アクセプト( Accept )は、ヒサを中心とし、英語で歌う日本のプロジェクト。男性ヴォーカル入りブリティッシュ・シンフォの最高峰とも言うべき壮麗さと叙情美を持ちながら、それを破壊して、暗黒の無調音楽にまで至る世界でも稀有の音楽性を有する。その幅広さの理由は、破壊から誕生へ、暗闇から清明へと希求する実存的な探究が根底にあるからだ。
アクセプトの第５作がリリースされたので、５枚の各アルバムから、発表順に２曲ずつ選出して、１０選を作ってみた。
・ 曲 アルバム
�，修瞭�が来ないように�� ( Unacceptable part 3 ) / Silver moon 2007
ドラムス、キーボード、そしてギターの轟音で始まるファースト・アルバム「シルバー・ムーン」の１曲めは、シンフォの王道ともいうべき幕開け。続くのは、日本語女性ヴォーカルであり、アクセプトとしては唯一の曲。発表当時、最もシンフォ・ファンの支持を得たという。生ギターを中心とするアコースティックな静寂パートと、ツイン・ギターが泣くタイトなエレクトリック・パートが対比を描き、完成度の高い楽曲である。
��永遠の少年 ( Puer aeternus ) / Silver moon
衝撃音で始まると、シンフォ・ファンは、「こんな曲を待っていたんだ！」と言わざるを得ない。しかし、オープニングだけでなく、更に徐々にドラマチックさを増していく。最初のヴォーカル・フレーズに続くのは、重厚なドラムスとキーボード。哀切なヴォーカルは、永遠性を見つめているかのようだ。間奏では、ギターとキーボードが闘争する。背景にティンパ二が鳴り響く。何重ものキーボードが織り成される時の河の果てに、永遠の少年は、わずかな光が射す未来を垣間見ている。
�� Wipe off / Mobius 2009
第２作「メビウス」。アクセプトのサウンドが陽光の射す山頂から谷底の暗闇まで描いているのは、精神の内面を広く旅しているからだ。このため、メロディアスなシンフォ曲がある一方で、この曲のような暗黒のアヴァンギャルド曲が登場する。新たに導入したメロトロンが、叙情どころか、ドラムスとともにヴァイオレンスをぶつけて攻撃してくる。精神性としては、クラウス・シュルツェやアート・ベアーズにも似た昏迷を出現している。
�� Another key / Mobius
暗黒を超え、漆黒の夜を超えて、新しい朝が来る。新生を歌い上げる喜びに満ち、爽やかだ。生ギターにコーラスがこだまする。アルバムの冒頭の曲と呼応して、トータル性を象徴する。そして、ラスト曲にふさわしい清明さに満ちた曲だ。最後に聴こえる「パパ」という幼児の声は、新たな道標を示しているかのようで、優しく、そしてもの悲しい。
�� Voiceless cry / Taiji - confrontation 2012
第３作「ＴＡＩＪＩ」。たくさんの岩石が転がる音。鐘。火急を告げるストリングス・オーケストラ。ヴォーカルのメロディーを破壊して響く叫び。衝撃音。変転の激しい楽曲の中に、胎児の声なき叫びを具象化している。オーケストラは壮大であり、合唱あり、男性ヴォーカルありで、１曲の中に広大な空間が込められている。音楽の幅広い地平を旅する汎音楽（パン・ミュージック）の真骨頂だ。
�� Promise / Taiji - confrontation
「ＴＡＩＪＩ」のラスト曲。幾千もの世界をめぐる旅路の果てに、辿り着いた清浄な境地。静寂なメロディーのヴォーカルと生ギターで始まり、浄化されるようなキーボードに乗せて、無数の光が天空に登っていく。ヴォーカルが力強く希望を歌う。暗黒から希望へ。絶望から救済へ。水音とともに、何重にも織り成すキーボードが、流れる川のようだ。
�� Perpetual dance / Perpetual flow 2014
第４作「パーペチュアル・フロー」の第１曲。この曲は、「永遠の少年」の続編という位置づけであり、楽曲もまさしく「永遠の少年」と双璧を成すシンフォの金字塔だ。重厚な叙情メロディーの中で、やがてヴォーカルは、号泣するほどに哀切に歌い上げる。雲間から射す光と織り成すキーボード。へヴィに泣くギター。こんな曲を聴きたがっている人は、世界に多数いるはずだと思う。ゆったりとしたテンポだが、バラードとはならずに劇的に盛り上がる。
�� Beyond that hill / Perpetual flow
「パーペチュアル・フロー」のラスト曲。静かな生ギターとフルート、ヴォーカルで始まる爽快な清らかさに満ちている。丘の上に立って、希望の光を見る。そして丘を越えて歩んでいく。季節は冬が終り、春を迎える。途中から力強いドラムスが入り、何重ものキーボードで盛り上がっていく様子は、讃美歌にも似て、宗教的な荘厳さを湛えている。そしてラスト・シーンでは、救済の光に全身が包まれるかのようだ。
�� Snow, melt, wind / Under the 23rd 2015
最新作「アンダー・ザ・２３ド」は、史実にインスパイアされたトータル・アルバムである。この曲以降ラストまで、絶望から希望へと向かうみごとな楽曲が続く。泣きギターにコーラス。生ギターがベースになっており、やがてヴォーカルは哀愁の極みを歌う。緩やかなキーボードによって、雪と風が舞い踊る。極限に置かれた人々の悲しみ。私は、氷河期の雪の中で、隊列を組んで移動して行った遠い祖先たちのことを思った。吹雪が音響を遠方へと連れて行く。
�� The given / Under the 23rd
「アンダー・ザ・２３ド」のクライマックス部に位置する曲。激しいドラムスとギター。しかし、透明感のあるヴォーカルが暗がりから出てきて、生ギターとともに明るい曲調を作る。多重のコーラスとよく伸びる声。荘厳なピアノと、激しいギター・ソロ。ハード・ロックのへヴィネスをベースとしたシンフォニック・ロックである。アクセプト流ハード・ロックとも言えて、新境地を開拓した。
[番外] 「Perpetual flow」 から、特にもう３曲
「Perpetual flow」は、７０数曲にも及ぶアクセプトの曲群から、シンフォ路線重視で、私が選曲させていただいたので、特に好きな美しいメロディーがずらりと並ぶ。叙情メロディーの宝庫である。
�� To the self
音楽で最も重視したいのは、私の場合、メロディーだ。しかし、へヴィネスのないメロディーでは満足できない。この曲は、メロディアスでへヴィーであり、素晴らしすぎ。泣き叫ぶヴォーカルが歌うのは極上の甘美なメロディーなのだ。これ以上ないほどの泣きギターにも、胸をかきむしられる。ややブルージーなところもあるが、ヴォーカルの透明感と音程の良さが、あくまでも繊細なブリティッシュ・ロックを彫琢している。
�� Hold on to your love
美しいメロディーの連続。煌めくキーボードの金属音が、夜空の星々のようだ。ヴォーカルが優しく歌って、愛情の深さを物語る。これだからラブ・ソングはやめられない。ヴォーカルと英語のうまさも、日本人離れしているではないか。
�� As time goes by
晩秋の枯れた野原や森。その上を北風に乗って渡っていく。ツバメのように滑空しながら、風景を見渡す。キーボードとヴォーカルが淋しげな光景を描き出す。やがて曲は変転して、風車は回り続ける。切々たる侘しさを醸し出すギター。１曲の中で、シンフォからミュージック・コンクレートまで、幅広い音楽要素を込めている。それでいながら、実験的にはならずに、優美な叙景を描いており、汎音楽の１つの完成形を見る思いがする。
○ 試聴できます。
https://acceptjapan.bandcamp.com/album/under-the
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