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2015年09月12日10:10

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MMRPG 田舎村にて 5

牧場と崖の間では未だに二人の戦闘が続いていた。
ちーほが横なぎに一閃させるデス・サイズの下を潜り抜け弐兎が拳を突き出す。流星の如き一撃を最後の一体になった『自動追跡泥人形(オート・マータ)』が間に割り込んで受ける。しかし弐兎の拳は原油の壁を破りちーほの右肩を殴りつける。細い体が後方に吹き飛ばされる。

「・・・あー、防御がなければ、肩からちぎれ飛んでたかもな・・・やべぇやべぇ」

ちーほが悪態をつきながら起き上がる。脱臼して不自然に曲がった肩を無理やり嵌める不気味な音が辺りに響く。その様子を、弐兎はうんざりしたような瞳で見つめて『自動追跡泥人形(オート・マータ)』から腕を引き抜く。

「っは・・・っは・・・」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

互いの口から喘鳴。体力の限界が近づいていた。
ちーほは自分の再生能力の限界への挑戦を迫られていた。慣れない近接戦闘では壁役の援助を挟んでも戦闘センスに歴然の差があり、受けた致命傷は数知れない。霊力が底を尽きかけ、重さなど本来感じるはずのないデス・サイズを引きずるのが精いっぱい。
弐兎の方も、炎や煙、大岩での負傷が彼女の限界を極端に縮めていた。進んでくる動作に機敏さがない。
間合いを詰めた弐兎が竜の爪を繰り出す。対するちーほは、もはや回避に専念。

「何処を旅してみても、似たようなもんだ。ど、いつもこいつも・・・自分の脆さを、私のせいにする・・・」

「・・・・・・?」

挙動と息切れの合間に竜人の呟く声が聞こえる。

「ど、いつも、こいつも、痛めつければいいと思ってる奴ら、ばっかりで・・・飽き、飽きなんだ、よ・・・」

過酷な場面故に苦い思い出を振り返ってしまったのだろう。己を吐露した物悲しい呟きだった。

「私の価値って、そこ止まりか・・・?」
「それは一体どういう・・・」
「ぁぁぁぁあああーーー!」

ちーほの問いはけたたましい絶叫にかき消される。思わず二人して振り向いた。すぐ眼前まで迫っていた金の壁。意味不明な光景にこう呟くしかない。

「「は?」」

満身創痍と奇襲で完全に不意を突かれた二人はそのまま呑み込まれ、地面に引き倒された。

「ぐえ」

次いで、倒れた頭の上でカエルの潰れたような声がした。

「これは・・・狐の尻尾?!」

ちーほが覆いかぶさる物体に既視感を覚える。ぶつかった壁による痛みはなかった。壁とは、柔らかさと艶やかさを併せ持った四本の狐尾だったからである。

「つーことは・・・月詠さん?!」

狐尾の根元で狐巫女がのびていた。凄いスピードで若者二人という重(おも)りに引っかかった月詠は遠心力の勢いまで加わって地面に叩きつけられたのだった。
ご愁傷様・・・と内心で両手を合わせて弔いつつ、ちーほは相手していた竜人を探す。一本の狐尾の下から弐兎の手足が覗いているのが目に入った。おもむろに両手が空に突き出され、尻尾に巻き付く。

「うみゃあぁぁぁぁぁ!!」

月詠が悲鳴を上げて跳ね起きた。

「何すんだおらー!」
「理不尽っ!」

起きざまに繰り出された拳でしたたかに殴られる、何もしてないちーほ氏。口で反論しつつ何処か嬉しそうである。

「尻尾を掴むなぁ!・・・って、お前かぁぁぁ!!」

尻尾に取り付く弐兎に気付いてその一本をブンブン振り回す月詠。

「いやぁ、ごめんごめん。あんまり手触りよかったもんでつい・・・」

弐兎が手を離す。離された尾を見て狐巫女の顔に絶望。

「うわぁぁぁ真っ黒・・・原油で真っ黒・・・」
「重ねてごめん。でもそれ作って襲わせたの、おたくの方だからね?それにしても・・・ははは、こんな止められ方されたの初めてだよ」

弐兎は笑っていた。瞳や手足が人間の物に戻り、顔の模様も消えている。

「あーそちらさんの手が止まったし私も満足したから白状するけどさ、私は道の真ん中に転がってた大岩を通路の邪魔になると思って壊してただけだから。町中でチンピラに絡まれて苛々してたから思わず喧嘩買っちゃったけど、暴行罪も窃盗罪も器物破損罪も身に覚えないから」
「・・・はぁぁ?!」

月詠が頓狂な声をあげる。

「チンピラって、もしかしてこいつらの事か?・・・あ、やべ、落とした」

頭上からちーほの声。直後に女達のすぐ横に何かが降ってきた。縄で縛りあげられ気絶した男達、ヒグドとハルディドだった。

「手荷物の中に農業用の鎌と鍬が入ってた。ついでに崖の上には運搬用の荷馬車と数個の大岩。不自然と思っていたが、竜人さんの言う牧場の柵を破損させて道路の真ん中で進路妨害していた大岩も、火炎の上に落ちてきた大岩もこいつらが降らせたらしい」

農機具を手にしたちーほが地面に降り立つ。女達がワイワイ騒ぐ間に一仕事終えてきたようだ。

「え?じゃあ結果オーライ?」
「・・・だな」

互いに親指を突き出す狐巫女と死霊術士。

「よっしゃ!報告と報酬!そして本屋ーーー!!」

戦闘の疲れは何処へやら、月詠は農機具を掴むとユリット村へ走り出す。
本への執念、おそるべし。
遠くなる巫女服の背中を、弐兎は細めた目で見つめている。立ったまま横に並ぶちーほも同じだ。

「楽しそうだな、あいつ」
「夜なのに・・・眩しいな」

ちーほは視線だけ下に送る。何処か寂しげに見える娘の横顔に先ほどの言葉が思い出された。

「勝手に解釈しちゃいけねぇと思うが、俺もお前と同じで過去にいろいろ虐げられてきた」

弐兎が首を振り仰ぐ。夜の紳士の視線は広げた己の手のひらを見つめていた。

「こーんな体だからな。見た目どころか気配から気色悪いって言う奴も沢山いた」

なぜこんな話をするのか自分でもわからなかったが・・・自分を悲観する姿が過去の己を投影しているようで、放っておけなかったのかもしれない。

「でも・・・旅の中で嫌ってくる奴らばかりじゃなかった。月詠さんのように受け入れてくれる奴もちゃんといる・・・世の中そんなに捨てたもんじゃないぜ?実際、今の旅は楽しい。もしかしたら人生を賭けて研究に没頭してたあの頃よりも・・・な」

ちーほは弐兎に手を差し出す。

「・・・立たせてくれるのか?誤解とはいえ殺し合った私を?」

きょとんとする竜人にちーほは頷く。

「俺は全国の淑女幼女の味方・・・紳士だから、な」
「あはは。何それ、すっごい偏ってる紳士」

弐兎は笑いながら差し伸べられた手をとる。



翌朝、まだ日が昇り始めて間もない時間に月詠とちーほは村はずれの道を進む。
夕方と違う所は、荷馬車に乗っている事だ。
「まさか、でしたね・・・」
「うん、この田舎町での私達の得たものは大きかったよ・・・」

収穫はあった、というのに二人の足取りは重い。
操縦席の月詠が、懐からガマ口の財布を取り出す。口を開けて中をのぞき込む。

「そう・・・まさかの現物支給・・・!!」

逆さにされた財布からは銅貨一枚さえ出てこなかった。
夜の内に農夫の元に犯人の身柄と農機具を収めた月詠達は被害者家族に大変感謝された。

「ありがとうごぜぇます!ありがとうごぜぇます!!・・・で、報酬のお話ですが・・・」

目の前に差し出されたそれは、見事な黒毛の子牛だった。足元がプルプルしている。聞けば、今日生まれたばかりらしい。

「大きくして乳絞る牛にしようと思うたんけど、お急ぎみたいだしすぐに解体処理するべ。子牛の肉は柔らかくて旨いって言うし・・・・」
「待て待て待て」

包丁を持ち出そうとする農夫を月詠は両手を突き出して止めた。

「お代は・・・結構です」
「え?でも・・・」
「本当に結構ですから!!」

菜食主義という訳ではないが、流石に生まれたばかりの命を散らすのは罪悪感が・・・!
腹痛でも患ってるんじゃ?と思うほど非常に苦しそうな笑みだった、と後のちーほは語った。

「はぁ・・・報酬内容も事前に聞いておけばよかった・・・」
そんな訳で、彼女達の得た報酬は逮捕されたチンピラ共が置き去りにした荷馬車と馬だけだったという。資金に関しては治療薬代でもはや赤字目前である。

「あ〜〜〜私のギャモス〜〜〜」
「まぁまぁ、こうして昼間も行動できる足が出来たんですから、よしとしましょうよ」

荷馬車の奥からちーほのなだめる声がする。荷馬車の屋根が日光を防いでくれているのだ。

「そうそう。欲張りはよくない。得たものがあってよかったじゃん」

隣もちーほに同意する。月詠の首が苛々しげに回される。

「弐兎!お前も新しい本が欲しくないっていうのか!?」
「私は今あるやつを読むのに忙しい」

弐兎は再度新調した眼鏡を押し上げながら膝の分厚い本を抱え直す。
それは新たな収穫・・・道連れが一人増えていた。

「何おぅ?そんな事で本の虫が名乗れるかぁ!」
「名乗ってないし!名乗る気もないし!大体ギャモスって何?」
「え?知らないの?怪獣シリーズ100の栄えある83番に名を連ねるギャモスシリーズを?」
「知るか。というか半端な数だしシリーズものかよ!」

新参者と古参者の壁などまるでありはしない。

旧知だったかのような賑やかさで一行は次の旅へ進む。


PS
「・・・という事があってよぅ、旅のお方は何も受け取らずに去って行ったんだぁ」
翌日、農夫は町の知り合いに昨夜の出来事に関して語ったという。
「なんて良識に溢れたお方だぁ・・・!」
「まっこと義の人よのぅ・・・!」
「そうか!もしやその方々が噂に聞く勇者とやらでは?!」
「なんと!世界平和の為に人々を助けて回る旅人達とはその人達であったのかぁ・・・ありがたや、ありがたや・・・」

そんな訳で、小さな村から彼女達の勇者伝説は始まったとか、ないとか・・・。





あとがき
なんだかんだと長くなりましたMMRPG第二弾。弐兎との出会い編となりましたが如何でしょうか?
前回のあとがきで続編よろ!と無茶ぶりしたら「無理」て返ってきたから書いたのさ。別の二人の出会い編書いた身としてはもう一人分書かないとのけ者にしたみたいで後味悪いじゃない。

弐兎の仲間入りの理由に関しては完全自己解釈ですね。中の人的には「面白そうだから」って事らしいですが、よく考えれば故郷で過度な力故に理解者は師匠一人という境遇で、旅先だからっていきなり共同行動希望するって凄まじいコミュ力だなと思ったわけで・・・w
「面白そうだから」が本心なのかついてくる言い訳なのかイマイチ彼女の性格が掴み切れなかったのでひとまず今回は紳士が紳士する形で勧誘させて頂きました。


マイミクさんのつくってくれた3人分のキャラデザ見て、3人で内容に関して話してる間にも私の脳内では「こいつらの出会いって対決からしか浮かばないwww」でしたw案の定書くとなったらgdgdだった訳ですが、大団円で締められたからいいのではなかろうか?
しかし対決といってもあんまり敵対意識しすぎると決壊したままになりそうだし、戦闘に関しても役割正反対の2組にどう花を持たせるかいろいろ悩みました。
その結果尊い犠牲になったチンピラ達には軽い黙祷でも捧げておこうかと思います。

現状メンバーsの出会い編は書き終ったので、今後またMMRPGで遊ぶ場合は1ページ程度の軽いもので済ませていきたい所ですよー。
執筆即掲載だったので読み返すと誤字とか結構あるのでまた暇が出来たら直していこうと思います。ではでは。
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