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2013年11月01日23:27

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『書物と映像の未来』

長尾真 他編『書物と映像の未来 〜グーグル化する世界の知の課題とは』 岩波書店、2010年

約4年前に開催されたシンポジウム「世界のグーグル化とメディア文化財の公共的保全・活用」をベースに当時の講演者達が執筆したもの。1部がグーグルブック騒動、2部は映画や放送などいわゆるマルチメディア(もしや死語?)データのアーカイブに関する議論。簡単に言えば電子書籍の今後の課題がテーマなのだけど、3年も前の議論ともなると課題以前に現実が先行している感は否めず。今流行りだと「ビッグデータの活用」がトレンドという所だろうか。

でも編者が当時国会図書館の館長だっただけあってか、特に公共材としての情報という観点に絞った議論が展開されているのは興味深かった。また7章のテッサ・モーリス=スズキ氏が映画を例にアートの非公共的性格にやんわりと突っ込んで議論しているのも面白かった。キーワードで言えば、デジタル環境において著者が過剰に、読者は稀少になるという指摘についても考えさせられた(デジタルに限らず「思想の自由市場」というか「百家争鳴」のようなことなのかなという気もするが)。

私は未だに本を読むのは紙の方が断然便利というアナログ人間なのだけど、それでも論文とか二百頁前後の薄い本だったらごく普通にPCで読んでいるし、情報収集という観点だけ見ればハイパーリンクや動画も駆使出来る電子書籍の方が圧倒的に便利なことは否めない。どっちかと言うとこのまま放っておけば紙の文化が廃れることは必然と思えるがそれでいいのかというスタンス。執筆者は概ね必然の流れに逆らえないというスタンスだったように思われた中、辛うじて出版社出身の方が読書する公衆をテーマに問題提起しようとしていたのが印象的だったか。その著者が何を言おうとしていたのかはイマイチ読み取れなかったのだけど、自分に都合のいい情報を掠め取るような読み方がメインになって、じっくり腰を据えて一つの思想に付き合って読むような読書スタイルが廃れていかないかが一番気になるかなあ私は。

Kindleなどでも多くの読者がつけたハイライトを表示出来たりCloud Readerの方でコミュニティっぽいシステムが組み込まれているのは面白いとは思っている。確かそれを更に発展させて学校の授業や勉強会にも活用させていこうという動きも聞いたことがある。そういう進歩に向かうベクトル自体を否定したいとは思っていないのだけど。
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