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2013年07月15日23:18

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美しき諍い女

ジャック・リヴェット「美しき諍い女」 1991年

例の柏に出来たキネ旬映画館で上映していた。公開当時気になりつつ、何となく妖しげな雰囲気に呑まれそうに感じて気後れしたのか、結局観ていなかった。4時間もの長編映画なのでDVDでレンタルするよりも映画館で観る方が楽しめそうな気がしたのと、リバイバルなので千円で観られるというのとで行ってきました。

お話は老いて絵を描く気を失っていた画家が、若い画家ニコラの恋人マリアンヌに出会ったことで十年前に一度取り組もうとして断念していた大作「美しき諍い女」を描こうと思い直し、マリアンヌをモデルに再びキャンバスに向かう、というもの。さて、どんな絵が出来上がるか?

「めぐり逢う朝」と同様、芸術とは何か、ということが隠れたテーマになっていて、その意味で興味深かった。キャストも上の3人の他、老いた画家の妻リズやパトロンのポルビュス、若い画家ニコラの妹ジュリエンヌ、老画家夫妻の家政婦とその娘マガリ、ともども個性を発揮していて良かったと思う。一方、ちょっと不満も残るお話だったかな。おそらく監督としては当時のフェミニズムも意識してマリアンヌを描きたかったんじゃないかと思えたけれど、結局は鼻っぱしの強い小娘が老獪な芸術家と身体を張る、という以上のものを引き出せていなかったような気がするし(その小娘が小説家を目指しているという設定のわりに)、むしろ老画家の妻のリズの方が監督の想定以上の演技をしていたのではないかと思った。…と言ってもマリアンヌの勝気っぷりは当初はちょっとだけオシャマという程度にしか描かれていなかった気もするので、画家とモデルの相互影響という伏線は生かせていたとも思ったけど。

あんまり書くとネタバレになってしまうので控えておきます。観客の想像にお任せ、な伏線が幾つかあって、特に老画家が何度か描き直した絵がどんな出来だったのかは興味深かった。「真珠の耳飾りの少女」がもしかしてこの映画を意識していたかもしれないと思わせるシーンも。あと、何故男はわざわざモデルに不自然な無理なポーズを取らせたがるのか(特にヌードで描く際)長らく疑問だったのだけど、ちょっとだけ糸口を掴めたかもしれないのは収穫だった(ピカソやロダンはもちろん、ヘンリー・ムーアの彫刻ですらどこか不自然なポーズが多いと思っていた)。


マリアンヌ役のエマニュエル・ベアールは抜群のスタイルだわ美人だわで、ちょっとだけロマーヌ・ボーランジェに似ているように感じた(Wikipediaの写真が全然似ていなくてびっくりだけど)。
老画家役のミシェル・ピコリはよく観る俳優だなと思ってググったらルイ・マルの映画や「サン・スーシの女」などの名画で主役を演じてきたベテラン。絵コンテの作画は自筆だろうか?
老画家の妻リズ役のジェーン・バーキンは名前はよく聞いた気がしていたけど映画で観るのは初めてだったかも?一見クールビューティっぽいながら女の内面をくどくどしい位に細やかに演じていた(八千草薫やミア・ファローに似ているんだけど、そこはクールビューティの貫禄)。
若い画家やその妹役もかなりの美男美女だったけど、あまり他に大きな役にはついていないようです。

4時間の映画が全然長く感じられなかったのは、老画家夫婦の住んでいる家が古びていながら大きくて天井も高く、食べものも簡素だけど美味しそうで、田舎で質素ながら豊かな生活をしていることが伺われて、映像をボーっと眺めているだけでいい気分になれたことや、監督が光の取り入れ方が上手いと感じさせられたことなどからかな。タルコフスキー映画などとはまた違ったゆったりさ。食器をゴトっと置いたりワインを啜ったりする音も気持ち良かった。音楽が(苦手な)ストラヴィンスキーだったなんてエンディングロール見るまで気がつかなかった!

人間のエゴというものをこれだけさりげなく描いた映画は観たことなかったかもしれない。「めぐり逢う朝」よりも何か健全な精神が流れているように感じてしまったのは作者の世界観がより単純だからかもしれないとも思ったけれど。


p.s.
キネ旬のサイトには日本では21年前の公開当時ヘア論争になっただのスキャンダラスな匂いだのといった感想が載っていてげっそり。これだから私小説漬けの男どもは……ヘアなんて何の関係もない、せいぜい観客サービスのお飾りに過ぎないと思ったけどなー。まあ、そういう部分に鈍感というか心が反応しないのが私がフランス芸術にイマイチご縁が薄い遠因なのかもあせあせ

p.p.s.
お客さんは20人も入っていなかった位だったかな。休日だからもう少し混むんじゃないかと思っていたけど、興味ある人は既に21年前に観てしまったという感じなのだろうか。
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