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2016年05月04日01:18

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くくるくくぱろま(2)

その声の主は、もうこの世の人ではない。だから、もちろん、ただの幻聴。
「もう、待ってなんかいないで、行っちゃえよ」
でも、まぁ〜だ、行くわけにはいかないのだよ、義男君。
私は、マグカップの冷たいお茶の最後の一滴を飲み干すと、ゆっくりと、立ち上がった。
エレベーター・ホールの窓の向こうにあるのは、老朽化した、別の病院の建物。今、近くに新しい病棟を建てているので、完成したら、移転し、古い病棟は取り壊すのだという。
ここは、文字通り、病院銀座のようなところで、私の入院している病院と、その隣り合わせの病院以外にも、近くに2つの病院がある。いずれも、高層階の病院で、きっと、その病室の数だけ、入院患者がいるのだろう。
あまり、大きな足音を立てないよう、気をつけながら、病室に戻り、そっと、ベッドに潜り込む。
カーテン越しには、相変わらず、老人のゼイゼイという、苦しそうな寝息が、続いていた。
寝なければ、もう少し、寝なければ・・。
廊下を歩く足音が近づいてきて、見回りの看護師が、病室をのぞき込み、何も変わったことがなさそうだと、安心して、隣の病室に、移って行った。
「もう」「待ってなんかいないで」「行っちゃえよ」
突然、黒い影が私に覆いかぶさり、視界が真っ黒になって、ただならぬ気配に、私は飛び起きた。
もちろん、誰もおらず、夢とわかる。少しだけ、眠っていたらしい。
しかし、カーテン越しに、隣のベッドが騒がしい。看護師が、先程まで、ゼイゼイと苦しそうな寝息をたてていた老人に、話かけている。
「大丈夫?どこが苦しいの?」
別の看護師が、小走りに駆け寄ってきて、「今、先生を呼びましたから」と、緊迫した口調で、いった。
カーテンが、激しく動く。やがて、「山村さん、山村さん」と、男性の大きな声がして、カーテンの動きに、さらに激しさが増した。
私は、どうしたらいいかわからず、そのまま、ベッドの上で、身を固くしていた。
その日、夜明け前に、老人はどこかへ移送され、そのまま、帰って来ることはなかった。
午前中に、隣のベッドから、シーツが外され、老人の荷物は、すべて、ひとまとめにして、どこかへ運び出された。山村さんは、死んだのだ。
(続く)


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