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2015年09月04日10:51

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MMRPG 田舎村にて 2

○○○

日暮れ時、月詠とちーほは村はずれの道を並んで歩いていた。

「まさか、でしたね・・・」
「うん、この田舎町で私達の得たものは大きかったよ・・・」

収穫はあった、というのに二人の足取りは重い。
立ち止まった月詠が懐(ふところ)からガマ口の財布を取り出す。口を開けて中をのぞき込む。

「そう・・・圧倒的資金不足・・・!!」

逆さにされた財布から数枚の小銭が地面に転がった。
二人の得たもの・・・それは路銀の圧倒的欠如という事実であった。
次元転移術『空離』で飛んだ場所からユリット村まではほぼ森林を抜けてきた。山育ちの月詠や旅慣れしたちーほは当然のように樹木の果実や獣や魚を狩猟して自給自足な生活をしつつ進んでいた。
確かに旅を始めて今まで衣食住には困らなかったのだが、此処にきて文化的意味合いで問題が生じたのだ。
ちーほは月詠がとぼとぼと小銭を拾うのを眺めつつため息を零す。

「ティマートンの研究論文最新刊が欲しかったんですけどねぇ。あの人の『モンスターと人間の共生の可能性』に関しての内容は結構面白いんです」
「私も『大怪獣ギャモス〜都会へ行く〜』欲しかったなぁ。いろいろ将来の参考にしようと思ったのに」

何の?と、ちーほはあえて聞かないでおく。世界の淑女童女の味方は知っている。
女性は皆、ガラスの心を持っている・・・繊細なのだ。まぁ、割れる心配より、割れた破片が切っ先を向けて飛んでくる恐怖の方が勝っているのだが。

「次はどうします?この村で働いてもあまり大きな稼ぎは出来そうにないですし」
「・・・そうだね。次はもっと大きい街に行って仕事を紹介してもらおう!場所によっては旅人や傭兵向けの仕事案内所もあるって聞くし」

月詠が気を取り直すように大きな声で意見を述べる。

「『空離』で知り合いの場所まで飛んでもいいけど、それじゃ旅の意味がなくなるからなぁ。この技の悪い所は私の見知った場所でないと行けないって事だよねぇ。辞典の索引みたいにうろ覚えでも可能ならいいのに・・・」
「月詠さん、ちょっと待ってください・・・!」

堅いものが混じるちーほの声に月詠は動きを止めた。ちーほは前方を凝視しており、月詠も頭頂の狐耳を立ててそれに倣(なら)う。
前方から誰かが二人に向かって歩いてくる。無精ひげの似合う農夫姿の中年男だ。片足を怪我しているのか、男の足取りはおぼつかない。風上にいる二人の嗅覚が感じたのは、血の臭い。

「・・・いけない!」

誰が勧めるともなく、二人は一目散に男の元へ駆け寄った。

「大丈夫ですか?!」

旅人が駆け寄ってくる姿に安堵したのか男はその場に膝をつく。額と左足から出血していた。特に頭部の出血はひどく、自慢の髭まで赤く濡らしている。

「これはちょっとヤバめだなぁ・・・ちーほ、止血出来る?」
「任せてください」

月詠の頼みにちーほはすぐさま行動に移る。即座に傷口の具合を調べ麻酔の呪術を施し、傷口を縫合していく。人体の研究を極めた専門家ならではの手際のよさだ。

「このひどいケガ・・・一体どうしたんです?」

治療の間に月詠は状況把握を進めていく。男は縫われていく自らの傷から目を背けつつ、

「よそ者がオラの牧場で暴れ回ってたんさぁ。注意して止めようと思ったら暴力を振るわれてこのザマよ・・・おまけに持ってた農機具も今日の稼ぎも、全部盗られちまったぁ・・・」
「なんてひどい事を!!」

月詠は憤(いきどお)り両の拳を握る。

「日々労働に勤しむお父さんに暴力とは残忍非道な悪党もいたもんだ!そんな奴は許さでおくべきかぁ!!」

豪語する狐巫女に農夫は感激の視線を送る。

「お嬢ちゃん、オラの牧場を取り返してくれるのか?!」
「勿論ですとも!私はたくましく生きる労働者の味方です!!」

両手を取り合って頷きあう二人を、ちーほは微笑みながら傍観している。

「月詠さんて、正義感に溢れた方なんですね・・・」

今まで二人旅だったので、こういう第三者を交えて初めて分かる相棒の姿は新鮮味があった。

「あ・・・でも初対面の時も一人で龍に立ち向かおうとしてましたっけ」

本人は自分の責だから、と苦笑していたがその責任感に命をかけられる者は多くないだろう。そして今も、たった今初めて出会った人間に対し共感し、行動に移そうとしている。
そんな人情深い人だからついていきたくなったのかもしれない・・・とちーほは思う。

「ところでお父さん!このかたき討ちにかかる費用のお話なんですけどね・・・?」

人・・・情・・・ぶか・・・!?

「・・・ちょっと、月詠さん?怪我人に、依頼交渉、ですか??」
「は?何言ってんのちーほ?」

思わず声音を凍らせる男に狐巫女は飄々と言ってのける。

「私達はお金がない。お父さんは困ってる。お金をもらう代わりにお父さんは助かる。とても公平でWin-Winな関係だよ?」
「いや、そうですけどね・・・」

義理人情温情慈悲もクソもない商売人の言葉にちーほは続ける言葉を失った。小さな狐巫女に対して個人的に抱いていた理想像が瓦解していく。
背後ではちーほのお付き、幽霊3人衆が爆笑の渦に巻き込まれていた。死霊術士は無言で回し蹴りをお見舞いしておく。




「こんなもんかねぇ・・・」

深く続くウォルカーノ森林と大きな崖に面した山道に旅の竜人は立っていた。
身の丈の半ばくらいはありそうな岩を拳で砕き、弐兎は小さく息をついて腰に手を当てる。背中の翼が夜気を切ってはためくき、自らが巻き起こした砂埃を周囲に吹き払う。目の前には壊れた柵と砕かれた岩が散乱していた。

「ちょっと休んだら行こうかな」

弐兎がそう言って草地に腰を下ろそうとした時、

「やいやい見つけたぞ悪党め!」

甲高い声がそう叫ぶのが耳に届いた。首を巡らせてみれば、森の陰から進み出てくる2つの人影がある。一つは細長く、一つは小さいが幅がある。

「窃盗罪と暴行罪と器物破損罪で大人しくお縄につけーーーぃ!!」

胸を張って言い張るのは巫女福姿の小さな狐の獣人である。背後では四つの尾が彼女の気分を示してゆらゆら揺れる。

「月詠さん、腕に覚えのある奴は力づくでない限り言う事を聞かないもんだぜ?」

薄ら笑みを浮かべて向かってくるのは全身黒衣装に朱糸の刺繍を施した白髪の若者。

「夜ちーほは暴力的だなぁ。穏便に行こうよ、穏便に」

狐巫女が男をたしなめるが、視線は相変わらずこちらに向いている。
どちらも弐兎と面識のない者達であったが、二人が自分に敵意を持っている事は肌身に感じられた。

「何の話をしているかわからないんですが・・・?」

弐兎は正直に内心を明かした。すると男が侮蔑の瞳で赤い半月の笑みを作る。

「背後にそれだけの物的証拠を並べていてまだ白(しら)を切り通すつもりか?餓鬼でももっとマシな言い訳を思いつくぞ」

竜人は壊れた柵と岩を思い返し、苦笑する。

「あぁ・・・まぁ、現状の見栄えだと私が罪人に見えても仕方ないかもね」

あくまで無罪の姿勢を貫く相手に男の忍耐が限界に達した。

「こいつはやっぱり言っても無駄だ。・・・いくぞ」
「ん〜仕方ないね」

狐巫女はやれやれ、といった体(てい)で頷き、駆けだす男に追随する。

「あんな怖そうな顔で睨んでくる人が、反省しているはずがない」
「あ?」

言われて視界の違和感に気付いた。どうも修理に出したはずの眼鏡の度が合っていないらしく、無意識に眉根を寄せて相手の顔を確認していたようだ。

「睨んでない・・・っとぉ!」

弐兎は男が振りかざしてきた光の鎌を一撃をのけ反って避ける。男の通過した先で光点が一つ。狐巫女の突き出した右腕・・・そこに嵌められた『火』の字を象(かたど)った腕輪は紅く輝いていたのだ。

「くらえ!『風刃乱舞』!!」

風の刃が弐兎を縦一文字に切り裂く!
回避を困難にさせる光の鎌と風刃の二段構え。10日の間に鍛えた連携技だ。
術を行使した勢いそのままに距離を置いた二人は更に駆け続け、大回りして森に入る。

「アレで終わったと思うか?」
「いいや。だって・・・相手は竜人だよ?」

「あ〜いたたたた。ったく、眼鏡屋は詐欺だし変な奴らには絡まれるし・・・今日はいい事なしだなぁ」

弐兎は風刃を防いだ右手を擦りながら立ち上がる。狐巫女の言う通り、先ほどの一撃が堪えた様子はない。

「でもまぁ、せっかくだし売られた喧嘩は買ってやるよ」

竜人は進みつつ、森林入口の大木に手をかける。手をかけた部分が、まるで紙でも丸めるように握りつぶされ、引きちぎられた。
均衡を失った巨木が倒れていく。幾ばくかして、夜陰に重い衝突音と地響きが轟き渡る。


続く



結局バトるんかいwww
いろいろ事前に決められていた設定盛り込みつつお話は展開中。
シリアスパートも脳内構成上入るってもっぱらの噂だったりしなかったりするんですよ?(汗
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