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2016年06月04日17:27

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経済政策で人は死ぬか?

デヴィッド・スタックラー他 『経済政策で人は死ぬか?―公衆衛生学から見た不況対策』 草思社、2014年(原著2013年)

またまた読み応えある本に出会いました。これもリーマンショック後に書かれた経済書で、新自由主義に批判的なもの。新自由主義にというより小さい政府主義にという感じかな。これもビッグデータを駆使した実証研究です。

一章ごとに特定国・地域の事例を紹介していく章立てで、世界大恐慌とニューディール、ソ連、アジア通貨危機、リーマンショック以後のアイスランドとギリシャ、そして第3部はアメリカ。著者達の主張は首尾一貫していて、要するに財政拡大か緊縮か、の議論があるが不況下では財政拡大が正しいというものです。特に不況が国民の健康を悪化させるわけではなく、財政緊縮により悪化するということを世界各国の事例を紹介しながら指摘しているのが特徴です。


何となく周りでも不況時は財政拡大が正しいのが当たり前、という意見にばっかり囲まれていたので、何故政府が緊縮政策を取りたがるのか(レーガン&サッチャー時代以来の流行りという以上には)解せなかったのですが、このように実証的に示す事例がまとめられると国民の為には財政拡大が正しいのだと客観的にも納得。アカデミックな意味では例えば国の選定が(アメリカ以外は先進国の中の多少財政基盤の弱い国を中心に選んでいるようだが)これで良いのか、日本が取る政策としてはどうか、などいろいろ批判や留保もあるのかもしれませんが、ケースとしてはとても興味深く読めました。

特にアイスランドとギリシャの事例は興味深く、例えばアイスランドがケイマン諸島のような政治の場と化していたというのも初耳でした。ギリシャについてはスペインと共にEUの劣等生のようなニュースネタになっていて特にドイツと対立していることは見聞していましたが、サブプライムローン破綻と結びつけては理解していなかったし、そもそもEU補助金やアテネオリンピック需要などもあって破綻直前までは最大で7.5%もの経済成長を遂げるほど賑わっていたことも初めて知りました。

第1部は比較的知られている話中心だと思いますが、自殺率の上昇(の有無)に特に注目してデータを紹介しているのが特徴です。
第3部はオバマケアについて、それと逆方向に舵をきったイギリスの保健制度改"悪"と共に紹介されています。


章構成は
1章 ニューディールは人びとの命を救ったか
2章 ソ連崩壊後の死亡率急上昇
3章 アジア通貨危機を悪化させた政策
4章 アイスランドの危機克服の顛末
5章 ギリシャの公衆衛生危機と緊縮財政
6章 医療制度改変の影響の大きさ
7章 失業対策は自殺やうつを減らせるか
8章 家を失うと何が起こるか
結論 不況下で国民の健康を守るには


著者二人のうち一人、デヴィッド・スタックラーはオックスフォード大学教授の政治社会学博士。もう一人のサンジェイ・バスはスタンフォード大学教授の医学博士。本書の出版後に論文データの誤りが指摘されたりしていたようですが、本書自身に影響があったわけではなさそうです。
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