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2015年02月19日10:59

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MMRPGはじまりのはじまり 後篇


※※※


『おい、この狐死んだんじゃねぇか?』
『起きねーぞ、おーい』
『呼んだって俺達の声は聞こえねぇだろ。でもコイツの霊が増えたらちーほも喜ぶだろうな!喜んで昇天だな!』
「てめぇら、だから勝手に殺すなって!!」

常人の目に見えざる取り巻きの歓声に、月詠を抱えたちーほの一括が飛ぶ。
柔和な瞳で背を丸めていた面影は今の彼からは一片も窺えない。凛然を背筋を伸ばした男の破れた上着が夜気に翻る。散りばめられたような朱糸の刺繍や髑髏をモチーフとした装飾が月光に鈍く煌めき妖しさを引き立たせる。
そんな不気味さを漂わせる男から発せられる力の波動に、空中の龍は追撃を躊躇(ためら)っていた。
日の光に弱い彼は『半分』闇の住人であり、その本性は夜でこそ発揮される。夜間のみという限定された力は短縮された時間分凝縮され強化されているのだ。

『おうおう。ちーほよ、そう邪見にすんなって!』
『オレ達仲間だろ?死人同士』
『死人同盟作ろうぜーむしろ!』
「一緒にするな!まだ死んでねぇし!」

強まった力は周囲から怨霊を無意識に引きつけるほどで、先程からちーほが恫喝している対象もソレである。

「お前らは彼女の治療に専念しておけ。俺が上の奴の相手をする」
『ちーほ1人でいいのかな?』
『オレ達の助力なしじゃ、大した力も使えないくせに』
『返り討ち展開で逝っちゃえ逝っちゃえ〜!』

怨霊達は自分達の仲間を増やそうと死の誘いの軽口を吐くが、結局はちーほの霊力頼りで存在しているから最終的な霊力の意志には逆らえない。怨霊達の意識が妖狐に向けられたのを確認し、ちーほは頭上を見上げる。

「昼の俺ならいざ知らず、夜の俺に出会ったが運の尽きだ・・・俺の前で幼・・・女性に手をかけた報いを受けてもらおう」

若干意志が先走った口上を訂正しつつ並べて、ちーほは空けた片手を横ざまに薙(な)ぐ。

「さぁ冥府で彷徨う死者共よ、俺の命(めい)に従じて敵を飲み込めぇ!」

途端に地響きがして大岩の周囲から大量の土砂が吹き上がった!樹木の間隙(かんげき)から高く高く飛んだ土砂は空中の龍を直撃した。
まさか小さな人間がそんな術を使うと思わなかった龍は更に上空に逃げようとするが、何故か龍に当たった土はその黄金の肢体にへばりついたまま取れない。その内にもホースで送り出される水のような無尽蔵さで飛んでくる土の量は増えていく。
苛立ったように激しく振られた尾や手足の土が時折吹き飛ばされるが、勢いを失った途端に弾き飛ばした倍の量の土砂がまとい付く始末である。

「・・・おかしい。こんな土でなく、もっと骨だとか死骸のようなものを期待したんだが・・・」

高度を下げつつ距離を置こうとする龍を見やりつつ、ちーほは首を傾げる。問いに答えたのは、まさかの取り巻きの怨霊達だった。

『おれっちの『ゴーストアイ』には見えるぜぇ。なんだか村の奴らがこっち見て騒いでやがる』
『オレの『ゴーストイヤー』にも聞こえてるぞ。『アレは先日催した『ノロウイルス知識を深める会』で乱獲・捕食した牡蠣(かき)の残骸の山だぁ』って』
「つまりアレ貝塚かよ!というかどんだけの量食えばこんな・・・あ、落ちた」

美麗ささえ漂わせていた黄金龍の姿は土の山となり、鈍い音と共に山中に落下。大きな山の中腹に黒い小山の完成である。

「・・・まぁ、結果オーライってトコか?」

空に飛ばされた貝塚の代償に穿たれた巨大な穴。その中央にドーナツの穴よろしく残された大岩の上で、ちーほは大きく息を吐き出しゆっくり片膝を着いた。拍子に落としかけた月詠を慌てて両手で抱え直す。
まだ半分人間の要素を残したちーほの力では限界までの余力が短い。これは使役する屍に含まれる霊力を還元することで伸び幅を増やす事が可能だが、相手が貝殻の山ではそれは全く期待できない要素だ。結果、力のほぼ全てを使い果たしたちーほはまともに立つ事もままならなかった。
『あー残念。そこは雷撃に打たれて死ぬ場面必至だよ普通』
『空気読めよなちーほぉ』
『マジKYな〜。空気よめないt−−−』
「あー!さっきからうるさーーい!!」

怨霊達のブーイングが突如突き上げられた拳に妨害された。月詠が意識を取り戻したのだ。

「あれ、ちーほ?やっぱりちーほだった・・・」

寝ぼけ眼(まなこ)の月詠は目の前の顔を視認してぼんやり呟く。

「さっき誰かと話してた?」
「えーっと・・・オハヨウゴザイマス」

ちーほの霊力を媒体にしている怨霊達は、月詠には気配は感じられても実体は見えないらしい。見えないモノの説明に困り、ちーほは挨拶でごまかす事にした。周りで再度『ヒューヒュー!』と指笛を吹いてはやし立てる怨霊達はガン無視しておく。

「あれ、ちーほの仕業なの・・・?」

逆向きに首を傾けた月詠は増えた小山を発見して呟く。

「あの龍は?」
「その件に関してはもう心配ないですよ月詠さん」

ちーほは口調を余所行き用の敬語に戻して笑顔を作る。

「あの雷龍なら屍の山に埋もれて・・・あの通り、身動きひとつ取れない状態になっています」
「う、埋めるだけじゃダメだよ!!」

腕の中の月詠が驚愕の声を上げて体重を預けていた身を起こそうとする。小さな体が小刻みに震えているのが感触で分かる。

「え?」
「黄龍って雷降らせてたし、いかにも雷属性で土に弱いって感じだけどさ・・・黄色って土属性って意味なんだよ」

固い声を出す狐の震えが大きくなる。否、月詠だけでなくちーほの体も揺れていた。大地そのものが揺さぶられているのだ。

「つまり・・・」
「・・・相手は土龍で、着地すれば土に潜って回避も出来るってことさ・・・」

その言葉を待っていましたとばかりに背後で爆発にも似た爆音が轟く。
空に向かって伸びていく金の帯。牡蠣の屍の群れを突破した黄龍が空に舞い上がり、真紅の口腔を開けて落下してくる。

「「うわーーーーー!!!」」

二人の悲鳴が風切り音を上げる龍の口に飲み込まれる―――その直前、雷鳴とは違う、小さな破裂音が耳元に届いた。
龍の動きが止まる。身を縮めた二人の両脇で鋭い牙の並んだ顎が静止している。二人は動かない・・・否、動けない。何かの拍子に閉じ合わされてしまえば二人の命は血しぶきとなって散ってしまう事だろう。
一瞬の間が一年にも十年にも感じられた。龍の頭が上向き二人から離れていく。長い龍の影が頭上を移動していく。向かう先には『妖狐の御国』。いつの間にか、盛大なかがり火が広場の辺りで焚かれているのが目に入る。龍はそれを目印にして近づいていく。

「村の人達・・・何をするつもりなのかな?」
「わからないけど・・・あ、龍が帰っていく」

村で僅かな間停滞していた龍が再び空を駆ける。そして自身が開けたままにしていた『空離』の穴へ飛び込んだ。たちまち『空離』の穴は閉じ、惨状の爪跡を残した山々に静寂が訪れる。

「た、助かった・・・」

力の抜けた腕から月詠が降り立つ。

「逃げる準備してたのかと思ったら、私達で時間稼いでる間に交渉準備してたってこと・・・?」

彼女も安堵によって気の抜けた声で把握した事態を口にした。

「なんなのそれぇ〜・・・折角人が命賭けて守ろうとしたのに・・・うぅ・・・」

妖狐が落ち込んだ表情でうつむく。狐耳や尾も元気なさそうにうなだれた。そんな彼女を見て、ちーほは例の約束を思い出した。

「月詠さん、今の内に一緒にこの国を出ましょう」
「え、私まで?」

きょとんとする月詠にちーほは頷く。彼女の傷口に塩を塗る羽目になるが、今更引き返せない。

「当然です。これだけの被害を出して咎められない訳がないし・・・それに、また同じ事態に陥らないとも限りません。君が此処に居るという事が、この村の危機に繋がるとも言える」

そこはあくまで男の中での憶測だった。一番最悪な事態を想定した予測。しかし月詠はそれを笑い飛ばして否定することが出来ない。

「・・・・・・」

今まで自分以外の生き物が次元を超え、しかも人に害を及ぼすなど予測もしなかったのだ。異次元の先の未知なる可能性。そこには恐怖と・・・興味がある。

「だから、俺と一緒に行きましょう。終わりが確定している分、君の旅の方がきっと早く終わるだろうけど・・・そこで別れてもいい。それでもいいから―――」
「わかったわかった・・・ちーほの言う通りだよ。今回の件で自分の実力不足も感じたし・・・守るにしても攻めるにしても、もっと力をつけないとね」

月詠は無邪気な笑みを浮かべて手を差し出した。

「よろしく、ちーほ!」

理由も目的も聞かない相手の心遣いに、ちーほは心の中で感謝した。

「・・・はい、よろしくお願いします」

白い手袋越しに手を握り合う。その時、突如襲われる浮遊感。

「「あ・・・」」

視界がぼやける。絶妙な均衡を保っていた大岩が貝塚の大穴に転がろうとしているのだ。

「また落ちるのーーー?!」
「月詠、はやくぅぅぅ!」
「わかってるって・・・やぁ!」

目の前に異次元に繋がる『空離』の穴が開き、二人は落下の速度そのままに中へと飛び込んだ。


※※※


「おー、行き寄ったみたいじゃのぅ。門出(かどで)から大騒ぎさせおって・・・」

即席で仕上げた巨大なかがり火の下で、族長は崩落した山の方を眺めていた。月詠の発動した『空離』の光が一瞬だけ灯(とも)り、消える。
族長の横に銀髪のオッサンが並んで親指を突き立ててきた。

「それにしても、怒龍が生贄の代わりに山盛りの饅頭で満足してくれてよかったな。さっすが族長!」

「ワシはただ、龍と一緒に穴から飛んできた用紙に従ったまでじゃい。どうやら月詠が、昨年何かの拍子に抜けた龍角を誰かから譲り受けたらしくてなぁ」
「それが気に入らなかったと?」
「いや、その時茶請けに出された菓子が、本来この龍の物だったらしい」
「理由しょぼ!!」

オッサンは思わず飲みかけていた酒を吹き出す。

「まぁおかげであの子の決心がついたのだから良しとしよう。今夜は若者達の無事な旅路を祝って宴じゃな」
「おー!待ってましたぁ!!」

その夜の酒宴は夜明けまで続いたとか。





あとがき
・・・なげぇw全文で1,5万字なんて誰が予想するよ・・・w
始まりのはじまり・・・同志曰く黄色い毛玉編が終わりました。
若干茶番が長すぎたかな?でも本来の企画発足自体が茶番の塊みたいなものだし、いいかw
月詠の始まりはこんな感じですねぇ。一応例の薬制作を最大目標として各地・各世界を転々としつつ実力を上げていくという。

他の二人は他人から嫌われる、またはそれに悩む過去があるので月詠は逆に、何不自由ない人生を送っていたんじゃなかろうか・・・という起源からスタートです。
ただあまりに箱入りに育った為に逆に「それでエエんか?」と周りに心配される。本人も「外出たい」と思っているけど切り出せないでいる。そこに今回の事件。

乗るしかない、このビッグウェーブに!(意見の合致


ちーほはちーほさん筆の木の棒編を参考にさせてもらってます。
ただ本人はあまり自分の職について快く思ってないというか、怪しい職で世間的に嫌われてる職故に詳しく知られたくない風だったので、月詠との共闘はまた次回以降の予定です。

因みにKさんの占い「飢えたドラゴン」は今回の相手・・・を匂わせつつニト氏との出会いを意味するフラグだったりしております。自分で回収しようと思ったら回りでどんどん引用されてて笑いましたwでもその流れ、嫌いじゃないw

現状ステータス書くなら
月詠
レベル15
装備 巫女服・火輪・竹下駄
技 火炎乱舞(火行)・風剣乱舞(火行)

って感じでしょうか。ちなみに全て族長のおさがりとか、支給品だそうです。

今回のゲスト
黄龍のk「コーちゃん言うなぁ!」さん
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コメント

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