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2014年06月11日22:02

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OJT

 「OJT(On-the-Job Training)」という言葉はさまざまな職場で使われているので、聞いたことのある人も多いと思います。仕事に就く前に専門の教育機関や訓練所で技術を学ぶ「Off-JT」に対し、職場において仕事をしながら行う訓練のことで、合理的に職業訓練を施すために20世紀になって編み出された研修方法です。

 しかし日本においてOJTは、昔からある徒弟制度と結びついて、いびつな形で定着しているように思えます。医者の世界ではオーベン、ネーベンなんていう研修医制度がありますが、日本の多くの職場でオーベン(指導医)に当たるような指導者はまず与えられません。教えてくれる人はいないけれど、周りを見ながら自分で学べ、というのが日本におけるOJTのようです。

  この見ながら学べは徒弟制度の考え方です。徒弟制度が普通だった職人の世界では、親方は親切に弟子に技を教えこんだりはしません。その代わり身の回りの世話をさせ、常に身近に寄り添うことを要求します。つまり門前の小僧よろしく、技術は見て盗めと言っているわけです。職人の技というのは暗黙知の世界で、言葉にしてなかなか伝えられるものではありません。なのでそういう非効率的な方法も致し方ないところがあります。

 しかし、普通の営利企業でそんな非効率は許されません。その上オーベンを付けるようなゆとりもない。するとどうなるのか。いきなり持ち場を与えられても、仕事はなかなか身に付かず、当然のことながら能率は低いままに留まります。さらに度々失敗を犯してしまうことにもなります。企業としたらそういう人に大事な仕事は任せられないので、当り障りのない役しか与えない。必然的に年功序列のヒエラルキーが形成されるわけです。

 失敗から学ぶというのは、確かに教育法としては有効かもしれませんが、日本は失敗に不寛容な国なものですから、そうした経験は本人を萎縮させ、隠蔽・糊塗するその場しのぎのスキルばかりが上達することになるのです。ともすると、そうした老練な弥縫策に長けた人を「出来る人」だとするきらいさえ感じられます。

 本来半年もあれば身につくような技能や職務も、自家培養で効率悪く学ぶものだから3年も5年もかかってしまう。そしてようやく出来るようになったと思ったら、それを新人に伝えることなく違う部署に異動させられるのです。企業の側で言えば仕事の全体像がわかるジェネラリストを育てたいがためなのでしょうが、やっとこさ出来るというレベルの技能が蓄積されるばかりで、財産となるような知識も技術もそこにはありません。

 仕事の効率を測る労働生産性で日本は過去20年、先進7カ国中ダントツ最下位をキープしているそうですが、それも頷けます。ちゃんと訓練を受けしっかり仕事が出来れば、無駄な労働時間も短縮され、労働生産性も上がるんじゃないかと思うのですが、目先の人件費節約の方が日本の経営者にとってはウエイトが重いのでしょう。

 そもそもOJTの嚆矢は、チャールズ・アレンという人が提唱した教育訓練プログラムにあります。第1次世界大戦が勃発して大量の受注を受けたアメリカの造船業界にあって、緊急の増員要請に訓練機関を使わず即戦力となる人員を確保するため、現場で合理的に訓練を行う4段階指導法を編み出したのです。その4段階とは 1..やってみせる 2..説明する 3.やらせてみせる 4.チェックする、の4つです。その後第2次世界大戦期に、1..JIT(Job Instructor Training、仕事の教え方) 2..JRT(Job Relations Training、人の扱い方) 3.JMT(Job Methods Training、改善の仕方) 4.PDT(Program Development Training、訓練計画の進め方)の4つの企業内訓練プログラムに発展します。

 ご覧になってわかるようにこれらは教える側のプログラムであり、教育法としては当たり前なものです。これの何が斬新だったかというと、教育の専門家が行うのではなく、先輩社員が新人社員に施すという仕組みにあるのです。それまで働きながら教える方法論というのはなかったからです。実のところOJTとは、受ける側の訓練のことではないのです。教育の専門機関でない職場で、その仕事をいかに計画的に効率よく指導するかというコーチングのメソッドを確立させる、教える側の訓練のことなのです。

 教えるためには自分のやっている仕事を体系的に見つめなおし、相手に伝わるように適切な説明と行動で明示しなければなりません。そうすることで仕事が客観視され、自分の中にしっかり定着するのです。教えて学ぶ。OJTとはつまり教えることを学ぶ場であり、教えることによって学ぶ場なのです。そして、そのナレッジ(知識や手法)を組織に還元し共有財産とする仕組みのことなのです。

 見て学べという日本のそこかしこで行われているものは放任と独習であって、決してOJTと言えるようなものではないのです。

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