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2014年03月10日19:20

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Oranges are not the only fruit

Jeanette Winterson "Oranges are not the only fruit" 1985
http://www.jeanettewinterson.com/book/oranges-are-not-the-only-fruit/

イギリス現代女性作家の処女作。オレンジがどのように描かれているのか興味が湧いたというのが直接のきっかけですが、実際は5年位前にマイミクさんに薦められて以来気になっていた作家さん。既に何作か翻訳も出ていて、これも翻訳の方を図書館でちょっと眺めてみたら軽妙な文体ながら重そうなテーマのように感じたので頑張って原書で買いました。

半自伝的な小説とのことで、宣教師になるべく育てられた養女という設定とか章立てが旧約聖書から取っている所など、実際読み始めたらキリスト教を知らないと意味がちゃんと読み取れていないのではないかと感じて戸惑いましたが、どうにかこうにか読了。最初は作者の用いる隠喩がよくわからない気がしましたが、平易で軽やかな文章ながら機知と皮肉が随所に生きていて、期待通り面白かったです。宣教師に育てようとする母親との距離感(と思いながら読むと途中で母の迷いなさが好きだったという文に出くわして自分の白黒思考を反省したり)、同性愛への目覚めに伴う家出と母との和解など、全般的には作者の struggle for life が描かれていますが、途中で意味深な御伽話や Winnet Stonejar という作者の名前のアナグラムを主人公にしたお話が挿入されていて、何か深い意味をこめているのか、それとも話が鬱々としないための工夫なのだろうかと思いながら。

肝心の(?)オレンジですが、全体的にはよく食べるおやつとして here, have an orange というような感じで登場することが多く。例えば皮をかつら剥きのように?剥いてエスキモーのイグルーのように立てるなんて描写も2,3回出てきました。一番興味深かったのはオレンジが主人公の心の闇(デーモン)として表れる所で、作者のアイデンティティの一部になっていることがうかがわれ。あと、エデンの園の禁断の果実として描かれているシーンもありました。


文章が気に入ったので、もう1作くらい読んでみるつもり(いつになるかわからないけれど)。最新作の魔女裁判の話かギリシャ神話の話かなあ。SFものも興味深いけれど。


p.s.
昔から文学はアウトサイダー的な視点のものを好んで読んできた所があると思う。その意味ではこの小説もアウトサイダー小説なのだろうし、実際冒頭のイントロで作者自身がそのようなことを書いている。でも私が気に入ったのはそのアウトサイダーぶり自体よりも食べものとか花とか、登場する女性達との交流などを通して感じられるリアリティというか生活感(と書くと何だかオバはんぽくなるけど、あまり泥臭くないのも魅力)だと思う。この感覚は女性作家には珍しくないけどどこか懐かしくて、誰を彷彿させるのか考え中…泣き笑いしながら軽やかに転げている感じは荻野アンナかなあ。でも言葉遊び的な要素はあまりないと思った。エイミー・タンも似ている気がするけどあまり真面目に読んでいないし。うーん…

p.p.s.
ググると「壮絶な人生」という感想が多かったのは興味深く。半自伝というと戦争に振り回されたり男に捨てられたりといった人生を歩むものを読まされてきたせいか、いわゆる壮絶という感想はなかったのですが、作者が自分らしく生きる為の苦悩は手にとるようにわかったし、そこには同性愛を禁止するキリスト教との関わりが深いのだとも思いました(作者自身が男性にレイプなどの酷い目に遭う話は出てきません。意味深な御伽話などには出てくるし、その前後に「男には獣とそうでない人しか居ないというような描写もあって、それが作者の男性観なのだとは思いましたが)。関わりを持つ女性は大勢出てきますが、作者自身が愛しているのは一人か二人。ただ関係はほんの軽く示唆されているだけの人も居て、作者にとってどういう人なのかよく掴めなかった人も何人か居ました。
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