海音寺潮五郎「天と地と」読了。
いや素晴らしかった。
最大の見せ場、謙信と信玄の激突する「第四次 川中島の戦い」が、まだなのに。
みるみる残りページが少なくなるから。
「あれ?ページ配分間違えてるよ?」
「行くぜ俺たちの川中島の戦いは、これからだ!海音寺潮五郎先生の次回作にご期待ください!」
な、打ち切りエンドかと思ったら!
見事!
武田の「啄木鳥作戦」も
謙信の「車がかりの陣」も
漏らさず、登場!
武田の本陣に殴りこんだ謙信が斬りかかり、信玄が扇で受ける名シーンも、あるじゃないですか!ジャーン!
そうか!いちいちアクションは書かなくていいんですね!
戦国小説は、火力じゃない!
お互いに「俺が上だ」と思ってる謙信と信玄の、デスノートばりの心理戦!
敵に「よし、今だ!100パーセント勝てる!」と思わせて、出てきた所を150パーセントで叩くという。
さらに!
さらにさらに!
海音寺潮五郎先生、上杉謙信の童貞力を300パーセント、アップ!
川中島の決戦を前に、童貞武将、上杉謙信が、片思いし続けてきた年上の姫様が、病で明日をも知れない命に!
いても立ってもいられなくなった謙信、早速駆けつけ、「俺は、お前が好きだ!」と男子中学生ライクにド直球に告白!
姫様も「ずっと前から好きでした」と、ボカロの歌詞の様な相思相愛!
「私はもう死にます!最後の思い出に抱いて!」とすがりつく姫様に、「やべっ、セックスってどうやんだっけ」と焦る謙信。
姫様の体を案じた謙信は、その時はセックスせず、「武田信玄を倒したら結婚しよう」と、バリバリに不吉なフラグを立てて、清い体のまま、川中島へ向かいます。
激戦を終え、「武田信玄に一泡吹かせた」と、ご機嫌で越後に帰ってきた謙信に届いたのは、姫様が死んだという知らせ。
姫様が死んだのは、ちょうど謙信が、武田の本陣で信玄に斬りかかった頃。
「俺を勝たせる為に、あいつは…」
ここで、昔の香港映画の様に。
ウルトラセブンのエレキングの回の様に。
余計なエピローグなく、いきなり劇終!
泣きましたね。
夕飯食ってた中華料理屋で、思わず泣いちゃった。
姫様が死んで、バッサリ終わるのがいいよな。
続く、あとがきで、海音寺潮五郎先生が、「いや〜、自分で書いたのに、読み返すと面白くてビックリ」みたいな事を書いていて、納得です。
あとがきで、朝日新聞社から「成長物語を書いて欲しい」と依頼を受け。
「わかりました。上杉謙信の話にします」
「ちょ、成長物語と言ったでしょ!」
「だから、謙信が赤ちゃんの時から書きます!」というやり取りがあったそうですが。
謎に満ちた武将、上杉謙信を、「愛に飢えながらも、愛を求めず、遂に愛を得なかった、永遠の少年」として描いたのは、さすがです。
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