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2016年01月04日15:49

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アメリカの頭脳・ランド研究所

米国のバラク・オバマ大統領は、中国の南シナ海人工島建設問題でようやく「航行の自由作戦」(FONOP: Freedom of Navigation Operation)の実施を決断した。

  大統領の決断に従い、米海軍のイージス艦ラッセンは、10月27日、中国が建設した人工島周辺12カイリ内を航行した。この航行自体は海洋法上認められている自由航行権の行使であり、国際法上も全く問題のない行動であるが、中国側は激しく反発している。

  そもそも根拠の全くない九段線に依拠した南シナ海における領有権の主張は論理的に破綻しているし、人工島周辺12カイリを自らの領海であるとの主張についても海洋法上否定されている。

  米海軍の作戦は極めて妥当なものであるが、これに対して中国が今後さらに軍事的に反発をエスカレートさせていくか否かが注目される。

  バラク・オバマ大統領がFONOPを決断する際には、国防省などが様々なシナリオを列挙し、数多くのシミュレーションを繰り返し、最悪のシナリオにも対処できることを確認して決断しているはずである。

  米国の国防省が実施したシミュレーションをうかがい知ることはできないが、「米国と中国がもしも南シナ海で紛争状態になったら、どちらが有利であるか? 」を知りたくなる。

  この素朴な疑問に対して答えてくれるのが、ランド研究所(RAND Corporation)が最近発表した「米中軍事スコアカード」(“The U.S. - CHINA Military Scorecard”)という報告書である。

  この「米中軍事スコアカード」は400ページを超える労作である。我が国にとっても南西諸島の防衛を考える際に数多くの示唆を与えてくれる貴重な研究である。

  この大作については日本でも一部紹介されてはいるが、孫引きのような紹介で直接この大作を読み込んだとは思えない文章である。本稿においては、直接この大作を読み理解し、そのエキスを紹介したいと思う。


まず結論を紹介したい。図1「米中軍事スコアカード」が結論であるが、一言で言えば「2017年の時点ではまだ米国の軍事力が全般的な優位を保持するであろう。

  しかし、中国本土に近い台湾紛争シナリオでは厳しい状況になり、人民解放軍(以下PLAと記述する)の航空基地攻撃能力や対水上艦艇攻撃能力が米軍に対して優位となる。

  中国本土から遠いスプラトリー諸島紛争シナリオでは米軍が全般的に優位である」ということである。その他の結論は以下の諸点である。

 ●PLAは、1996年以来、長足の進歩を果たし、全般的にPLAが米軍との能力差を縮小させている方向だが、総合的な能力において米軍事力に追いつくまでには至らない。しかし、中国本土近傍を支配するためだけであれば米軍に追いつく必要はない。

 ●PLAは、紛争の初期において一時的および局所的な航空優勢と海上優勢を確立する能力を有する。特定の地域紛争におけるこの一時的および局所的な優勢により、PLAは米軍を撃破することなく限定的な目的を達成できるであろう。

 ●戦場までの距離と地形は米中双方の緊要な目標達成に重大な影響を与える。中国本土に近くなればなるほど米国に不利となり、米国の軍事行動に対し大きなマイナスとなる。

●中国の戦力投射能力*1
は低いままであり、米国は中国沿岸から遠く離れた地域におけるシナリオではより決定的な優位性を維持している。PLAの事態対応能力と戦闘に勝利する能力は、戦闘機およびディーゼル潜水艦の無給油での行動半径を超えると急速に低下する。中国から長距離離隔した作戦は常に中国にとって不利に働く。 ●しかし、中国の戦力投射能力は向上していて、中国沿岸から離れた地域における相対的戦闘力は変化しつつある点に注意が必要である。

 ●日本にとって深刻なのは中国の準中距離弾道ミサイル(「DF-16」射距離1000キロ、「DF-21C」射距離2500キロ)で、在沖縄米軍基地のみならず日本の全体を射程内に収めることができる。

  なお、図1は米中軍事スコアカードの全体像を示すが、緑色が濃くなればなるほど米軍が有利であり、黄色は米中互角、肌色は中国有利を示している。この図でも明らかなように、米軍には台湾シナリオよりもスプラトリー諸島シナリオの方が有利である。

 *1=戦力投射能力(power projection capability)は、軍事力を海外に展開し作戦する能力で、空母や長距離輸送機などが典型的な装備品である。


■ランドの問題認識

  そもそもなぜ、ランド研究所がこの報告書を作成したかについては以下の4点を列挙している。

 (1)1996年から現在に至る中国の軍事力増強の実態は何だったのか。そして、2017年における中国軍はいかなる様相になるのか。

 (2)中国軍事力は米国の軍事力にどの程度まで迫っているのか。中国が米海軍、空軍、ミサイル戦力、宇宙ドメインでの作戦能力、サイバー戦能力、核戦力に肉薄する危険性はあるのか。

 (3)中国は、台湾および南沙諸島(スプラトリー諸島)を巡る紛争において、どの戦略分野で米国に対する最大の脅威になるのか。

 (4)米国は、中国との紛争において勝利するために、いかに前方展開基地を保持し、戦力を動員し、部隊防護し、能力構築をすべきなのか。

■4段階の分析

  「米中軍事スコアカード」では、戦術、作戦、会戦(campaign)、戦略の4段階で分析するが、中核となる分析は作戦レベルの分析である。シナリオは台湾シナリオとスプラトリー諸島シナリオの2つであり、この2つのシナリオを会戦レベルと呼んでいる。

  作戦レベルでは10個の任務分野(例えば中国の対水上艦艇戦、米軍の中国地上目標に対する航空攻撃など)における分析を行い、10個のスコアカードを作成する。

  なお、作戦レベルの分析における作戦構想としてエア・シー・バトル(現在はJAM-GCと呼称されている)を採用している。この研究を担当した「RAND Project AIR FORCE」のエア・シー・バトルへのこだわりを感じる。
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図3「スコアカード1」

[拡大]

■10個のスコアカードの要約

 スコアカード1:空軍基地を攻撃する中国の能力

  中国は、現代戦における空軍力の重要性に鑑み、前方展開する米空軍基地に脅威を与える弾道ミサイルと巡航ミサイルを開発してきた。中国は今や1400発の弾道ミサイル、数百発の巡航ミサイルを保有している。

  その大部分は射程が1000キロ以下の短距離ミサイルであるが、在日米軍基地に到達する準中距離弾道ミサイルの保有数を増加させている。

  さらに重要なことは、命中精度が向上しCEP(半数必中界)が1990年代の数百メートルから今日では5〜10メートルに大幅に向上し、射距離も短距離(1000キロ以下)から準中距離(1000〜3000キロ)に伸びている。

  RANDのモデルによると、嘉手納基地(台湾海峡に最も近い米国の空軍基地)に対する比較的少数の弾道ミサイル攻撃により、紛争初期の緊要な数日間基地が閉鎖され、より集中的な攻撃の場合は数週間の閉鎖になる危険性がある。

  米国の対抗手段(防空の改善、飛行機格納庫の硬化、より迅速な被害修復、航空機の分散)により、その脅威を減少させることができる。

  しかし、米国の技術的なブレークスルーをもってしても、中国のミサイルの数と種類の増加は、米軍の前方基地からの作戦能力にとっての脅威となる。大部分の米航空機が影響を受けやすい基地か紛争地域からはるかに遠い所から出撃を余儀なくされるため、基地問題は戦場における航空優勢の獲得を複雑にするであろう。

  図3は「航空基地を攻撃する中国の能力」を示し、中国本土に近い台湾紛争において2010年に米中互角になり、2017年には中国有利になる厳しい状況を示している。スプラトリー諸島紛争においては、2010年まで圧倒的に米軍有利であったのが、2017年には米中互角の状況になることを示している。

  なお、参考までにPLAのミサイルの制圧地域の変化を図4に示す。2003年までは沖縄の嘉手納基地を制圧する弾道ミサイルなどはなかったが、2010年以降になるとDF-21Cや爆撃機「H-6」( DH-10ミサイルを搭載)の登場により日本全域のみならずグアムのアンダーソン米空軍基地まで射程内に入ったことが明瞭である


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