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2016年06月30日21:21

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ドラマ24『リミット』

 学校の行事でキャンプへ向かうバスが所定のルートを外れ崖から転落、生き残った生徒たちが救助を待ちながらサバイバルするというお話です。原作は2009年から2011年に連載された少女コミックで、2013年にテレビドラマになりました。私は本放送では未見でしたが、BSジャパンの再放送で『みんなエスパーだよ』を見た後に続けて放送が始まり、ちょっと関心はあったし後で少し話題にもなっていたので、流れでそのまま見ました。



 まず、この作品で描かれる高校生活というものが、同調圧力というか、イジメでがんじがらめになっており、あだち充なんかとはまったく趣が異なっています。原作者がそういうものばかり書く人らしいです。当然、サバイバルといっても、みんなで協力して困難を乗り越えていくという厳しくも美しいものではなく、どうにも相手を信頼しきれないギクシャクしたものとなります。といって、エゴむきだしの過酷な生存競争が展開されるわけでもなく、腹の探り合いで互いに身動きがとれないさまを淡々と描くでなく、実はわりと適当にうまくいっちゃってたりもします。

 楳図かずおの『漂流教室』やスティーブン・キングの"mist"のようにSF設定を介さず、現代日本において孤立した状況に追いこまれるという導入部はなかなか魅力的です。長距離バス運転手のブラックすぎる労働実態とか、バス会社や高校が自分たちのミスを隠蔽しようとしたせいで事故の把握が遅れ、事態が無駄に紛糾し混乱していく様子もいかにもありそうな感じで、引きこまれます。

 しかし、まず、バスの転落なんですけど、生き残った5人はほぼ無傷か軽傷で、それ以外は即死です。もちろん、事故直後は大多数が瀕死の重傷で、それから次第に断末魔のうめき声を上げつつ力尽き、死後に硬直してから、やがて腐敗していくなんて描写はいくら深夜でも無理に決まってますから、そんなものを放送しろとはいわないわけですけど、はなから無茶なシーンに挑む必要があったのか、どうしても疑問はあります。落下直後のシーンは映してはいけないものが多すぎて、なんだかカット割りも窮屈な感じがします。たしかに、事故のスケール感からすると、クラスほぼ全滅というところから、描きだしたいのもわからなくはありませんが。

 そういえば、今年の初めに軽井沢でスキーバスが転落してたくさんの方が亡くなられましたが、段差自体はそれほどでもなくて、4〜5mほどだったと思います。このドラマでは50mかひょっとすると100mぐらい落ちています。まあ、全滅だよなと思うのですけど、ふつうに生活しているとどれくらいの段差でどの程度の被害が出るかはわかりませんから、ここは問答無用でわかりやすい描写にするのが正しいだろうとは思います。

 こうして、今野水希(桜庭ななみ)、盛重亜梨沙(山下リオ)、神矢知恵子(土屋大鳳)、一ノ瀬ハル(工藤綾乃)、薄井千影(増田有華)の5人がとりあえず生き残ります。クラスの中心的存在だった姫澤さくら(高田里穂)も死亡してみなが呆然とするなか、いじめられっ子だった亜梨沙だけはゲラゲラ笑い出して、「ざまあみろ。死ねばいいと思っていた」と言い放ち、キャンプの草刈り用の鎌を持ち出して全員の支配を宣言し、階級制度を定めて自分は当然のようにトップに就くのでした。

 しかしながら、劇中で彼女は筋金入りのいじめられっ子だったので、そもそも支配のモチベーションやノウハウを持っていないと思います。そういう人は支配を指向しないのではないでしょうか。「おまえが仕切れ」と言われても、尻込みするはずです。事故後の異常なテンションを考慮しても、このイベントは成立しないといわざるをえません。

 しかも、他の4人を服従させるために拠って立つツールが草を刈るための鎌一本という心細さです。くわえて演じる山下リオは小柄ですから、画面の感じからしても他の4人が手ごろな木の枝かなんか探し出していっせいに向かってくれば、ほぼ勝ち目はないでしょう。だいたい、寝ちゃったら取られて終わりじゃん。

 もちろん、傍目にはありえないはずの関係が、心理的な威圧によって成立し維持されることはままあります。このケースでいえば、少しでも反抗的な態度をみせた人間をみせしめにボコって半殺しにすれば、しばらく他の人間も言うことに従うでしょう。加えて階級に分割することで互いを反目させるよう仕向ければ、しばらくその関係を続けることができるかもしれません。

 しかし、元いじめられっ子は別にそんなことをするわけでもなく、他の4人も漠然とそれに従って振る舞ってしまうので、逆に分断されたことによってクラスメートだったはずの間柄に溝が生じていく様子が描かれていくわけでもありません。

 それから、彼女たちが食料の入手にそれほど苦労していないのも、個人的には気になるところです。事故直後のバスの座席やトランクから食べられるものを回収したり、身分に応じて配給量が決められたりといったシーンはあるのですが、それも序盤だけで食べ物自体はそれほど物語の中で大きな位置を占めていません。しかし、こういう状況にあっては、ひもじさ、飢餓への恐怖こそが対立や闘争といった登場人物たちの関係を先鋭化させるにあたって最もベースになる部分のはずで、そこをおざなりに描くとその後の展開から緊迫感が失われてしまいます。
 事実、中盤以降はなにをするにもそれほど差し迫った事情があるようには見えなくなってきて、どちらかというとのどかささえ漂ってきます。


 そんななか、事故でケガをしていてなにかと足手まといだった千影が、なんやかんやあってパニックになり、走り出して行方をくらまします。千影を探すために周囲を探索したヒロインたちは、事故の生存者である日向晴明(鈴木雅大)と出くわします。

 この晴明くん、事故ではバスの外に投げ出されて一行とは別れてしまい、それまで一人であたりを彷徨していたのでした。ちなみに、先の軽井沢のスキーバス転落事故でも車外に投げ出された方はいらっしゃいますが、いずれも亡くなっておいでです。中盤に登場人物を追加するのは、間延びを回避するための基本的なテクニックではあるのですけど、設定との兼ね合いでいうと、かなり無理があるといわざるをえません。
 喜びの再会も束の間、行方不明だった千影は明らかに誰かの手によって殺された姿で発見されます。彼女を殺したのは誰なのか、という展開になってきます。

 思うのですが、原作コミックの連載時に当初の路線が行き詰まってしまい、そこでテコ入れとしてこちらの展開が導入されたのではないでしょうか。あるいは、立ち上がりでつまずいたため、予定を繰り上げて序盤の流れをうやむやのままこのイベントを投入してきたか。
 個人的には、導入部から生じうる事象は実際には限定されており、それを消化しなかった以上、ストーリーが弾んでいかないのは当たり前の気がします。あの状況にあって、誰がどう考えどう行動し、それによっていかに絶望が導かれてくるのか、そこについて考察が足りず盛り上がりを欠いたまま、ショッキングなシーンをつないでとりあえずお話をもたせたように見えました。

 こう書いていくと、ひどくつまらないドラマだったように思われるかもしれませんが、演出と出演者の演技はどれもよくて、見ているぶんには引きこまれます。特にメインの舞台が高校のクラスのため、主要キャストは若い人ばかりで、ここでしか見たことのない人もいるのですが、みんなそれっぽい雰囲気をちゃんと漂わせていて、要所はきちんと盛り上げるし、見ていて手持ち無沙汰になることはありません。
 ただし、肝心のシナリオに粗があるため、それらは単発の高揚にとどまってしまいます。ヒロインが「ここは地獄だ」とつぶやいて泣き出すシーンがあり、そこも演技はいいと思うのですけど、でも、実際にはもっとひどいことがいくらでも起きうるはずなのに、なにも起きてないもんなと思ってしまうと、ちょっと醒めます。
 あと、映画や単発ドラマなら問題なかったかもしれないのですけど、毎週放送のドラマなので次の放送までにストーリーを振り返って、「やっぱり、あれはないなあ」と思ってしまうのもありがちです。

 展開の不備については、もっぱら原作に由来するようなのですが、連載という形式は試行錯誤しながらフックや勢いでもっていくことも多いですから、そこからドラマ化する以上、メディアが変われば作り直しになるのは当然で、原作ファンは喜ばないかもしれませんが、踏みこんで大胆に改変すべきではなかったでしょうか。


 終盤、ヒロインはかつての親友でありながら仲違いしていた一ノ瀬ハルと和解したのも束の間、ハルは川に転落してしまいます。これは私が毒されすぎなのですけど、ちょっと前の仮面ライダーでは「川ポチャは生存フラグ」でして、そういうこととして自分の中で片付けてしまい、大きなイベントなのに意に介さず流し見してしまいました。ふつうのドラマ(でもないか)なのに、仮面ライダーといっしょくたに見ているのがなんか間抜けです。

 そして、最終回2つ前のフェイク予告では報道陣の前に一人だけ救出された生徒が姿を現します。足元しか映されませんが、スカートをはいているので女生徒のようです。おいおい、一人しか生き残らないのかよと思うのですけど、これが最終回直前のフェイク予告ではいじめられっ子と判明して、納得なようなヒロインは死んじゃうんかいと思っていたら、最終回でヒロインたちはケガで病院に搬送されたので、マスコミの前の姿を現したのはいじめられっ子だけというオチでした。

 そのあたりの、テレビドラマの見世物小屋じみた胡散臭さやケレン味みたいなものは悪くないと思うのですけど、最後に一人だけ土屋大鳳の演じた神矢知恵子について触れておきます。彼女はすごく有能で、事故直後にみんな狼狽したときにも一人だけ冷静に情勢を分析し、つねに最善の解決策を示してみなを導いてきました。キャンプの経験もあって、サバイバルの知識もあります。はっきりいって、彼女が最初から仕切っていればなんの問題もなかったぐらいです。
 そんな彼女ですが、両親を交通事故で失っており、幼い弟や妹たちといっしょに暮していたので、彼らのためにも自分はこの事故で死ぬわけにはいかない、なんとしても自分の家へ帰らなくてはならないと心に固く誓っています。
 だとしたら、仲間を犠牲にして自分だけ助かるのか、リスクをとってでも一緒に助かろうとするのか、その葛藤を彼女に突きつけるべきです。普段の彼女は仲間思いの優しい人物で、なんとしても生きて帰るという決意も、当たり前ではあるのですが、だからこそ、究極においてそのどちらかしか選択できないという状況に直面させなければなりません。設定とストーリーはかならず呼応するものであり、最初から(というか、ドラマのオープニングから)この設定を強調するのであれば、こうしたエピソードを準備しなくてはなりません。
 それはベタすぎるというのであれば、彼女のポリシーの提示のされ方がベタさが問題なのであって、設定とストーリーをかならず対応させなければいけない点において例外はありません。ストーリーでフォローしない設定はもとから必要なかったはずです。なんとなれば、ワンクールのドラマといっても、無駄な設定の提示や描写をしている余裕はないからです。

 設定については、いじめられっ子にも学校でいじめられている以外に家庭でも父親に虐待されているという重すぎる設定があって、登場人物はそれほど多くないのにその一部にのみ過重な設定が課せられており、分担がうまくいっていないのもストーリーが順調に展開しなかった原因のような気がします。

 そんなこんなでみんな助かるのですが、なんと川に転落したハルも救助されていたのです。仮面ライダーだけでなく、一般ドラマにおいても「川ポチャは生存フラグ」であることが証明された瞬間でした。遺体が残らないので、便利な描写ってことですよね。
 ちなみに、千影はパニクッたまま晴明と遭遇し、揉み合った末、なんだかよくわからないまま彼に殺されていました。これもなんだかななオチで、そもそも作劇上は彼女を殺す必要がなかったと思います。殺され損ですな。


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