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2017年02月13日22:10

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平安五神伝二作目 発つ鳥跡を濁す 1章−3 救出

序章   http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1954301029&owner_id=51444815
1章ー1 http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1957642461&owner_id=51444815
1章ー2 http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958604276&owner_id=51444815


「こどもぉ!こどもぉぉおお!!」

怪鳥が燿の抱える少女を見つけたらしく、女の顔がむせび泣くような声を上げて飛行速度を上げる。後ろ目でそれを確認した燿の速度も増す。深紅の羽が羽ばたき、小さな無数の煌めきが振り撒かれた。

「(火の粉・・・?)」

光元の視界に映ったそれは燃えている木が爆ぜる時に出るような微小な火の粒・・・しかしそんな、夜空に見える星粒のような光で怪鳥が怯む暇もなく、怪鳥は赤い煌めきの中に突進していく。
しかし怪鳥は、人の頭部を持つものなら多少でも頭を働かせるべきだったのだ。
怪鳥に触れた火の粉が風で煽られたように一気に膨張し、光元を掴む足より上部を包み込んだ。刃を弾く羽毛も、火炎の前ではまるで役に立たない。焼ける痛みにたまらず爪が開かれ宙に放り出される光元。浮いた少年の肢体を、先読みし素早く回り込んだ燿が空いた片手で抱き止めた。

「あ、ありがとう・・・」
「どーいたしましてっ!」

少し疲れた表情を見せる光元の横で、兄の代わりに返事をした少女が満面の笑みを作る。
その様子を、地上の二人は足を止めて見上げていた。

「誰だあいつら?妖異のくせに人間の味方しやがるとか変わり者だな」
「違いない」

この玄武や黄龍は光元の配下であるが故に人間を守護する立場だが、本来妖異と人間は住む世界から違う間柄なのだ。種族によっては敵意を持っていたり、先程の怪鳥のように食物と見なしている者も居るほどである。

「それにしても、後で光元の小言が飛んできそうだな。どうしてもっと早く助けなかったのか、と・・・」
「人間の目を気にしなくていいとか、あいつの命を保証してなくていいっつーなら元身に戻ったり落雷の雨を降らせたりしたっていいんだぜ・・・お・れ・は」

憤慨する黄龍の言葉に玄武はやれやれと肩を落とす。

「・・・そういう思考だからいつまでも馬鹿なんだ、お前は」
「あ?」
「不本意でも平安京の人間を守るという立場に立った以上、ただがむしゃらに力をぶつけて敵を倒せばよい、という状況は無いに等しいだろう。周囲に気付かれず行動し、建造物や他者を巻き込まず攻撃する方法を考えていかんとな。仕事前に毎度こんな場所まで敵を追い立てねばならんというのは・・・面倒に過ぎる」

玄武は降下してくる三人へ首を振り仰ぐ。背中で括った黒髪が跳ねる。

「それを考えると、先の火の粉の攻撃は非常に有効だった。的確に敵を屠り、光元には傷一つ与えていない・・・」

感心の色を乗せた声で呟く玄武の横で、黄龍は興味なげに青布を掛けた肩を回した。

「かったりーなぁ。そういうちょこまかしいのは俺のガラじゃねぇよ」
「なら勝手にしろ。忠告はしたからな」

これ以上は無駄とばかりに玄武は肩をすくめ、地上に降り立った三人の元へ向かうべく木の枝を飛び降りていく。

「俺はずっとそうやって生きてきた・・・戦いに明け暮れて、好きに力を振るって、目の前の邪魔者全部叩き伏せれりゃいいんだよ」

黄龍は頭上で火だるまと化した怪鳥に視線を向ける。光元という盾もなく、滑空する速度もないそれは敵と呼ぶのも愚かしい・・・単なる的だ。数々の制約で縛られた己の鬱憤を総て乗せ、低く唸る。

「・・・死ね」

途端、巨木の枝のような光の筋が異形の鳥を貫いた。一瞬で黒炭と化した妖鳥は、散り散りになって青い空に消えていく。済み渡った空に、あるはずもない桃色の花弁を見た気がした。
気晴らしの反動か、一瞬脳裏によぎった少女の笑みに黄龍の眉が僅かに下がる。

「それで・・・よかったんだ・・・」



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