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2015年07月24日07:24

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「意外になが生きして」

    「意外になが生きして」

   八十歳にひとつきあまし
   ひとにはほこれるものは何もなく
   おのれにほこれるものは、
   運だ。
   あれ、
   これ、
   それ、
   をさけることはできた。
   そのくらいのことか。

   そしてときに
   おやじの復讎と
   感じることがある。
   突然に
   演説をはじめるときなど。

   概してしゃべりすぎる。
   はなしたりないおやじを
   わたしは内にもっている。

   八十八歳まで生きて
   最後の十五年、
   言葉をうしなった彼は
   まだはなしたりなかった。
   それが突然わたしのなかで
   エンジンがかかる。

   ばからしいことだが、
   仕方がない。
   親不孝者のわたしには、
   このくらいしか、
   不孝のつぐないはない。
   他に何か?
        (『もうろくの春』鶴見俊輔)
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 鶴見俊輔さんが亡くなられた。九十三歳だった。父親祐輔より五歳長命だったわけだが、父親のぶんまではなしたりただろうか。

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