今回、ニューヨークへ訪れた理由の一つとして、ニューヨーク近代美術館(MOMA:モマ)に行くという目的があった。
音楽やお芝居の勉強で訪れる人がいるように、ニューヨークは芸術活動が盛んな都市であり、そんな街にある美術館や博物館は本当に素晴らしいものばかりだ。
中でも、私の好きな現代芸術を専門に扱うモマは、展示物や展示内容も特に素晴らしく、現代アートの世界でトップと言っていいほどの充実ぶりである。
のはずだ。たぶん。
12月24日のクリスマスイブ、マンハッタンのど真ん中に位置するモマの前で、私はたたずんでいた。
確か閉館時間はまだのはずなのに、入場用の扉が押しても引いても動かない。
館内に来館者の姿が見えるので、営業をしていないわけではなさそうだ。
さてどうしよう。
私は直感的に、二つの可能性を導き出した。
ひとつは、クリスマスイブのマンハッタンは、それはそれは人が多くとても賑やかなので、きっとモマに訪れる人がいつもより多くなってしまい、来館者が静かに作品を鑑賞できるよう、美術館側が入場規制を実施したというパターン。
もうひとつは、クリスマスイブなので通常の営業時間より早く閉館してしまったというパターン。
今の時刻は15時過ぎ。
入場規制をされたならば、少し時間をおけばそのうち入れてくれるだろうと思い、しばらく扉付近で様子を見ることにした。
私より後から来た人たちも、私と同じく扉が開かないことに困惑し、私と同じく扉付近で様子を見ている。
時間が経つにつれ、入り口付近では訪れた人々がだんだんたむろするようになってきた。
そうしてるうちに中から警備係の人が出てきて、入り口付近で周囲の人に何やら呼び掛けている。
どうやら入り口付近でたむろするのは邪魔だから、そこをどけということらしい。
まあ、言われるとおりに扉付近から離れ、敷地の外の歩道まで下がった。
すると突然「ガラガラガラガラ」という音が聞こえてくる。
んっ。
音がする建物の上部を見上げると、なんとシャッターが下りてくるではないか。
あー終わったー。
12時間も飛行機に乗って地球の反対側まで来たのに終わったー、一番の旅の目的が果たせずに終わったー、もう少し早く来れば入場できたかもしれないのに本屋さんとか寄り道してて終わったー、がー。
次の日の25日はクリスマスなので、米国の国民の休日みたいなもんで、当然、美術館はお休みとなる。
翌々日の26日はもう帰国する日なので、早朝から空港へ向かわなければならない。
頭を掻きむしって、地団駄を踏んで、遠吠えをしたくなるところである。
んが、実際はそんなに落胆しなかった。
残念な気持ちはあるが、その状況を素直に受け入れ、とても冷静でいられた。
「また来りゃいいや」
素朴にそう思えたのである。
この感覚を説明するならば、知らない場所のことは非常に遠くに思えて実感もないが、一度でも生活をした場所のことは、遠距離にあってもとても身近に感じるものだ。
私は今回の旅行でいろいろな苦労をしたし、何度か失敗も経験した。
おかげさまで私は、もう道に迷ったり、地下鉄を乗り間違えたり、変なことでボラれたりすることは、以後あまりないだろう。
マンハッタンの歩き方が多少なりとも身に着き、ニューヨークが私の知る街となったのだ。
経験値は低いが私はニューヨーカーなのだ。
たいしたお土産は購入してこなかったが、持ち帰ったものは大きく、充実した旅であった。
今こそ言おう。
「I’ll be back」
↓米国に到着後、JFK空港からマンハッタンへ地下鉄で向かう際、乗り場を間違えて電車を一本乗り逃がし極寒の中で30分以上待たされるの図。
↓帰国当日、地下鉄で火災が発生したため電車が運休となってしまい、搭乗予定の飛行機の出発時間までにJFK空港へ到着できないかもしれないとちびるくらい焦ったが何とか間に合って膀胱が緩んでいるの図。
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