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2015年11月04日23:49

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龍雲 6章之5

黄龍の落雷は一期一会の敷地内数か所に及んだらしく、空へ黒煙の筋が何本も伸びている。それだけ彼の気は高ぶっているらしい。

「うぉるぁぁぁあああ!!」

宿の外に備わった中庭の中央で、黄龍の振る刀身と白河の持つ閉じられた檜扇がぶつかる。鋼同士のぶつかり合う音と共に周囲で紫電と突風が渦巻き、衝撃で黄龍の肩にかかる青布や白河の黒衣が大きく翻った。狂い咲きの桜の花弁が二人の周りを舞い飛ぶ。

「刃に加えられる力もそうですが、何より貴方自身の意欲が違う・・・これこそが本来の貴方の力ですか」
「だから言っただろうがよぉ!さっきまでの俺と思うなっ・・・て!」

黄龍の剛腕が檜扇を押し返す。白河は背後に跳んで距離をとる。黄龍はそれを不敵な笑みと視線で追った。

「今までの俺は・・・そうだな、首輪付きだったようなもんだ。外すきっかけをくれたてめぇには感謝しねぇといけねぇかもな」
「刃の返礼とは・・・、相手が私以外なら憤慨ものでしょうね」

黒衣の向こうで笑みを含んだ声音が返す。

「本来の貴方の黄泉蘇(よみがえ)りを歓迎しましょう。剣戟の交わりという宴で・・・」
「それなら更に華を添えて欲しいもんだ。てめぇの本気も見せてもらおう。扇をちらつかせるだけがてめぇの全部じゃねぇのはわかってんだ」
「欲張りですねぇ・・・」

白河の空いた手が黒衣の頭部を掴む。引き上げられたその下から典雅の美貌が露わとなり、愉悦と戦意を宿した銀灰色の瞳が黄龍を見据える。

「・・・ですが、今の貴方が相手ならコレのもう一つの姿を見せるのも一興な気も致します」

白河の手にしていた檜扇が突如燐光に包まれる。光は伸長し、持ち主の身長とほぼ同等の長さになった時に突如弾けた。白磁色の手が握るのは檜扇ではなく一本の戟(げき)であった。槍の両側に三日月型の刃が備わった画戟(がげき)と呼ばれるものだ。
白河は柄を両手に持ち替え、身長程の長さの得物を軽々と振り回す。女にも見える華奢な見かけからは想像出来ない腕力だ。

「宿に着いてこれ以上顔を隠し視界を塞ぐ手間も必要なくなりましたし、私も好きにさせて頂きましょうか」
「一丁始めるか・・・第二回戦!」
黄龍と白河から立ち上る妖気の量が増幅していく様を、玄武は築地塀の上でしゃがみ込み傍観していた。ただ、相変わらず宿の何処かに仕掛けられた道具のせいで妖気を妖気として普段のように感じ取る事は出来ず、桜吹雪の荒れ狂う様子で周囲の妖気の密度を確認しているだけに過ぎない。
そうでなければ、その力の濃度は同じ妖異の類(たぐい)である玄武にとっても近寄りがたい距離であるはずだ。

「ちょっとー!離しなさいよ!!」

下から響いた甲高い叱責に玄武の濃緑色の瞳が向けられる。
彼と敵対していたはずの烏輪は未だに池の中で尻もちをついていた。否、強制的に固定されていた。池の水は白っぽい色を帯び、波紋のひとつもたたない。池の水は烏輪を巻き添えにして全て凍り付いていたのだ。
彼女の武器である常闇は彼女の手を離れ池の底に沈んでいた。持ち主の手に収まっていない剣は無の空間を作り出す事ができず、水底で沈黙している。

「こんな仕打ち許せないわ!ちゃんと戦いなさいよ!!」
「相手が戦闘態勢に入る前に済ませるのがオレの戦闘の流儀だ。乗せられたお前が悪い」

玄武は事も無げに言ってのける。武器をぶつけ合わせ殺し合わねば戦闘ではない、という戦士の矜持など彼の理解の外であった。玄武にとっては合理性こそ第一。自分の邪魔さえしなければ相手の生死や戦闘意欲など問題ではないのだ。

「大体、向こうの戦闘で巻き添えを食らうよりマシだろう。いいから大人しくしておけ」
「う・・・」

巨椋池で当の大妖二人の間に挟まれ委縮し、一瞬でも死を覚悟した身としては反論し難い意見だった。
玄武と烏輪の視線の先で、画戟と刀が火花と紫電を散らして何合も打ち合わされている。相手の攻撃を防いだり避けたりする事で不規則に立ち位置が入れ替わる。玄武は飛刀片手に思い悩む。

「しかしこれは・・・助太刀の余裕もないな・・・。下手すれば妨害になりかねん」

突風が吹き荒れ紫電が飛び交う戦場に投擲武器を用いるのは得策ではない、と彼は判断する。
その時、ふと前方に湧いた気配に玄武の首が跳ね上がった。

「ん・・・?」
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