いま手もとに『幸せな孤独な薔薇』のチラシがある。上演は8月21日までだったから、もう終わっている。芝居はめっきり行かなくなったから、これも観ていないけれど、2000年の初演はシアターアプルで観劇した。
初演の主演は脚本も担当した田嶋ミラノ。惑星ピスタチオにいたころは平和堂ミラノという名前だった。たしか、アルファベット表記が MILANO HEYWARD だったと思う。そのずらしっぷりがなんだかおもしろくて、不思議と憶えている。
彼女の脚本は、ピスタチオ時代の『大切なバカンス』がいままで観たなかで最も記憶に残っている芝居のひとつになっている。西田シャトナーの演出との相性はかならずしも良くないと思うけれど、ラストの寂しさがひどく胸に刺さる舞台になっていて忘れられない。
2つの芝居のストーリーは、いかにも女子高の演劇部が文化祭で上演しそうな感じといってしまえば、不当だろうか。基本的には少女の成長の物語で、それこそ棘もきちんとあるけれども、ソティスフィケートされ互いの善意に満ち足りた世界で優しく穏やかなやりとりが交わされながら進んでいく。
『幸せな孤独な薔薇』は当時のニフティの演劇フォーラム(時代がわかるが)でかならずしも高評価ではないけれど、好意的な書きこみが多かったと記憶している。
個人的にはよくできたお芝居と思いつつ、それ以上のものを感じることもなく、チラシをみるまで忘れていた。
そういえば、遠坂百合子さんを舞台で見たのはこれが最後だった。これを書きながらネットで検索してみたら、数年前から活動を再開されたみたいだったけれども。
初演の会場で配られたパンフレットに、田嶋ミラノは自分が寂しいおばあちゃんになる予感があって、その時のために写真をていねいに整理していると書いてあった。
その姿はどことなく、この芝居の冒頭に登場する老婆に重なる。
家庭的に満たされることへ執着していなかったのかもしれないし、あるいはむしろ、かわいいお婆ちゃんになることへこだわっていたようにも思える。
もっとも、彼女には老後とよべるようなものはなかった。この芝居から3年後に38歳で亡くなっている。
彼女を失ったことは、おそらく日本の演劇界にとっても損失だったと思うけれど、8年前のことともなると思い出す人も少なかろう。
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