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2016年06月10日15:34

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エッセイ集456:「ニホニウム:核融合と核分裂と科学の有用性を考える」

理化学研究所が世界で初めて合成した原子番号(=陽子数)113に相当する新元素が「Nihonium (ニホニウム)」と命名されるということです。

亜鉛(原子番号30)の原子核を光速の10%にまで加速させ、ビスマス(原子番号83)に照射することで核融合を起こして合成したということです。実験では1年半に400兆回という天文学的な回数にわたり衝突させ3回だけ合成に成功、そしてその合成された「ニホニウム」もすぐに崩壊(核分裂)しその寿命は500分の1秒ということです。

さてそんな「ニホニウム」は果たして何かの役に立つか(有用性があるか)というと、理化学研究所の研究者自身が「有用性はない」と断言していました。

ただ勿論「理論科学」はこういった「実証科学」により立証されてこそその地位を確立します。従って「有用性がないことは無駄なこと」と断定すると、人類の知性を賭けた「理論科学」自身を否定することになりますから「有用性がないことは必ずしも無駄なこと」とも断定できません。これは物理学の領域における「ヒッグス粒子の存在」や「ニュートリノに質量がある(梶田博士)」ことの発見においても同様です。

さて、その「核融合」と「核分裂」の有用性という面では、太陽はその核融合の(水素が核融合してヘリウムになる)過程での質量欠損から膨大なエネルギーを発生し、そのごく一部は核融合の継続のためのエネルギーに使われ、一方その大部分は外部に光線(赤外線・可視光線・紫外線)として放射され、それがなければ地球の生態系もさらに人類も勿論存在することができません。

産業革命以来、その太陽の恵みである動植物からできた石油・石炭をエネルギー源として猛烈な勢いで消費してきた人類が、その延長線上で今後存在し続けるには、その太陽を地上に作るプロジェクトである「核融合炉」が必須と言われています。

現在の原子力発電はウランの「核分裂炉」ですが、それに加え、すでに行き詰っているように見える次世代のプルトニウムの核分裂炉である「高速増殖炉」すらも、長期的な意味では「核融合炉」が開発されるまでの暫定的な(一時しのぎの)手段に過ぎません。

ただ、人類は、ウラン・プルトニウムの核分裂も、水素の核融合も、制御が不要な形では、原子爆弾・プルトニウム爆弾・水素爆弾として、人類を簡単に数十回以上滅ぼす規模で一足先に開発してしまったというのが現状です。

そういうわけで「科学の有用性」というのは「諸刃の剣」とも言えます。ただしその「諸刃の剣」というのが、よく言われている「科学は中立だが使い方で諸刃の剣になる」という理屈が果たして本当なのか、それとも「科学自体がその思想的な生い立ちからして本来的に諸刃の剣にならざるを得ない」という原罪を背負っているのか。

それに対する回答は、人類がその知性を賭ける「有用性のない研究」の中でこそ生まれることになるのかも知れません。
(おわり)

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