「メランコリア�機�1514 年
アルブレヒト・デューラー
31cm × 26cm 国立西洋美術館他
作者のアルブレヒト・デューラーは北方ルネサンスの中心人物。ドイツのダ・ヴィンチとも言える大巨匠ですが、これといった大作を残さなかったので、その名を知っている人は少ないかもしれません。しかし美術史の上では、その名は欠くことのできないものなのです。なぜならデューラこそが世界最初のアーティストだからです。
アーティスト＝芸術家とはどういう人のことでしょう。それは芸術作品を作ることを職業にしている人のことです。そして、その作品の価値をその作者名によって担保している人のことです。
デューラーは世界ではじめて自分の作品に自分のサインを入れた作家です。ダ・ヴィンチにしろボッティチェリにしろ、それまでにも有名な職業画家はいましたが、作品にサインを入れたりしませんでした。
たいていの作品は教会や王侯貴族といった注文主のためにだけ描くわけですから、作者が誰かはわかりきっており、作品上に作者名を書き込む必要はなかったのです。ところがデューラーの時代（デューラーはダ・ヴィンチの一世代後）になって印刷技術が普及しだします（それを欧州いち推し進めたのが他ならぬデューラーの父）。
デューラーは印刷、つまり版画家として作品を複製し、一般に頒布販売した最初期の人物なのです。しかし、印刷による複製は誰にでもできるので、人気のある作品は模作が出まわります。そこでデューラーは作品上に自分のサイン＝モノグラムを入れて「われこそがオリジナルのデューラーなり、模倣作家どもとは違うぞよ」と高らかに宣言したわけです。
これこそが画家をして、それまでの職人（アルチザン）から芸術家（アーティスト）となった嚆矢となるのです。アートの始まりとはつまり、アーティストと言う自意識の誕生のことを指すのです。
デューラーは素描、油彩、版画で数千点の作品を残していますが、この「メランコリア�機廚箸い�作品は最も有名な作品で、版画ながら、いや版画だからこそ彼の代表作といえるものです。
著名な美術史家ヴェルフリンが「解釈の戦場」と評するほど、多くの意味が込められたこの作品のテーマを読み解くことは非常に難しく、そこに描かれた頬杖をつく天使や多面体、魔法陣などについて語りだすと、すぐに本一冊くらいになってしまうのでここではしません。興味のある人は図像学の開祖パノフスキーの著作を繙かれることをおすすめします。
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