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2015年02月02日07:49

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『苜蓿』の「雑記」

　『苜蓿』には毎号同人三人が作品とは別に「雑記」を書いている。足立巻一さんは、創刊号から第六号まで書いているが、これらはたぶんどの本にも収録されていないだろう。
　創刊号は「困っていること」と題して『竹中郁全詩集』（角川書店版）の編集で、竹中郁の最初に出していた雑誌『羅針』の第一次分が揃わないことについて。
　第２号は「竹中郁さんの一周忌」として「竹中郁さんをしのぶ会」の模様を報告、白川渥の話として、戦後すぐの旅行で竹中がカバンから「折り畳み式のハンガーとズボン吊り」をとりだした話や、小磯良平らとゴルフに行った時、朝目が覚めたら竹中が≪廊下の手すりに自分の使った布団をせっせと干していた≫という竹中の一面を紹介している。
　第３号は評伝のための「パリ小旅行」、竹中、小磯がパリで同じパンションに住んでいたが、遅れて画家の中西利雄がやってきたのだが、≪中西利雄は当時パテ・ベビーといわれた小型撮影機を持っていて、三人のヨーロッパ旅行やパリ風景を撮影していたが、そのフィルムが遺族によって見つかったのだそうで、二時間分もあった。≫それを見て足立さんは、≪見ていて驚いた。『象牙海岸』の詩の背景はほとんど出てくる。その合間に竹中や小磯があらわれる。竹中は髪が真黒で豊かで頬もふっくらとし、笑いながら右腕を曲げて上げたりして見せる。小磯は中折れ帽子をかむり、皇太子によく似ていた。≫と感想を書いている。
　第４号は「竹中郁三回忌」の報告、竹中が作詞した校歌や社歌は二百篇を超えるとか。

　第５号は「竹中郁の散文集」、計画されたのは３点、①文学と美術についてのエッセイ集（『消えゆく幻燈』編集工房ノア）②身辺と神戸とについての随筆集（『私のびっくり箱』神戸新聞出版センター）の目処はついたが、③の児童詩論と童話集の見通しが立たないのと、さらに散文集≪雑誌「あまカラ」に連載した食べもの随筆を小島政二郎が激賞し、ぜひ一本にまとめるようにすすめたけれど、竹中は面倒臭がって放っておいた。≫と校歌や社歌をまとめた歌謡集も足立さんは出したいと考えていたらしい。
　第６号は「報告と記録」として「竹中郁先生をしのぶこども詩の会」と「竹中郁・坂本遼展」のこと、そして、１９８５年≪四月一日から六日まで竹中と親しかった画家に作品を頂戴して「友情の小品即売展」を大阪梅田画廊で開き≫それに応えたのは、小磯良平・伊藤継郎・須田剋太・津高和一・中西勝・石坂春生・新宮普・中村貞夫・富士正晴・杉山平一の１０人だった。≪入札制によって四百余万円を得、竹中著作刊行の見通しもついた。≫と書いている。（エライ！）
　創刊号の「雑記」で足立さんは、≪わたしの晩年は、竹中郁とともに暮れるような気がする≫と書いている。また、第５号では、≪厄介きわまるのは本誌に連載中の評伝である。第五号でようやく関西学院時代を終ったばかりだ。これまでに二年半と約三百枚を要した。そして竹中の人生の二十三歳までを辿ったのにすぎない。没年は七十七歳であるから、あと五十四年を追わねばならず、いまの調子でゆくと少なくとも七年を要する勘定になる。ある女流作家が、足立はあと七年はもたないと陰で言ったそうだが、七年の寿命があれば何とか評伝に結着をつけることができる。しかし、こればかりは計算どおりゆかない。二十年ほど昔、詩のなかにこんな二行を書きこんだことがある。
　　つらいことだけれど
　　道は日が暮れてからはじまるのだと。
　その予感がいま現実になったのを感じる。
　　草藪の枯葉をそよがしてゐる小鳥　日は暮れたるにそこに寝るならむ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　石川乙馬　　　　　≫

　足立さんの晩年は、ほんとうに竹中郁とともに暮れてしまった。