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2016年08月07日11:48

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平安五神伝外伝 閉ざされし屋敷の主 3

「突き抜けて触れられない・・・そこに見える、しかし存在のないもの・・・?」

考察に没頭し始めた保栄の様子に、道長は自分が相当な厄介事を持ち込んでしまったと判断する。

「光元、私は大工達に別の家屋の作業をするよう指示を出してくるから保栄の傍にいてやってくれるか?」
「分かりました、任せてください」

道長が男達を引き連れ通りの角を曲がっていく。誰かの家の雨漏りを直させるそうだが、それが何処なのか、都に来たばかりの光元には知る方法はない。首を戻すと保栄は依然として思考の海を泳いでいた。彼一人に任せきりにするのも悪い気がして、光元も今回の件に関して頭を働かせる。
まず思いついたのは、目の前の土地自体が幻術の見せかけである可能性。・・・その手間をかける意味がわからない。それに光元や保栄という高位の術師に特別な違和感さえ抱かせない幻があるというのも信じがたい。
では、何者かがこの屋敷に憑りついたのだろうか?しかし古い家屋ならともかく、わざわざ建造中の建物を狙おうというのはどういった意図なのだろう?
はたまた、藤原一族への呪詛の一環という可能性・・・地味すぎる。直接本人を狙った方がどれほど有益で、効率的な事か・・・。
そもそも、そういった理由も術をかけていけばある程度調べがつくものなのだ。が、触れられないから呪符が貼れず、対象と見なせないから術をかける訳にもいかない。そこが一番の問題なのだ。

「場所は限定されている・・・触れられない隔たれた領域・・・神格化?否。しかし何者かによって隔絶されているとなると、この状況どこかで・・・・・・あ」

突然、保栄は自らの頭を抱えた。

「山、かぁ・・・これの事か。しかし納得がいく・・・」
「何かわかったんですか?」
「あぁ光元・・・これが何か、おそらく判明した。その入り方、そして脱出の方法までな」
「そこまで?!でも、一体どうやって―――」

問い詰めようとする光元を保栄は片手を掲げて遮る。

「光元、私は特技と言えそうなものを多少持っている。夢占という占術を頭(かみ。陰陽頭)から聞いたことはあるか?」
「お話を聞いたことはないですが、お借りした術書に記載があったと思います。確か、相手の夢の内容からその人の未来や吉凶を占う・・・んでしたっけ?」
「本来の夢占は、な。私の場合、自らの夢と未来視を区別でき、更に目が覚めても内容を覚えていられる・・・というものだ」

光元が感心の眼差しを向ける。 

「そして今回の件も、つい今朝視た夢なのだが・・・内容を当てはめると据えられたかのような納得の案にたどり着いた訳だ」

占術の後は疲労が溜まる、未来視の質は安定しない・・・などの欠点もあるがそれらの内容は伏せておく。そもそも、たとえ味方同士であっても陰陽師が自らの力について話す事は業界の禁忌なのだ。それでも保栄が話したのは、光元が同じ師を持ち、将来的に自分の部下になる立場であるからに他ならない。自らの案の信ぴょう性を深める為にあえて話したのだ。

「・・・で、結論から言わせてもらえば、この屋敷の敷地は異界化している可能性がある。空間の神格化、とも言えるかもしれない」
「神格化?!神が宿ったというんです?!」
「まぁ話は最後まで聞け。そうなのでは、と最初に思ったというだけの話だ。しかし周囲に神気の気配はなくその線は薄い。ならば考えられるのは、神に等しい力を持った妖異が住みついた事により人が容易く入り込めない状態となった―――だからあえて異界化という言葉で区切らせてもらった」

光元が息を呑む。

「つまり・・・今から僕達は神様に挑むつもりで相手と会わなくちゃいけないんですね」
「そういう事になるな。勿論占術は万能でなく、ハズレという線も十分考えられる。だが、その程度の警戒は然るべきだろう。現状、あそこから動く気はなさそうだが暴れられたりするのは・・・ふ、御免被りたいところだな」
「大内裏にもほど近いですし、ね。人的被害はもとより、霊的被害も大変な事になりそうです」
「それで、肝心のこの触れられない領域に入る方法というのは・・・?」
「あぁ、これだ」

保栄が胸の前で刀印を組み、印を切る。

「く、九字?」
「そう。我ら陰陽道を究める者の中では強力な破邪の呪文として使われるが、これを修験者など別種の術師も印や呪文違いで用いる事がある。彼らの印になると・・・」

保栄が九字の切り方を変える。

「山に入る際に唱える鍵のような役割となる。修験者にとって山々はただ自然の脅威が険しい場所というだけでなく徒人の踏み込めない修行の場・・・つまり異界なのだよ、光元」
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