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2016年09月04日14:20

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西丹沢 用木沢 孤高の大ブナ

2016年9月3日(土)の西丹沢自然教室ブログで、衝撃的な写真を目にした。

「完全に倒壊した用木沢の大ブナ」というキャプションと共に、主幹の根元部分だけが僅かに残った姿。
立地からみてあのブナだ、というより用木沢のブナといえばあの木しかない…

用木沢の主ともいえそうなこの大ブナは、時期ははっきりとはしないが、数年前に主幹の上部が折れて沢床に落ちてしまい、残った主幹も大きく傷ついていた。
それでも折れ残った枝は初夏には新緑を、秋には紅葉を纏って用木沢に堂々と立ち続けていた。

(画像は、

2015年10月12日 朝、紅葉の大室山に向かう途中に撮影 、
2014年5月4日 夕方、大室山 南稜バリエーションルート探検の帰りに撮影、
沢側に曲がっているのでカメラを傾けて真っ直ぐになるように撮影している。
また真下から上向きに撮っているので逆光もあって暗い 。 mixiの山行アルバムから抜粋。
最後の画像は他のサイトから拝借した、2008年のまだ主幹が折れる前の姿。自分よりもかなり遠くから撮影しているが全景は収まらず、木の大きさがわかる
)


丹沢のブナは標高800m以上で見られるのが一般的で、標高700mのこの場所に育った立派な大木は、丹沢ではまさに稀有の存在だった。

ブナの寿命は200年から300年というが、この大木も幹の太さからすると間違いなくその範囲に入るので、天寿を全うしたという事だろう。
かつて降雪量が多かった時代にすくすくと育ち、水が豊富に供給される沢筋の環境で生き残る事ができたのでは、と推定されている。
周囲にブナは無く、この木の遺伝子を継ぐ子孫も見当たらない。

一説には樹齢400年という声もあったが、それはこの沢筋で抜きん出た樹高と幹周を誇った孤高の大木への敬意を込めた数字だろう。


用木沢は滝場の無い穏やかな渓相ではあるが下流には周囲を絶壁に囲繞されている箇所もあって自然の凄みを体感できる。
自然林が明るく、昔のガイドブックには「陽木沢」と表記しているものもある。
沢沿いを歩いているだけではわからないが、周囲の尾根や斜面には目を瞠るほどの大木が天を衝き、自然度の高い山域だ。
沢を横切るクマの目撃情報もあり、自分は2年前の大雪の後に雪崩に巻き込まれたらしいニホンカモシカの亡骸に出会った。

また、沢沿いの道は犬越路に詰め上がる径路であり、相模と甲斐を繋ぐ峠越えの道として歴史は相当に古い。

その用木沢の自然を体現し、往来する人々を見守り、また人々の多くが見上げたであろう大ブナ。
登山道のすぐ脇にあるので長年の踏圧で踏み固められ、木そのものがやや沢側に傾いてもいたので、そうした条件が衰退を少し早めたかもしれないが、それも含めて天寿という事だろうか。

自分がこの道を歩く時は大抵は大室山方面からの下山の途中で、夕方だった。
暮れるのが早く薄暗い沢筋を小走りに下りてきても、このブナのところまで来ると必ず立ち止まった。
その日の山歩きを無事に終えようとしている事への安堵と感謝を胸に見上げたものだ。

また、朝の登りで歩いた時には、大きく傷つきながらもなお瑞々しい葉をつけたその堂々たる姿に畏敬の念を抱いた。

かつては陽光を燦々と浴びてその高く太く大きな枝に野鳥や虫たちを休ませ、渓流の瀬音と鳥の囀ずりに包まれていた大ブナ。

雨の日も風の日も、自然の優しさも厳しさも一身に引き受けて幾星霜を経た大ブナ。

ついにその命尽きて丹沢の山と谷を吹き渡る風になる。


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