胸に迫る曲はない。ラストの詩の朗読も当時としては斬新で実験的だった。
�� You keep me hanging on / Vanilla Fudge [ Vanilla Fudge / USA ]
ヴァニラ・ファッジは、１９６７年でこの重さ。それまでのブルース・ロックなどとは一線を画するとんでもないものが出てきたので、人々はこれを「アート・ロック」と呼んだ。他人の曲を全く異なったサイケデリックでアヴァンギャルドなものに相転移。しかもこれでヒット曲だ。ヴォーカルに深い哀感があり、最新テクノロジーだった電気オルガンを弾き倒す。半世紀経った今もこれほど進歩的で芸術的な音楽はない。突然変異だったのか。それとも人類は劣化しているのだろうか。
�� Interstellar overdrive（星空のドライブ） / Pink Floyd [ The piper at the gate of dawn / UK ]
ピンク・フロイドのデビュー・アルバムは、美青年シド・バレットが創造したサイケデリア。ロックのビートが消えて無調的なシーンに変わるとそこは魔術的な空間。中期までの彼らを特徴づけるシュールな光景は、ギターとオルガンが重なり合って生まれてくる。クラウト・ロックの祖。この曲では、幾多の銀河が暗い襞を作るその奥までも垣間見せる。やっぱり人類は劣化しているのか。
�� Rondo / Nice [ The thoughts of Emerlist Davjack (ナイスの思想） / UK ]
この年、キース・エマーソンが結成した４人組ナイス。日本では「ナイスの思想」と邦題が付けられたように、難解な前衛性を持つ音楽と位置づけられていた。オルガン・ハードの祖。この曲は、後にＥＬ＆Ｐのライブでも多用され、キーボード・ソロでエマーソンが派手なアクションを見せて聴衆を沸かせた。ハードなギターも弾かれるが、やはりエマーソンの超絶な速弾きの指使いが卓抜だ。
�� Heroin / Velvet Underground [ The Velvet Underground & Nico / USA ]
ニューヨークでアンディ・ウォーホールに見出されたヴェルヴェット・アンダーグラウンドの第１作。演奏がうまいとは言えず、反社会的な歌詞なので、パンク・ロックの祖という位置づけもあるようだが、退廃文化の象徴として当時は前衛的だったし、この曲のように追随を許さない音楽性のものもある。「リリシズムからグロティシズムまで」の呼び声どおり、曲の前半は憂いのあるヴォーカル、ところが「ヘロイン、僕の妻、僕の人生」などと歌ってから壊れたヴァイオリンのような高い電気音が脳神経に突き刺さる。ＣＤよりもレコードの方が、超音波攻撃で頭痛がするほど刺激的。人が発狂する過程を描いているのかも。
�� Foxy lady / Jimi Hendrix [ Are you experienced / UK ]
ジミ・ヘンドリックスは、ギターの天才として、当時のサイケデリック・ロックを代表する。キース・エマーソンは、ヘンドリックスとバンドを組もうとしていた。１９７０年９月に急逝。誰にも弾けないと言われたギターの技巧だけでなく、歯で弾いたり、背中に回して弾いたり、星条旗を燃やしたりしたパフォーマンスもセンセーショナルだった。この曲は第１作の第１曲め。「紫の煙」のさきがけのような曲だ。米国生まれの黒人だが、英国に渡り、白人系ブリティッシュ・ロックの世界で著名となった。
�� Lucy in the sky with diamonds / Beatles [ Sgt.Pepper'd Lonely Hearts Club Band /UK ]
１９６３年に結成したビートルズは既に本作で第８作目。最初はビート・ポップのアイドルだったが、本作でロック初のトータル・コンセプト・アルバムを打ち立てた。１０００万枚以上売れて、この後、ロックはアルバム単位で聴かれるようになった。シングルのままならプログレの隆盛はなかっただろう。音楽性はビート・ポップとあまり変わらないようにも感じるが、バックにハープシコードやメロトロン。メロディーの良さやハイトーン・ヴォーカルもシンフォ・プログレに近いものがある。
�� A whiter shade of pale (青い影）/ Procol Harum [ Procol Harum / UK ]
「青い影」のヒットで知られるプロコル・ハルムは、作詞家を含む６人編成。ピアノとオルガンのツイン・キーボード体制で、オルガン・ロックの祖。ピアノのゲイリー・ブルッカーがイギリスらしい陰影たっぷりのヴォーカルで歌う。リズム隊の音は軽いが既に十分にシンフォニックだ。
�� No face, no name, no number / Traffic [ Dear Mr. Fantasy / UK ]
トラフィックは、スティーヴィー・ウィンウッドが結成したバンドで、この人は、ハイトーンの切々たるヴォーカルのほか、オルガン、ピアノ、ギター、ベース、パーカッション、ハープシコードを操る才人だった。４人組のバンドで、メロトロン、サックス、フルートも入っている。トラッドを基調として、ジャズ、ブルース、サイケの要素を取り入れたというプログレッシブな混合物。この曲は、オルガンとメロトロンが流れるスロー・バラードだ。
�� Love is in the air / Shocking Blue [ Singles A's and B's / Holland ]
ショッキング・ブルーはオランダ・シンフォの源流だと私は思う。６７年第１作では美青年のリーダーが作詞作曲ヴォーカルを取り、メロディー・メイカーとしての才覚が抜群。この人は後にプログレ・バンド、ギャラクシー・リンを結成する。この曲は、カモメの鳴き交わす声が海辺を想起させるロマンチックなラブ・ソング。この後、バンドに女性ヴォーカリスト、マリスカ・ヴェレスを入れて、「ヴィーナス」で一世を風靡した。
[次点] Created by clive / Syn [ Original Syn ]
最後にプログレッシブ・ロックの源流という意味で、イエスのクリス・スクワイアがいたシンを挙げることにしたい。彼らもまだ若く、ビート・ポップの香りが残るものの、オルガンを使った演奏はしっかりしているし、コーラスも魅力的だ。
○そのほか、候補にしたバンド
Birds, Bee Gees, Cream, Deep Feeling, Doors, Frank Zappa, Hollies, Jeferson Airplane, Kinks, Monkees, Move, Quelli(伊),Rainy Daze, Rolling Stones, Ron Geesin, Simon&Garfunkle, Who
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