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2015年11月18日09:28

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平安五神伝 龍は雲に従う 1−5

「不動金縛りの術、大っ成功〜!」
「何の真似だてめぇ!!おい、聞いてんのか!?」
「むふふ・・・ねぇ、言霊(ことだま)って知ってる?」
「こと・・・?」

 唐突な話題の転換に黄龍は首を傾げた。光元が大仰に頷く。

「そ。妖異とか精霊とかに名前を付けて服従させちゃう素敵な呪術っ。ちなみに式とか式神って呼ばれます」
「―――っ!?」

それを聞いて黄龍の顔が引きつった。
 万物は名がなくては世に存在を認められない。名付けとは相手の存在を定義すること、すなわち相手を縛り付けることを意味するのだ。
 言霊思想に重点を置く『陰陽師』という術者が行えば、それは相手を服従させる儀式に成り代わる。全身の神経が不可視の圧力を感じている事が、光元の言葉が真実であることを証明している。
 そして呪縛で動けない黄龍は、既に名付けを待つ事しか出来ない袋の鼠状態だ。
 だがしかし、勿論気性の激しい性格の彼が素直にその呪縛を受け入れるなど出来るはずも無い。故に唯一自由なその口で、言葉の抵抗を試みる。

「ハッ!名づけ親に服従だと!だ、誰がそんなホラ話をほざいて―――」
「術書ってすごいね。なんでも書いてあって」

 ・・・たとえ論破されようとも。

「お、俺なんて止めとけ!後悔するのが関の―――」
「名前は何がいいかなぁ…」

 ・・・たとえ無視されようとも。

「俺は龍なんだからな!お前みたいな人の子ごときが、そんな大それた事するもんじゃ―――」
「黄金色だからぁ、う〜ん…」

 ・・・たとえ無駄だとしても。

「末代まで呪ってやるからなっ!どんな呪咀より辛い苦しみを―――」
「よし、決めた!」

 光元はガバッと顔を上げて、突然の叫びに目を丸くする黄龍に向かって単刀直入に一言。

「黄金色だから『コーちゃん』で決まり!!」
「な…コー……え…?」

 普通他人に付けるにあるまじき命名。それは本来愛称の領域に分類されるのではなかろうか。しかし光元は、最高の案だと言わんばかりに、至極満足げに笑みを浮かべるだけ。
 こうして仮にも気高い黄龍の彼は、今からめでたく『コーちゃん』であり、光元の配下となった訳だ。

「めでたくねぇ!!」
「何いきなり吠えてるの?」

 虚空に向かい叫ぶコーちゃんに光元は満面の笑みで片手を突き出し、

「よろしくね、コーちゃん!」

 改めて呼ばれてみると背筋に悪寒が広がってきて、その名の恐ろしさがありありと伝わってくる。誇りも深長な意味もない。愛玩動物、もしくはそれ以下の名前ではないか・・・。

「・・・・・・」

黄龍は反論しなかった。生憎一度交わされた約束を違えるつもりは無いらしい。義理堅さや一種の意地・・・というわけでもなく、単に言霊から逃れられないという理由で。反論出来ない辺りにその効力の強さが窺える。無言で俯く男に、術を解いた光元が苦笑して、

「ほら、何だかんだ言って最終的に君の住処奪ったのは僕だし、責任あるでしょ?」
「マジでいらねぇお節介だ・・・・・・」

彼が光元の手を取らず地面に突っ伏したのは当然の理であった。
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