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2016年08月30日19:22

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7-30 夏の石棚山稜を歩く

2016年7月30日

西丹沢自然教室(540)→板小屋沢ノ頭→藪沢ノ頭→石棚山(1351)→新山沢ノ頭→テシロノ頭(1491)→檜洞丸分岐→ツツジ新道

画像は、
板小屋沢ノ頭で出会ったアナグマ、
テシロノ頭のブナ林、
大室山や甲相国境尾根などの展望

(山行アルバムは現在準備中です)


0、西丹沢ヤマビル論争

梅雨明けが遅れ、休日の晴天もあまり無くて嘆いていたが、ようやく好天が見こめる土曜日がやってきた。
この後、夏期講習の仕事で忙しくなると1ヶ月は山に行けないので、山に行くならまさにこの日しかない。

張りきって西丹沢を目指す。

新松田駅で始発の次のバスを待っていると、グループに属しているらしい後ろの熟年男女がヒル論争を始めた。

「あんなにヒル嫌いのあなたが今日よく来たわね」「え!?いるのっ?西丹にはいないって聞いてきたんだけど!」「甘いわね。いるわよ。丹沢はどこだっているのよ。」「ウソだーっ。○○さんはいないって言ってたよ、嫌だなー。まあせめてもの対策をして歩くか…」

女性の断定口調にすっかり意気消沈してしまった男性に、「安心してください。西丹沢の登山道にはヒルはいません。」と助け舟を出したかったが、ヒルの生息域が次第に西進し、中央丹沢の小川谷では今年多くの目撃情報があって少なくとも玄倉周辺の沢で確認されはじめている以上、その奥の西丹沢とて絶対にいないとは断言できない。
但し、東丹沢よりも遥かに生息密度は薄く、登山道で吸血被害に遭う確率は極めて低いだろう。

(この後、西丹沢自然教室では職員にヒルの質問をしている登山者がいて、職員は「ヒルは居ません。ヘビやカエルはいっぱい居ますけどね。」と明快に答えていた。)

好んで沢筋を歩いたりしない限り、まずヒルに出会う事は無さそうだ。
丹沢は全域がヒルだらけ、との誤解がいまだにまかり通っているのは丹沢好きとしては汚名を着せられたような気分で遺憾だが、その誤解のおかげで人々に敬遠されて結果的に静かな山が楽しめるのは個人的にはありがたい。


1、久しぶりの西丹沢自然教室

バスでは2人席にゆったり座る事ができ、満席で空気が悪い始発よりもずっと快適だ。
玄倉で半分近くの客が下りていった。

終点まで乗るのは久しぶりだが、後で確認してみると昨年10月以来の9ヶ月ぶりで驚いた。
西丹沢の山には何度か来ていたが、自然教室からはずいぶん足が遠のいていた事になる。

眼鏡の若手職員が近づいて来て「どちらまで」と尋ねてきた。
まだルートも山も決めていないので一瞬返答に窮したが「石棚のほうを回って…」と答える。

小学校低学年らしい団体は、おそらく西丹沢の名瀑「本棚」を見に行くのだろう
、 大人たちに率いられて賑やかに行進して行った。

教室の中で登山届を書き、外に出て準備運動をしながら他の登山者が居なくなるのを待つ。
登りは教室の真横の尾根に取り付くが、正規の登山道ではないので他の登山者や職員に見られたくない。

頭に白タオルを巻いて気合いを入れていると、よく陽に焼けた屈強な職員が「今日はこんなに良い天気ですから暑くて苦行になるかもですよ。」と話しかけてきた 。見上げれば雲一つ無い青空で「苦行は結構好きです。」と答えると、彼はニヤリと笑いながら「私もです。」と返してきた。


2、キノコ観賞と苔の庭園

山神社にお詣りしてから尾根に取り付く。この尾根は石棚山稜に乗る為の近道で、登るのは3回目だが最初から灌木の間を縫って歩く細尾根があり、自然度が高いのでワクワクする。

久しぶりに山の感触を確かめるように一歩一歩を大切にしつつ登っていくと、キノコが目に付き始めた。
名前こそさっぱりわからないが、歩き進むにつれて様々な種類を目にするようになり、じっくり観察しながら歩く事にした。
唯一名前がわかる一番派手なのがタマゴタケで、山の食通によるととても美味らしいが、丹沢の山が育んだ命を取って食べようという気にはなれない。
遭難して飢えてしまった時には食べてみよう。

独り歩きの勝手気儘さで、時間を気にする事もなくのんびりとキノコを見て回りながら登る。

空はいつしか曇りがちとなり 、真夏の暑さは感じない。

目的の一つであった尾根の分岐の確認を終えると、次は苔の庭園の楽しみが待っている。

この尾根の中間部には分厚い苔の絨毯が広がっている場所があり、岩を丸く覆う苔がまるで庭園のような景観を見せてくれる。
踏まないようにしながら岩の間を縫い、掌でそっと押して苔の柔らかさを楽しむ。

やがてブナやミズナラの木を見上げながら登り詰めれば板小屋沢ノ頭で登山道に合流する。


3、静かな石棚山稜でアナグマと遇う

登山道に人影は無い。ツツジ新道から檜洞丸に登って石棚山稜を経由して下山する人とは、昼過ぎあたりに石棚山より先で擦れ違う可能性はあるが、暫くは静かな山歩きを楽しめそうだ。

静かに登山道を踏みしめながら進むと、樹間からカサカサと音がする。
小動物がいるのかな、とそっと覗きこむとニホンアナグマが落ち葉に顔を突っ込みながら歩き回っていた。

これまで丹沢では同角ノ頭や棚沢ノ頭で見た事があるが、アナグマは警戒心が足りないのか、近くに人間がいてもすぐには気付かない事があるようだ。
今回は自分が木陰からそっと見ているので、こちらには全然 気付かずに落ち葉の下の昆虫やミミズを一生懸命に探している。
写真だけでなく動画まで撮影する事ができた。

アナグマは山麓に出没して農業被害を与えてしまい害獣扱いされる事もあるが、山奥でたくましくこれからも元気に生き続けてほしいものだ。

藪沢ノ頭を中心とする幾つかのピークを越えていくと、ブナ林が美しい石棚山(1351)に至る。
なだらかな山道が続くブナ林のプロムナードはいつ歩いても素敵で、丹沢の中でも特に好きな山域の一つだ。

山に入ってからまだ誰にも会わない。
雲間から陽が射して青空が覗くと、それを待っていたかのように野鳥の囀りが始まり、石棚山の豊かな自然を独り満喫する贅沢に感謝する。

また、山頂標識の少し先には南側が大きく開ける展望地があり、鍋割山稜の西に大きく切れこんだ雨山峠、そして雨山(1176)、檜岳(1167)、伊勢沢ノ頭(1177)がドングリの背比べのように見える檜岳山稜が横たわる。
さらにその向こうに平塚市や小田原市などの平野部と相模湾、そして真鶴半島と遠く霞む伊豆半島の影が水平線に浮かぶ。
これはいつ来ても、何度来ても見飽きない景色だ。

新山沢ノ頭(1401)付近からはほぼブナの純林となり、登山道を外れて保護柵沿いにピークを訪ねてみると立派な大木が聳えている。
空は再び灰色の雲に覆われて風景は暗い。
登山道を外れている間に、檜洞丸から下山してきただろう単独男性が石棚山に向かう後ろ姿が樹間に見えた。

この先、テシロノ頭(1491)までは丹沢有数のブナ帯で、この貴重な自然をシカの食害などから守る為に保護柵が張りめぐらされている。
再び登山道を外れて柵沿いを北側に回り込んでみると柵は以前よりも延伸されて増設が進んでおり、丹沢に残った貴重なブナ林を守ろうとする神奈川県の熱意を感じる。

ここで何度かスズメバチにつきまとわれたが、上下方向の動きが苦手ですぐターゲットを見失ってしまうという彼らの弱点を衝いてそっとしゃがみこむと、スズメバチは飛び去って行った。
この方法は有効だが多用すると腰が痛くなる。


4、大展望と最終下山者

同角山稜・ユーシンへの分岐を過ぎて檜洞丸方面へひと登りすると、西側が大きく開ける展望地がある。

西丹沢の重鎮 大室山から、加入道山を経て甲相国境尾根、畦ヶ丸や菰釣山、その向こうに道志山塊の最高峰 御正体山や三ッ峠山、御坂山塊の遠い山並みが列なっている。
ちょうど雲が晴れて陽射しが降り注ぎ、暫し立ち止まって展望を楽しむ。

ふと人声が聞こえはじめ、やがて大きなザックを背負った60代くらいの男女がユーシン方面からやって来た。泊まりだろうか、挨拶するタイミングを測ったが、二人はガン保険の話を熱心かつ声高に続け、こちらに目もくれず大展望を見もせずに通りすぎていった。

山で何の話をしようが自由だが、これだから山で人に会いたくないものだな、と苦々しい思いになった。

続けて今度は檜洞丸分岐から若い男女3人が楽しそうに通りすぎていくと、辺りは再び静けさを取り戻す。

トンボが飛び交う中でいつまでもこうして山並みを眺めながら風に吹かれていたいが、次第に西に傾きつつある太陽に背中を押されるように歩き出す。

檜洞丸分岐からツツジ新道を下り始めると間もなく、中年男性と10歳くらいの少年の親子と擦れ違った。
きっと青ヶ岳山荘に泊まるのだろう。

歩いてきた石棚山稜を振り返ると怪しげな黒雲が見える。
やや急ぎ足でひたすら下っていくと、もう誰もいないと思っていたのにツガの大木がある鞍部のベンチで中年男性が休んでいた。

追い抜いて下り、ゴーラ沢出合で渡渉すれば後は快適な水平径路を歩くのみだ。
いつしか夕陽が樹林帯を黄金色に染めはじめ、やがてゆっくりと茜色に移りゆく夕景の中で、もう少し山にいたいという気持ちが湧いてきた。

このまま下山してもどうせ最終バスまで1時間近く待たねばならないし、西丹沢の最終下山者として山を下りたい。

先程の男性が下りてきて先に行ってくれるまでどこかに登って時間を潰そうと、目に付いた小尾根に這い上がり、ちょうど甲相国境尾根の稜線が見える場所に陣取る。

稜線の向こうへ沈みゆく太陽と相対して一息つきながらザックを開けた途端、一番上に挟んでおいたキャップが転げ落ち、縦回転で斜面を転がり出した。

すぐに止まるかと思ったがむしろ回転の勢いがついてどんどん転がっていく。
慌てて斜面を滑り落ちるように追いかけたが、キャップは薄暗い谷へと呑まれていった。
かなり長い間 山に出かける道中で愛用してきた物だ。

諦めきれずになおも下ると登山道に合流し、その登山道の真ん中にキャップがちょこんと落ちていた。
ヤレヤレである 。


登山道を登って元の小尾根に戻り、一息つく。
やがて太陽は稜線の向こうに沈み、それを機に腰を上げるとちょうど先程の男性が登山道を下っていく後ろ姿が見えた。

少し距離を置いて自分も下り始める。
彼は足を痛めているのか或いは疲れているのかずいぶんと歩みが遅い。

ようやく下山を完了したのは18時過ぎだった。
着替えてバス停に到着し、最終バスを待つ。
バスでは写真を見返したりアナグマの微笑ましい動画を何度も見たりしているうちに、いつしか浅い眠りに落ちていった。

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