クーちゃんは、我が家の裏のスペースにある、洗濯機と物置の側に結構立派な犬小屋を持っている。
クーちゃんが我が家にやってくることが決まったときに、ハハと二人でホームセンターに行って、女二人では持ち帰れないから家まで発送してもらい、ワタシが汗水たらして組み立てたのである。
生後3か月のクーちゃんには大きすぎたが、今ならちょうどいいであろう。
ハハは「絶対家には上げへんからな!」と言っていたのだが、一年もたたない間に人間の家で終日過ごすようになった(笑)。
主のニオイがつく間もなく空き家になった犬小屋の屋根には苔が生え、猫の雨宿り場所になったり、たまにイタチが入ってたり、する。
クーちゃんはワタシが洗濯をするために裏への戸を開けていると、ときどきやってきて「そういえばココはアタシの本当の家・・だっけ?」みたいな顔をして、出たり入ったり寝そべったりしている。
別に犬小屋の話をしたかったのではない。
家住みとなったクーちゃんはなぜかワタシの部屋が好きで、ワタシが使っていたときから不在のときにはベッドの上で寝ていた。
ワタシがハハと一緒に寝るようになってからは、完全に部屋ごと乗っ取られてしまった。
「今日は、ワタシの部屋の近くを通るたびに吠えるなぁ」と思っていたので、夜になって親交を暖めておこうと思ったワタシは、部屋に入って電気をつけた。
クーちゃんは、吠えまくりで、なんと威嚇までするではないか。
ワケがわからないワタシは「どしたん?」と若干ご機嫌をとる感じ(普段どれだけ虐めているのか・・)で、クーちゃんの好きなマッサージをし、背中をなでてなだめようとした。
「オネーチャン、今日は『ポンポンちゃん』とか言うてへんとおもうけどなー」とまで言ったのである。
しかし威嚇は全く収まらず(こんなことは初めてである)、ちょっと不安になってきた時、ワタシは何の気なしに、ベッドの上においていた昼寝用のマット(勿論クーちゃんの寝床になっている)がずり落ちていることに気づき、それをベッドの上に上げた。
クーちゃんの吠える声が一段と大きくなり、一瞬の間に「黄色い何か」を咥えてワタシの横をすり抜けていこうとした。
ワタシは身体でクーちゃんを壁に押し付け、頭をつかんだ手を首輪に移動させた。
「アンタ! 何咥えてるのン!?」
ぐいと引き戻したクー(呼び捨て)が咥えていたものは、ハハとランチに行ったときに買った菓子パンのうちの一つだった。
しーかーもー!!
ハハが選んだやつで、めちゃ甘そうなやつで、ザラメ(砂糖の荒いヤツ)をまぶしたやつである。丸ごとである。とんでもないのである。
ワタシの部屋で「いいもの」を「隠して」いたのである。
いくらワタシの部屋が散らかっているとはいえ、どんな部屋や!!
* * * * *
ハハの元に脱兎のごとく逃げていくクーを「オバチャンとこに行ってもアカーン!」と言いながら追うワタシ(山姥のようだ)。
横になってテレビを見ているハハに、証拠物件(一口食べただけのパン)を見せながら、一部始終を説明する。
「えーい! オバチャンところに逃げてきたのなら、オバチャンのお布団の上に座りなさいッ! オネーチャンのお布団の上で震えてんといて! オシッコちびったら承知せえへんで!(と言ってもワタシが後始末をする以外にないのであるが)」
さっきまでの威嚇はどこへやら、ワタシの胸に頭を寄せてご機嫌取りに転じるクー。
パン屋さんで、ワタシはハハと3つずつ菓子パンを買った。
ワタシが買ったのは、チョココロネとジャムパンとクルミパンである。
おやつの時間にパンを食べようと思ったら、半分食べかけのクルミパンしかなかった。
チョココロネとジャムパンはワタシの好物なので、ハハに尋ねたが当然行方不明である。
まさかそれをクーが食べていたら・・・・・(ゾッ

)
ワタシの剣幕があまりにもすごかったのか、クーを怒っているときに「アンタ、チョココロネとジャムパンを食べたんと違うやろな?」と言っていると、ハハが「それはワタシが食べた」といった。
パンは全部ビニール袋か紙袋に入っていた。
だから、夜ワタシの寝床の上に紙の袋を噛み破ったものがあったのだ・・・。
ハハの「ワタシが食べた」発言は、クーをかばった可能性もゼロではない。
ビニールはなかったので、多分ハハが食べたのであろう。
くちおしや〜、くちおしや〜
食い物の恨みは、クーの威嚇なんぞ「へ」でもないくらい深いのである


でもこの恨みはハハに向けていいのか、クーに向けていいのか、いまいち分からないのだ。
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