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2015年03月26日22:47

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江古田兎亭

 今月の初めの方のことだったので、もうけっこうたつのだけれど、江古田の兎亭というところへ行った。ここは、「平日昼は長居してノートや文具を広げることもできるカフェ、 夜と土日祝日は、自由な創造空間のレンタルスペース」だそうで、ぶらぶらしていたころ近所に住んでいたら、一日中居座っていただろうけれども、とにかく江古田の住宅街のろくすっぽ目印もないところを延々と入っていってようやくたどりつける、街中の秘境だった。

 いちおう、駅からの道順を記したページもあるけれど(http://ameblo.jp/uasagidan-oukaissou/entry-11133990457.html)、特に新江古田駅からの経路は見れば見るほど到着が至難の業と思えるほどこんがらがっている。念のため、googleのストリートビューで予行演習をしておいた。新江古田駅から兎亭までの道のりというミニマムすぎる需要にすら対応できるのだから、そりゃ、googleは儲かって仕方がないよなと思った。

 なぜそんなウサマ・ビンラディン襲撃作戦ばりの周到な準備をしたかというと、鋼鉄村松という劇団の芝居がここで上演されるからである。たしか今年で創立21年で、小劇場界の状況はよくわからないけど、おそらくかなり活動歴の長い劇団の一つだと思う。最初に観たのはまだ世紀をまたぐ前、駒場アゴラ劇場での『オセロ王』だった記憶がある。でも、なんせ昔のことなので、タイトルや劇場を取り違えていたりするかもしれない。以来、途切れ途切れながら見続けている。
 20年以上も続けているだけあって、けっこう昔とは変わっているところもある。以前はもっとストイックということなのか、そんなにフレンドリーな劇団ではなかった。終演後の客出しのときに俳優が出てきて、客と話したりはしなかった。それどころか、新しくなる前の池袋グリーンシアターの『暗黒街ニンジャ』だったかで、芝居が終わって劇場から出たら、なぜか上下デニムの主宰が後ろ向きに座りこんでいて、その姿が客出しをしない以上に客席との距離をとっているように見え、とにかくなんかすごいなと思いつつ帰宅した記憶がある。

 私自身は終演後に俳優が出てきても話したことはないし(なんか照れるし、直後は感想もまとまっていなくてなにを話せばいいのかわからない)、俳優が出るも出ないも劇団ごとに選んで決めればいいと思うけれど、そのころのここは気軽に近寄れない感じだった。ガーディアンガーデン演劇フェスティバルで次席だったとき、首席でないことに憤った主宰が授賞式で賞品を床に叩きつけてやると息巻くも劇団員たちの必死のとりなしで思いとどまったという挿話は、他の劇団と混同してしまっているかもしれないけれど、そうかもと思わせる雰囲気があったと思う。
 その後、仕事が忙しくなって観劇できない時期を挟むごとに、主宰が演劇雑誌に売りこみへ行ってその様子をブログにアップしたり、終演後に俳優が顔を出すようになったりして、驚いたものだった。今はお芝居の後で招いた他劇団の演出にダメ出しをしてもらったり(演出ごとの着眼点の違いなんかが浮き出てきておもしろかったけど、お互い負担が大きそうでもあった)、スチルを見ながらトークをしたりもする。その他、演出がストーリーテリングを重んじた時期や、あるいは個々の役者に深く踏みこんでいく時期もあったりして、振り返ってみるといろいろトレンドが交錯していておもしろい。

 とはいえ、この前の公演でメイン級の役者数人の脱退が決まって転機が訪れたのも事実なのだけれど、この機会に新しい人たちと短い芝居をひとつ作って、そうしながら一緒に続けていくか考えましょうみたいな企画の公演がその日だったのである。出発の時間がずれこんで時間的にはけっこうぎりぎりになりつつ、ストリートビューでの予習の甲斐あってなかなか順調にルートをクリアしていく。いよいよ最後の曲がり角に差し掛かるのだが、ここは地図作成者の微妙な線引きで道になるかならないかのか細い路地を見落とさずに曲がれるかという最高難易度のミッションだった。思わずこちらも身構えたのだが、なんとそこには劇団の人が案内に出てきて立っていた。おかげであっさりクリアできたが、でも、その人はこれから見に行く芝居で作と演出を担当していて、そんな人が開演直前のこんな時間にこんなところで突っ立っていていいのかという疑問が、今度は生じてくる。

 なんとなく芝居というのは、初日の幕が開くまで稽古をしているし、最悪のケースではその時点でも脚本が上がっていなくて、舞台袖に引っこんでくる役者に脚本家が次々と台詞を口伝えで教えていったという話も聞いたことがある。もっとも、鋼鉄村松は上演二週間前には脚本ができているらしい。それはまったくもって正しいと思う。井上ひさしはちょっとでもいいものをと引っぱるうちにどうしても遅れてしまうと言っていたが、脚本は最終生成物ではないのだから、その理屈は釈然としない。

 兎亭のファイナル・ミッションは実はその後にあって、入り口が地味すぎて前を通ってもさっぱり気がつかないという罠が隠されていた。でも、退団したばかりの元看板俳優メス・ムラマツさんが近くに立っていて、教えてもらってどうにか着くことができた。兎亭は会社を畳んだので使わなくなった自宅の事務所スペースを転用してみたぐらい感じのところで、勝手な印象では(印象だから勝手なものに決まっているが)、いかにも西武線沿線という雰囲気のスポットである。あるいは、東武線でも小田急線でもいいけれど、間違いなく東急ではなく、京急や相鉄でもない雰囲気をたたえていた。南関東じゃないってことだろと言われれば、そうかもしれない。そして、おそらく中野テルプシコールより狭い。知る限り最も狭く、舞台と客席の仕切りもないけれど、椅子は20脚ぐらいあった。中野テルプシコールでは体育座りだった。
 新人さんたちの演技はどれも素直で、いかにも鋼鉄村松らしいといえる気がする。考えてみれば、鋼鉄村松を見て入りたいと言ってきた人たちなのだから、それも当然だろう。

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