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2015年09月07日01:01

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MMRPG 田舎村にて 3

「予想通り・・・だな」

森林の中ほどにある巨木の枝の上で、ちーほと月詠は樹木が倒れていく様を見つめていた。

「竜人は身体性能に特化した一族・・・物理攻撃・防御面ではビカイチだからね。風の刃程度じゃ目くらまし程度にしかなってないと思うよ。ついでに言えば突飛抜けた火に対する耐性・・・正直言わせてもらうと、現状攻撃技がその二つしかない私は詰んでる状態なワケ」

月詠は他人事のように自分の不利を並べ立て横の相棒を見上げる。口元には、微笑み。

「でも私達が勝つよ」
「当然」

ちーほも手の鎌を旋回させつつ笑みで応(こた)えた。彼の被る黒い帽子の縁が月光に煌めく。

「『紅い満月の祝祭(レッドフルムーン・パーティー)』の時ほどじゃないが、今夜の俺は調子がいい」

樹上の男が背負うのは満月。今日は偶然にも月に一度、彼が最高に力を振るえる日なのだ。

「それは頼もしい。ただ・・・」

月詠は腕の呪具『火輪(かりん)』を回しながら複雑な表情となる。

「竜人族って世間的には教養があって礼儀を重んじる種族って言われてるんだよね。気まぐれで衝動的に強盗を働くとは思えないんだけど。でも正義の塊って感じにも見えなかったし、あの人自体になんともいえない不穏さがあるというか・・・うぅん・・・」
「悩んでるところ申し訳ないが、相手は考えがまとまるまで待ってくれる余裕はないようだぞ」

ちーほが言うが早いか、視線の先の茂みが掻き分けられて竜人の女が姿を見せる。

「どうした?もうかくれんぼはおしまいか?」

殺気さえ漂う猛獣の眼光に、月詠は自らの考えを改める。

「訂正。正義とかないわー・・・」

どこか達観した瞳で、二人は自分達が立っている枝に巻き付いている緑のツタにそれぞれ手をかける。

「じゃ、例のプラン実行ってことで」

一陣の風刃が枝に巻き付いていた二本のツタの一端を切り取った。月詠とちーほは虚空へ飛び出す。振り子の原理で二人は風を切りながら更に奥地へと運ばれていく。ツタの伸びていた方向は異なっていたらしく、一人は西へ、一人は北へ。

「そういう方法もあるんだな。私の飛行能力を削(そ)ぐって意味合いだけじゃなかった訳だ」

感心した素振りをみせつつ、弐兎は両足をたわめる。

「じゃあ、私も地形を利用させてもらおう」

凄まじい脚力で前方跳躍した竜人は大木の幹に四足獣の姿勢で着地する。重力が体を大地に引き寄せる前に更なる跳躍し、深い茂みの上を撞球反射(どうきゅうはんしゃ)で移動していく。

「げ・・・こっち来た!」

大木が揺さぶられる騒音を背景に、追われる月詠は次の張り出した枝に着地。慌てて次のツタを手にして更に後退を続けていく。

「相手は前衛職・・・距離を詰められたら一瞬で終わるっ・・・風刃乱舞!」

背後に向けた狐耳で距離と間合いを計り複数の風の刃を放つ。

「そんな直線的な攻撃、屁でもないねっ!」

弐兎は次の着地地点を予測して放たれた攻撃を、更に加速する事で回避する。高速移動する中でもぶれない視界は、獲物に対して障害物に邪魔されない撞球角度を捉えていた。

「ここだっ!!」
「うわわわわわわわっ・・・・あ」

巨大な弾丸となって迫った強襲者に、慌てて逃れようとした狐巫女の手が滑る。弐兎の振りぬいた拳が先ほどまで月詠の頭部があった虚空を走り、数本の黒髪とツタを断ち切った。
支えを失った月詠は回転しながら飛ばされる。更に勢いのまま地面を転がり、森林の中に突如現れた黒い沼地の入口でようやく止まった。

「いったーーー!」

痛みに呻きながら立ち上がろうとする狐巫女に対し、頭上から竜人が追撃に走る。

「これでキめる・・・!」

急降下の勢いを乗せて、弐兎渾身の一撃が振り下ろされる。弐兎の紅瞳が捉える月詠は、自身の前で印を描いた。

「我を守護せよ・・・『土遁障壁(どとんしょうへき)』!」

呪文に呼応して沼地の汚泥が鉄砲水のように吹き上がり、その奔流が横ざまから弐兎に激突。全ての勢いを押し流していく。土の気を操り防御する、月詠が旅立ってから覚えた新技だ。

「うっわ何これ?!気持ち悪っ!っつか臭っ!」

地面に手をついて跳躍し泥の流れから逃れた弐兎であったが、その全身は汚泥ですっかり汚れていた。その粘っこさと悪臭に顔をしかめ足元の草地で泥を落とそうとするが、なかなか上手くいかない。

「あはは・・・私が闇雲に逃げてると思った?」

受け身をとれず強打したらしい肩を押さえながら、月詠が薄い笑みを作る。

「残念だけど、お前を此処まで誘導することが私の目標だったのさ」
「何・・・!?」
「追うんだったらちーほの方にすべきだったね。そしたら一発くらいは殴れたかもしれないのにさ・・・いけっ、『自動追跡泥人形(オート・マータ)』!」

掛け声と共に沼地に幾つも隆起する箇所が生まれる。黒い泥の柱は二本の足・腕・中央の太い胴体、そして頭部の円を作り、沼地の中から這い出てくる。

「こいつら邪魔くさいんだが・・・っち」

不躾に寄ってくる泥人形の頭部に風切り音を鳴らして回し蹴りを叩きこむ。しかしそのあまりの粘度の高さに貫通せず、逆に足を引き込まれそうになる。慌てて軸足を回して足を引き抜くと、蹴りによって空いた大穴はすぐに塞がった。

「しゃらくさい・・・」

それなら術士の方を叩けば・・・と振り返れば、月詠が舌を突き出し・・・たのが見えた瞬間、幻だったかのように姿をくらませてしまった。彼女の得意技『空離(くうり)』で瞬間移動したのである。
獲物の消失に思わず弐兎は目を瞬かせて唖然としていた。しかしその間にも泥人形は弐兎目掛けて動き続ける。竜人の娘は自身を落ち着かせるように息をつく。が、悪臭でむせる。

「ゲッホゲホ・・・ひとまず、蹴りも拳も効かないってのは流石に分が悪い」

判断した弐兎はもと来た道を走って戻り始める。更に突き進んだ所に同じ沼がいくつ存在し、敵が増えるかわからないからだ。
猛スピードで駆ける竜人を、泥人形の群れは草地に汚泥の線を引きながら緩慢な動作で追っていく。その背丈は、沼から離れるほどに小さくなっているようだった。

「効果範囲があるって訳ね・・・それならこのまま突っ走って振り切る!」

確信を持った弐兎は更に撤退の速度を上げる。




弐兎は自分が樹木につけた傷跡を追って森林を突破する。足をよく動かしたおかげで足元の汚泥は粗方振り払われ、動きに軽快さが戻っていた。
背筋に焼けつくような気配。本能的に体勢を低くとり、左方向に飛び退く。直前まで弐兎の首があった位置を光の円弧が走る。

「惜しい。この『ソウル・アタック』での奇襲は完全に決まったと思ったんだが・・・さすが竜人族、と言ったところか」

崖を背に停止した弐兎の視線の先では、先ほど振るったらしい『死神の鎌(デス・サイズ)』を片手に悠々と立つ黒装束の男、ちーほがいた。得物を脇で固定し不敵な笑みを作る彼に弐兎の目つきが険しくなる。
敵が二手に分かれた時、弐兎は月詠を追った。低身長に巫女という補助職を体現した衣装の彼女の方が御しやすそう、というだけでなく、彼女は本能的に感じていたのだ。
目の前の男は敵に回すべきではないほどに・・・ヤバいと。

「つい夕方の話だ。月詠さんと面白い話をした。死霊術士の術が作用するのは霊の魂なのか、それとも器になる肉体の方なのか」

突然の語り口調に弐兎の脳内に疑問符が浮く。

「そこで思いついた。両方をこなせる俺なら、元々の器が崩れてたとしても、魂を喚起させればアレを呼び出せるのではないかとね。つまりだ。お前が浴びたソレは泥じゃねぇ」

言われて弐兎は自身を見返す。衣服や肌に染みついた黒く悪臭を放つ汚泥・・・確かに単なる土ではない。

「それは俺が『妖霊喚起(サモン・ファミリア)』で呼び出しておいた、太古の生物の死骸が時間をかけて液状になったもの・・・つまり原油だ。死骸が蓄積されてる場所がかなり限定的で使える場面が少ないのが玉に瑕(きず)だが、斬っても殴っても再生する油人形は死人兵団レベルには怖がれたろう?」

明かされた事実に硬直する弐兎の目の前が黄色一色になる。月詠が竜人をのぞき込む姿勢で転移していた。狐尾の先には、小さな火花。

「オマケに、燃料だけあってよく燃えるしな」
「ちょ、ま・・・」

ちーほが言うが早いか、火花はたちまち弐兎に引火。原油を染み込ませた火種状態の竜人はたちまち炎と、それ以上の黒煙に包まれた。

「ねぇちーほ」

再び転移術を使って移動した月詠が白髪の青年の横に並ぶ。狐巫女の眉尻はちょっと申し訳なさそうにうなだれていた。

「原油ってたしかに燃料だけど、実は不純物がいっぱいで・・・あんまり燃えない」
「・・・・・・はぃ」

ドヤ顔だった男の青白い顔に僅かに朱が差した気がする。月詠とも噴煙とも関係ない場所で誰かが爆笑するように空気が揺れる。

「あぁーーー黙れ黙れ黙れっ!!」

ちーほが何やら叫んでがむしゃらに鎌を振り回しているが、月詠は「彼なりの照れ隠しなんだよ」と自己暗示をかける事にした。

「さ、さて・・・竜族が火に強いって言ってもこれほどの煙に対してはどうかな〜?農夫のお父さんに謝罪して反省する気持ちが湧いたって言うなら、消してあげない事も・・・」
「月詠さん、危ないっ!!」

口上を並べてる間になんだか視界が薄暗くなったなぁ、と感じた直後、月詠は強い力でちーほに突き飛ばされていた。二人して地面に倒れこむと同時に、大きな振動と地響きで全身が揺れる。

「うっそ・・・」

崖直下、ちょうど弐兎を火攻めというか、煙攻めにしていた場所に見上げるほど大きい岩が鎮座していた。圧迫された衝撃で炎と煙は消失している。
・・・という事は、燃えていた彼女も・・・?

「崖から熱波で落石?!こんなの想定してない・・・!」

愕然とした月詠の嘆きが、静けさを取り戻した夜空に響く。

つづく


文章量的に前回分くらいになったのでとりまここまで。
弐兎があんまり活躍出来てないけど次で暴れるはず・・・はず。
そして次回こそラストになると思います。・・・プロットの残り的に。まだ書いてないから確定は出来ないけど今週完結を目指すの。
参加者達の落書きとか設定説明とか励みになってますありがトン!

ちなみに原油人形は生成(サモンファミリア)から使役(コープスパーティー)まで全部ちーほの仕業です。中にはちーほのお付きの幽霊が入ってると思ってます。
なので、人形に奴らの口調で話させるとか、笑い声あげさせるとかも面白そうだなーと思いつつ気力が足りなくて最低限の文章量に抑えております。
ちなみに月詠の容姿クリソツ説もあるんですが。。。(精密でなく、あくまで造形まで)

戦闘回は以前の皆さんと自分の作品と睨めっこして、技を羅列して、どうすりゃーええかのうと悩む日々ですね。楽しいけど難しいね。書いてて頭痛くなりました。つっきー難しい事考えるの嫌いやねん(ぇ

なるべくみんなに見せ場を〜〜〜と思いつつ作ってますが、やっぱ自分で設定決めれる子が扱いやすいってのはどの親御さんも一緒と思いますけど月詠の出番が目立つようで申し訳ない。もちっと分散すべきかなーと思いますがどこまでよその子に語らせていいかってなるとね!ワカンネーから月詠にやらせとけやらせとけって足踏みしちゃうんですよ!スマンソン!!

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