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2016年11月14日14:46

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紳士協定

エリア・カザン監督 「紳士協定」 1948年

ユダヤ人差別に抗議する記事を書く為にユダヤ人になり済ますジャーナリストがさまざまな差別に直面していく話。アカデミー賞作品賞を受賞した名作。ジェームス・ディーン主演の「エデンの東」やヴィヴィアン・リー主演の「欲望という名の電車」を撮ったエリア・カザン監督の比較的初期の作品。名作としては知っていたけど、カザン監督とは知らなかった。

当時は人種差別を扱うことがタブーだったそうだけど、今観ると何だかとても違和感。
確かにアメリカにはユダヤ人差別が今も昔もあるかもしれないとは思うけれど、少なくともナチの迫害を逃れてアメリカに渡ったユダヤ人は知識階級を中心に社会のエリート層が多かった筈。ホテルを予約しようとしたら「ここは上品な方々が利用しますから」等と断られるなんて差別がユダヤ人に対してあったんだろうか?黒人差別として扱おうとするとデリケート過ぎて反発が大きくなると懸念して、ユダヤ人差別への社会的批判が強かった第二次大戦直後の社会状況を利用してユダヤ人差別の話にしたのかなあ等と思いながら観ていたけれど、途中でユダヤジョークが差別を受ける話も出て来てますます違和感だった。

何故違和感かというと、現実にはユダヤ人は裕福だったりして恵まれているのにそれが差別を受けるというのは別の文脈を伴っている筈だからで…そう考えるとこの直後に赤狩りが吹き荒れたのも何となくわかるような気すらしてしまった(決してそれを容認するという意味ではないけれど)し、当時の赤狩りが今のトランプ現象にも通じるものがあるような気すらしてしまった。

ただ、差別問題と闘う過程で恋人との関係まで捻じれていく辺りの描写は上手かったと思う。グレゴリー・ぺっく演じるジャーナリスト・フィルの恋人キャシーはフィルの上司の姪として紹介されて二人はすぐに恋に落ち、彼女の提案でユダヤ人差別問題についての連載をフィルが引き受けることになるのだけど、フィルが前例のない新鮮な記事を書こうとユダヤ人を偽装することにした為に、巻き添えになることを嫌がる彼女との間に次第に隙間風が吹くように。彼女の言い分もしっかり言わせていて差別問題が一筋縄に行かない所もうまく突いていたと思う。結果的には作品としてはモヤモヤして煮え切らないものがあったけれど、一見の価値ありとは思った。


金に汚くてずる賢いが為に忌避され嫌がられる差別も、貧しくて身なりが汚くて嘘をついて盗みをしたりする為に忌避される差別と論理構造的には同じではある。でもエリート層はそのような差別構造を改革していく義務を負っているという点で貧困層が受ける差別とは次元が違うだろう。そう考えると何だか盛大に嫌味な映画のような気すらしてきてしまった。でもベストセラーになった原作があるので嫌味として撮ったのかどうか、よくわからなかった。

これが赤狩りを招いてしまったのだとしたら、やはり中道保守的な庶民を馬鹿にし過ぎてはいけないということになるのでは、と思った(これだけではなく、基本的には冷戦という社会状況の下での共産主義化への恐怖が赤狩りを招いたベースだろうけど)。


【強引過ぎるまとめ】
難しく考え過ぎなければ、差別と闘う為に被差別者に偽装するグレゴリー・ペックも偽善を糾弾するアカデミー賞助演女優賞を受賞したセレステ・ホルムも滅茶苦茶カッコいいです。カザンが白黒つかない微妙な心理の動きを描くのが上手い監督だったことも偲ばせる映画。
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