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2016年12月04日09:35

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権藤の覚醒(再掲)

冬も終わりを告げようかというある日の昼下がり。
一服着いたコーヒーカップの澱を、私は見るともなく見ていた。
低空飛行する旅客機の音で、安物のラジカセから流れる廉価販売のCDが、いつの間にか終わっているのに気付いた。
また今度も意識されずに聞き流されたコルトレーンが、不本意そうにCDケースに収まったとき、それは起こった。

隣室から小さな破裂音がとぎれとぎれにするのは気付いていたのだ。
それがやってくるのは時間の問題だった。
だから、突然排水溝を水が落ちていくような轟音を耳にした時も私は驚きはしなかった。

隣室とを隔てる障子をゆっくりと開けると、案の定、権藤はうつぶせになって頭をこちらに向けていた。
「権藤、起きたか」
彼は、大きく開けた瞳の奥で、そうだ、と答えた。
私はなにより排水溝を落ちて行った音の正体について、すぐに正確な情報を得る必要があった。
まだ微睡の中にいる権藤を持ち上げると、私は尻を鼻に押し付けた。

鼻が曲がりそうな匂いで鼻が曲がった人間を、寡聞ながら知らないが、少なくともそれは私の午後の憂鬱を吹き飛ばすには十分だった。
排水溝を落ちて行ったものは、おむつの中に収まらず、逆流し、ロンパースの背中までも侵食していた。
私は、権藤の後背部に直接触れぬように細心の注意を払いながらバスルームに抱いて行き、43度に設定された暖かな湯を後背部から臀部にかけてふんだんにかけた。部分的にかさぶたのように固くなっていた流出物は、今や不浄の右手となった私の指の腹によって執拗にはがされていった。

泣き叫ぶ権藤に清潔なおむつと衣服を着せ、抱き寄せると、やがて泣き止んだ。
「気持ちいいだろ、権藤」
そう聞くと、彼は大きく開けた瞳の奥で、最高だ、と答えた。

片手で権藤を抱いたまま、右手でまだ残っているコーヒーの残りを口にする。
鼻先には、先ほど洗いきれなかった権藤の流出物の香りがほんのり漂った。
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