(画像は
小沢から望む旧 名栗村の朝、
八坂神社と熊野三社大権現、
畠山重忠伝説の「馬乗馬場」)
7、小沢峠からのコース紹介
山旅の様子の前に、まずは自分が産まれた年、昭和50年発行のガイドブックから、この日 歩いた小沢峠から棒ノ嶺までのコース紹介を引用する。
棒ノ嶺：
広びろとした明るい山頂には春にはワラビがもえ、秋にはススキの銀の穂波がゆれる。広い展望を誇り、まろやかで優美な姿に魅力がある。棒ノ折山とも呼ぶ。
「飯能からのバスを小沢で下車する。開運橋を渡り、広い道を小沢部落の中を歩いて行く。
この道は小沢峠を越え、青梅市の成木への自動車道だ。新しい道だから途中 工事中のときは沢沿いの小道を登ればよい。
小沢峠は南側のすぐ下に成木の部落が見え、明るく開けた峠だ。
(中略) 奥多摩や奥武蔵の展望は楽しく、やがて意外な平地に出る。
いまでこそ植林が発達しているが以前は広い草原で、馬乗り馬場という地名をもっている。
畠山重忠がここで乗馬の練習をしたとも、黄金を埋めたともいう。
尾根は傾斜を増してピークのいくつかを越えると、三角点を持つ黒山に着く。
奥多摩側からの道も登ってきている山頂は雑木のため見晴らしはないが、くだりの道からは棒ノ嶺のドームが真近にのぞめる。
ゴンジリ峠はそこから少し登ったところにあり、一般的な意味の峠とは少し違う。(中略) だがやはりひと休みしたくなるのは、峠の名からくるものだけだろうか。
棒ノ嶺は、直線を引いたような赤土の道が、天に突きぬけるように登ったすぐ頭上である。
南に関東平野、西に奥秩父へ続く尾根筋、南に川苔山を中心とした奥多摩の北東部、北は日光、上越から浅間の煙まで、これが棒ノ嶺山頂の展望である。」
(ブルーガイドブックス「奥武蔵と秩父」(奥武蔵研究会)(1975年 昭和50年)
この本は、「奥武蔵と奥多摩を結ぶ小道」というコラムを設け、仙元峠などと並べて棒ノ嶺と小沢峠に触れている。
「秩父から日原にぬける道のほかに、多摩川のもっと下流の、流れのおだやかになったあたりへ出る道もかなり利用されていたようだ。
名栗村から青梅市へぬけるものがそれで、現在でもかなり往来が激しい。
その中での異色は棒ノ嶺で、畠山重忠が馬で越えたという言い伝えもある。そのとき折れた棒の半分は、奥多摩側の登山道のほとりの小祠の 棒の折さま がそれだと人は言う。
しかし、これは金精信仰と強い者への憧れがむすびついたのであろう。
棒ノ嶺から、尾根は高度を落として小沢峠に着く。
最近(尾根の直下に) 立派な自動車道ができて、以前のようにそこはかとなく感じられた山里を結ぶ峠のペーソスも、経済の要求に打ち消されてしまった。
(中略)
しかし取り残された小道や山道の幾筋もが土地の人たちをつないで存在しているのだから、心ある人は土地の人たちの足跡を辿ってみるとよい。」
続いて、少し時代を遡り 昭和29年に発行された奥武蔵のガイドブックから引用する。
「これは名栗村の入口の小沢から、黄金色のまるい夏蜜柑のような峰を光らせている棒の嶺へ登る、近年新しく開かれた水々しく(←原文ママ)新鮮なコースである。
まずバスが飯能から四十分で名栗村へ入ると、すぐに縁起のよい名の開運橋停留場がある。ここで降りて、清冽輝くばかりの名栗川を開運橋で渡ると小沢の部落で、間もなく小沢峠への小暗い登りが始まる。
小沢峠は里近い雰囲気のうちに、慕わしい峠のよさを充分に湛えて、奥武蔵の峠のうちでも出色のものであろう。
峠の頂上には、ベンチ二つのほかに指導標が立っていて、私たちの行く棒の嶺への尾根道を指し示している。
尾根筋の道は、綺麗に踏まれて続いて居り、左下にはひそやかな成木の谷が見え、極指の部落がどこか別の国の村みたいに嵌め込まれている。
やがて、極指の真裏に当る掃き清められたように清潔な山の神を過ぎると、尾根は広い草原になり、菱形の名栗の谷が、まるで箱庭細工のように視野に拡がる。
昔、平将門が馬乗りの練習をしていたという伝説のある馬乗馬場がこのあたりで、暫くの間、この売り出しコースの最高潮がつづく。
左手に、先程から見えていた高水三山の一峯 岩茸石山から名坂峠、常盤の前山(840米)と連なった尾根は、やがて私たちの歩く県界尾根と一緒になるが、そこは842.3米の三角点が置かれ、黒山といわれる。(中略)
黒山から急降下して、今度はややゆるく登ってゆくと、名栗鉱泉への道を分つ権次入峠(900米)である。
もっとも、峠らしい気分のしない草地の尾根で、目の前には真丸い棒の嶺がもっくりと盛り上っている。
昔、岩根常太郎が「奥多摩の北斗星」と言った棒の嶺は「奥武蔵の南十字星」、始終 黄金色の群山中の星である。草山ゆえ、眺望はいうまでもなく素晴らしい。」
(マウンテンガイドブック「奥武藏」(大石真人)(昭和29年・1954年)(朋文堂)
この大石真人 氏のような生き生きとした文体は今時のガイド本では見かけない。
写真頼みでビジュアル過多、右に曲がれ左に渡れと手取り足取り、一見丁寧だが味も素っ気もない今時の案内本の文章のつまらなさが浮き彫りになる。
(国土地理院の地形図にはまだこの時期は「棒ノ嶺」とのみ記載されていたので、登山者を惑わせないよう、「一般には正しいとされている 棒ノ折山」を使わずに地形図表記に従っているようだ。)
12月4日(日)
小沢峠→馬乗馬場→黒山(842)→権次入峠→棒ノ嶺(969)
→槙ノ尾山(945)→長尾ノ丸(958)→棒ノ嶺に戻り、百軒茶屋→清東橋
8、名栗の山村風景
秩父夜祭が終わると、奥武蔵にも冬が訪れるという。初冬の奥武蔵から奥多摩へ、畠山重忠の「棒ノ折れ」伝説を求めて歩く。
池袋駅を出発して西走する西武線の車窓から、晩秋の名残を微かに曳いた朝空が覗く。午後から雲が増える下り坂の予報だが、天気はもつだろうか。
飯能駅前の吉野家で慌ただしく朝食を掻きこみ、久しぶりに国際興業の「ヤマノススメ」ラッピングバスに乗り込む。
山行記録を見返すと、約10ヶ月ぶりとなる奥武蔵だ。
今年1月、ウノタワから小持山・大持山を歩いて雪と「雨氷」の幻想的な衣装を纏った尾根を逍遙し、畠山重忠 伝説の残る妻坂峠から名郷へと下りた山行は ひときわ印象深く心に刻まれている。
バスの車窓を流れる風景はやがて徐々に平地から丘陵を盛り上げ、やがて山間の景色となる。
緑濃く薄暗い植林の山が両側から迫り、谷底を縫うように走るバスから見上げるとちょっと息苦しさを覚えるほどだ。
「小沢」(こさわ)で降りたのは自分一人。まだ朝陽が届かない谷筋に人影は無い。
名栗川にかかる橋にさしかかると、橋からの景色に目を奪われた。
音を立てずにゆったりと流れる名栗川の両岸には古い民家が立ち並び、遥か向こうの山の端は朝陽に柔らかく染まっている。
この名栗の谷に陽の光が満ちる前の、束の間の朝の静寂が薄い靄のように穏やかな風景を浮かべていた。
誰しもに郷愁を呼び起こさずにはおかないであろうその優しい景色に暫し見とれる。
橋を渡ると材木業者の貯木場を見る。杉の木を切って束ねたものが積まれ、まだ山中から伐り出して間もないと思われる大木が横たえられていた。
名栗村では昔から林業が盛んに行われていた。
次々と伐り出された木材は筏に括りつけられ、名栗川から入間川、そして荒川から江戸へと運ばれた。
杉・檜は優良材とされ、幕府は建築用材としての供出を山林方に命じた。
名栗村など、西から川で運ばれる材木は「西川材」として重宝されて、江戸時代の安政大地震(1855年)による大火で生じた需要を大きく賄ったといわれる。
その後、関東大震災(大正12年)後の復興用材としても大きく貢献した歴史ある「西川材」の誇りが、今もこの里に脈々と息づいているようだ。
9、小沢峠の歴史
秩父市と青梅市を結ぶ53号線の、いかにも峠越えという雰囲気の山あいの坂道を上がっていくと、昭和49年完成の小沢トンネルが見えてきた。
トンネルの入口脇が、今日の登山口だ。
いよいよ「伝説探訪」と銘打った小さな山旅の幕開けである。
ポール代わりの長い枝を拾い、植林地の小径に踏み込む。谷の斜面に付けられた径路を辿ってゆっくり登ると、思いの外 すぐに鞍部が見えてきた。
空には薄雲がかかっているがちょうど峠の辺りに朝陽が差しこみ、間もなく木漏れ日 清々しい小沢峠に至る。
秩父に出てから南へと最短距離を貫く鎌倉街道 上ノ道を本線とすれば、羊腸する山裾を縫い、峠を幾つも越える道はその支線と位置づけられそうだ。
この周辺で言えば、秩父から横瀬に出て妻坂峠を越え、名栗からこの小沢峠を越えて成木から青梅、五日市へと下っていく道がそれである。
「新編 武蔵国風土記稿」(1830年 完成)の下名栗の項には、「又一条の小路は小名 小沢より両岐し、南の方 小沢峠にかかり、上成木村境まで亘り十町余、路幅三尺許、此れは多摩郡青梅辺への通路なり」とある。
「武蔵野歴史散歩�� 関東山ノ辺の道」(蜂谷敬啓)(有峰書店新社)(平成6年)によれば、
「この峠は成木側から名栗谷へと出る為の径路で、中世には (いわゆる武蔵七党の一つである)丹党が武蔵府中や鎌倉幕府に向かう道、あるいはその後の青梅三田氏が寄居の上杉方への連絡に通った道でもあっただろう。」との事だ。
また、この辺りより西の山が「小沢嶺」で、昔は青梅の成木川が郡界だったが名栗の村人との話し合いにより小沢嶺が郡界になった、と明治中期編纂の「武蔵通志」(河田羆)に記されている。
ここに小祠があるが、年代などは刻まれていない。
御挨拶してからあらためて見回すと、朝の清澄な空気が明るく好ましい雰囲気の峠だ。
かつて多くの民や武士が往来した山間の隘路に佇む この峠もまた、歴史と人々の足跡を秘めて 今はただ風だけが静かに通り抜けてゆく。
10、山神社とハンター
ここからは、前述のガイドブックにあった、昭和20年代にハイキングコースとして開かれた山道だ。
いきなりの急登となるが、尾根や巻き道を忠実に辿る。植林地だが単調な道ではなく、樅か栂の大木が径沿いに何本もあり、 また露岩も時折 現れて 変化を与えてくれる。
ポール代わりの棒は地面に突いた時に早々と折れてしまった。
これがほんとの「棒ノ折れ」、今日の山歩きにふさわしい。
南は植林で見通しが利かないが、北には雑木の疎林の樹間から名栗の山里を望む。
間もなく 登山道脇に慰霊碑を見る。
数年以内に建てられたと思われる新しい石碑には「香川英子 遭難現場」と彫られているが 年月日などは無い。
どのような経緯で遭難されたのかはわからないが、山は常に危険と隣り合わせ、他人事ではない。手を合わせて、再び歩きだす。
やがて尾根の脇に山神社が見えてきた。
立ち木を鳥居として注連縄が張られており、今でも大切にされているのがわかる。
また、山神社の隣りには 「熊野三社大權現」と刻まれた石塔が立ち、寛永11年(1799年)とある。
200年以上前の石塔だが文字の風化はほとんど見られず、良質の石が使われているようだ。
奥秩父の山と谷を隈無く歩き、その全容を網羅した数々の名著で名高い 原 全教 は「秩父・多摩・大菩薩」(朋文堂)(昭和16年)の「高水三山と棒ノ峯」で棒ノ峯への登路を詳述している。
「成木口」の項ではこの場所について「八坂祠と山の神がある」と書いてあり、今では立派な社殿の背後にある石碑に刻まれた「八」が読み取れるだけだが、これがその八坂神社である。
露岩混じりの僅かな急登をこなすと植林の平坦な尾根となり、やがて前方に丸いピークが見えてくると唐突に南の視界が開ける。
今 歩いている都県界尾根の黒山から南東に派生して雨沢山から高水三山の岩茸石山に至るなだらかな尾根を、成木川を挟んだ対岸に望む。
やがてピークを南から巻く道を辿ると露岩が張り出したトラバース径となる。この辺りも一面の杉林で深閑として清清しく、心が澄みきってくるのを覚える。
やがて無数とも思える杉が林立する斜面の一隅で、山の神に出逢う。
石に「大山祇尊」と彫られた山神がひっそりと鎮座する姿に、山の安寧と山仕事の安全を願った昔の人々の真摯な祈りを見る。
杉や檜の植林を味気無いという人も多いが、自分は人と山との関わりを示す姿として、丁寧に手入れされた植林地は好きだ。
特にこの辺りの都県界尾根の杉林からは、恰も神社の参道を歩いているかのような清浄の気と不思議な安らぎを感じる。
北側には自然林が時折 現れ、樹間に名栗の里と山が霞んで見える。
原全教はこの辺りの展望について「(南に)岩茸石山がひとかどの山らしく聳え、北は伊豆ヶ嶽から正丸・越生・日和田など名栗の山々、その前に子ノ山の黒い茂み、さらにその下に空中鳥瞰圖のやうな名栗の川・道・家などの人文情景など。」と記している。
やがて杉に括りつけられたラミネート加工の手製山標を見出だした。
「長久保山」標高690m (大クラ尾根ノ頭)とあり、その下に「(武蔵)通志の「小沢嶺」)からの引用があるが、小沢峠からはかなり離れている。
ここから植林の平坦な尾根を歩き、少し登って名栗側が自然林になると突然 前方から何かを指図するような人声が湧いた。
見ると男性がトランシーバーを使って尾根の下に向かって交信している。
近付くと、木に立て掛けてある猟銃が目に飛び込んできた。一目で よく手入れの行き届いた銃とわかる。
挨拶がてら「猪ですか？」と声をかけると「鹿だよ。 朝来た時 3つ ここに居たんだけど(成木川側に)逃げられた。」と笑う。
続けて「今も(名栗側で)2つ いたんだけど 、ダメだよ みんな年寄りばっかりで。弾が当たらない、足も弱いしよぉ。」と嘆きながらも屈託ない。
「最近は若い人もハンターになってると聞きますけど…」と返すとその50代後半と思われるハンターは首を小さく振った。
少し先のピークに進んで立ち止まっていると背後からガサガサと音がし、何人かのハンターが言葉を交わすのが聴こえたので 邪魔にならないよう早々に立ち去る。
11、「馬乗馬場」と畠山重忠
間もなく、再び杉林の平坦地に至り、やはり先程同様の加工がなされた「馬乗馬場(まのりばんば)」と書かれた標識を見る。
字体から先程の「長久保山」と同じ作者だとわかる。
「平安時代の名武将 畠山重忠の軍勢逹が 鎌倉幕府への道の途中、ここで馬の調教を行ったとしるされている。居住地 埼玉と鎌倉迄の遠距離を数多く往復した武士 郎党 逹、そして馬も大変な苦労であったろう。」と書いてある。
字体から想像するに、歴史や伝説が好きな熟年男性が作って括りつけたのではないだろうか。
郷土の誇りである畠山重忠の伝説を残したい、という熱い思いを感じる。
植林される前は 草原であったというから、その頃の展望は大きく開け、特に重忠の本拠地である秩父の方角は文字通り 一眸の下に収める事ができたであろう。
ここで武人や貴人が馬に乗っていた(重忠 以外にも平将門や常盤御前が…)という伝説が産まれるのも宜なるかな、 である。
尤も、史実に照らせば ここを畠山重忠が頻繁に通ったという根拠は希薄と言わざるを得ない。
秩父氏は秩父の西北にある今の吉田町の辺りを本拠地としていたが、重忠は父の重能の時代には川本町の畠山に拠点を移していた。
また、その後さらに鎌倉街道の要衝である菅谷(現在の嵐山町)に居館を移している。
菅谷は鎌倉街道上ノ道の要衝で、鎌倉に馳せ参じるにはそのまま南下すればよく、西の辺境とも言える横瀬や名栗の峠や山を越える必要性は無い。
重忠の伝説の中でも横瀬からの妻坂峠越えは有名だが、この峠を越えて鎌倉に向かったり、あるいはさらに名栗から棒ノ折や馬乗馬場の辺りを頻繁に行き来したという事はなかなか考えにくいように思われる。
一方、この辺りには「常盤御前」の伝説も眠っている。
原全教は「秩父・多摩・大菩薩」(昭和16年)で「(棒ノ峯から) 東へ行けば杉林で二丁四方ばかりの平(約 七六○)があるが、いかにも人工的な所で重忠の馬乗馬場と呼ばれている。またその眞南の極指澤の南側のいくらか小高い所に、常盤御前の御殿といふ屋敷趾があるさうだ。」と記している。
また、「山岳」第二十年 一号(大正15年)では武田久吉がこの馬乗馬場について、「常盤御前が馬に乗った場所といふ傳説もあるが、その直南 麓に常盤といふ小部落があった事からでも附會した説に相違あるまい。」としている。
山麓の民にとって、山上の草原で馬に跨がったのは重忠であり常盤御前であり、あるいは平将門であって、その誰もが憧れであり、文字通り伝説的な人物であった。
ここでは、重忠と馬に纏わる有名な逸話を取り上げたい。
1184年(寿永3年)2月。
源義経と源範頼らは、平清盛ら平家軍が新たな拠点を築いていた摂津国 福原（現在の兵庫県神戸市）で、崖の上から平家軍を急襲した。
かの有名な一ノ谷の合戦における、いわゆる「鵯越（ひよどりごえ）の逆落とし」である。
この時、重忠は愛馬「三日月」を背負って鵯越の崖を降りたという。
「源平盛衰記」によれば、重忠は「馬に怪我をさせてはならぬ」と、三日月を自分の背中に乗せて崖を駆け下りたとある。
後世、さまざまな錦絵にも描かれる名場面で、重忠の勇猛果敢さと馬への愛情を物語る逸話である。
また、北条時政らの陰謀によって畠山一族が滅ぼされた、いわゆる世に言う「畠山重忠の乱」の経緯は以下の通りである。
1205年（元久２年）6月22日 払暁、鎌倉にいた重忠の子 重保のもとに、 謀反人が由比ヶ浜に集結しているとの嘘の情報が入った。
重保が配下の３名を引き連れて由比ヶ浜に駆けつけると、北条時政の命を受けて待ち受けていた三浦義村らに襲われて討たれてしまう。
一方、この日の午前、父の畠山重忠は、鎌倉で騒動が発生しているとの偽の報告を受け、菅谷(現在の嵐山町)の居館を出発して鎌倉へと急いでいた。
その道中で重忠を討ち取るべく、源実朝から命令を受けた北条義時らが鎌倉を発ち、同日午後、武蔵国 二俣川(現在の 横浜市 旭区)で衝突した。
僅か150騎を率いていた重忠の手勢と、義時の幕府軍との間で激戦が繰り広げられたが、矢を受けた重忠は討死する。
実は衝突の前に 重忠のもとには急使によって子 重保の死の一報がもたらされており、家臣からすぐに引き返すよう進言されたが、重忠は「潔く戦うことが武士の本懐」として幕府軍を迎え撃つことにしたのだという。
また、事前に 父の北条時政から「重忠が謀反を企てている。」との話を聞いた北条義時は「重忠がそのような企てをするはずがない。」と当初は畠山討伐に反対したが、3代将軍 実朝の命令が出た為に やむなく従ったという。
重忠のふるさと秩父の中では山間の辺境であったこの山の端にも彼の伝説に因む地名が残されているのは、やはり山麓の人々にとっては話を聞くだけで胸が熱くなるような「坂東武士の鑑」としてまさに天上の武人、山上の武神のような存在だったという事なのだろう。
その馬乗馬場には今は植林の杉が林立して奥多摩側は薄暗く、往時の草原の俤はどこにも無い。
(続)↓
「棒ノ嶺」山名論争と畠山重忠 伝説を訪ねて(3)
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(現 事務局長)
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