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2015年11月05日22:12

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龍雲 七章之一

白河が突き出す画戟の穂先を、黄龍の刀が器用に受ける。白河は絶妙に力を込める角度を変え穂先を刀の側面から逸らし、続く月刃で追撃を行う。目的に気づいた黄龍が刀を思いきし上段に振る。跳ね上げられそうになった得物に白河が力を込めて抵抗、長い柄と刀身が噛み合い、互いの刃を振り切ろうと鍔(つば)迫り合いの態勢で両者が組み合う。

「キリがねぇな」
「えぇ。ですが久しぶりに充実した時間です」

互いに浮かべるのは喜悦と尊敬の笑み。あれだけ刃を交わした後というのに疲労の影も見えない。

「これほど長く私の前に立っていらした方は久方振りです。決着をつける前にお名前をお伺いしても―――」
「聞くなっ!」

黄龍の即答っぷりに白河は目を丸くして言葉を失う。対決して小さな友情に近い何かを抱いた者同士で、この願いを断った相手はおそらく彼が初めてではなかろうか。反射的に断ってしまった黄龍も同じ気持ちなのだろう、ばつの悪そうな顔をしていた。
それでも、どうしても彼の口からは言えなかったのだ。
自分の名前は『コーちゃん』です・・・言える訳がない!

「訳ありだ・・・許してくれ」
「え、えぇ・・・」

相手の深刻な顔つきに白河はしどろもどろに頷く。険しい顔の黄龍は、内心で主人を半分に折って、四つに畳んで、八分に刻んでいた。
その時、首筋を焼け付くような痛みが襲った。それが本能の警鐘と理解する前に刃に込めていた力を反転させて背後に飛びのく。白河も同様に後方へ退いていた。
直後、凄まじい力の奔流がさっきまで二人の立っていた場所を吹き抜け、直線状にあった築地塀の一角を破砕する。その通力の形に見覚えがあった。

「これは・・・九字?!」
「ちょっとー!何やってるのさー!!」

黄龍が脳内で細切れにした人物・・・若草色の狩衣の少年が頬を膨らませて仁王立ちしていた。黄龍の瞳が驚愕に彩られる。主人は立腹の様子だが・・・まさか読心術でも用いたのだろうか。
ひとまず弁解すべく、男の口が開かれる。

「光元!」
「青月殿!」

隣の人物と声が重なった。呼び方こそ違えど、二人は同じ人物の名を呼んでいた。

「・・・・・・あ?」

意味不明、と言ったように黄龍の黄金色の瞳が白河を見やる。相手も同じような表情で黄龍を見ていた。ついでに塀の上の玄武と烏輪も瞠目している。

「え?何?何この空気?」

固まった周囲の様子にさしもの光元も動揺を隠せない。

「・・・こいつ、お前の知り合いなの?」

黄龍が空いた片手で白河を指さすと、光元は真顔で頷く。

「うん、クーちゃんと会う前からの顔なじみだよ。別れ際に僕の所で働かないかな〜って誘ってたんだ」
「私はその誘いを受け、自らの用事を済ませた後にこうして再び馳せ参じました」

白河も同意する。しかし、今までの経緯を見ていた玄武と烏輪は納得出来ない。

「信じがたいな。先ほどから此処の宿主人とこの京を壊滅させる計画を話し合っていた当人だぞ?しかも白河という名はよく聞く大妖怪の名だ」
「そうよ・・・知り合いのはずがないわ!だって白河様はずっとお屋敷で隠居されている身で・・・」
「えぇ、確かに白河は東国の大妖。配下にさえ身元を明かさない秘匿の身・・・それ故に暗殺してすり替わるのは容易(たやす)かったですね」
「え・・・」

白河・・・と思い込んでいた人物の発言に烏輪の声が震える。銀髪の美丈夫は構わず言葉を続ける。

「私は青月殿への手土産に、大妖討伐の手柄と共に屋敷の物品を運んだだけの事。配下の妖異が目隠しの黒衣一枚纏っただけで勝手に主人と誤解して下さったのは思わぬ誤算でしたが・・・この平安京で何やら企てている様子でしたので、そのまま主人となり替わり事の顛末を見届けておりました。こちらに青月殿がいらっしゃるとは・・・本当に奇遇でしたね」

役目を果たした男は頭を垂れ、優雅に一礼した。

「持ち込んだ物品と配下達、また白河の本拠地と居残りの妖異に関しての処遇は青月殿にお任せ致します」
「そうだねぇ、お疲れさま。あとで落ち着いたら整理つけさせてもらおうかな?」

光元は黄龍の方へ向き直る。
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