どの話も大変に面白かった。
特に印象に残った人物は蓑田胸喜だ。この本で初めて知った人物だ。『第九話 「異能の論客」蓑田胸喜の生涯』から引用しよう。
159ページ
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蓑田胸喜は戦前・戦中の論壇であれほど大きな影響力を持っていたにもかかわらず、現在ではほとんど忘れ去られている。蓑田について言及することは、その滅茶苦茶な言説に抵抗できなかった知識人の惨めさを映し出すことになるので、潜在意識に一種の抑圧が加わり、「忘れてしまいたい」という思いから「なかったこと」にしてしまったように見える。
これは現在の日本外務省で田中眞紀子元外相や鈴木宗雄衆議院議員についてほとんど語られなくなっていることに似ている。まだ数年前の出来事であるが、田中・鈴木戦争時、外務官僚がとった節操がなく、品性下劣な振る舞いを思い出したくないという無意識の抑圧が働くから、外務官僚はこの二人について語りたがらないのである。
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「なかったこと」にされた方は口惜しくて口惜しくてたまらないのだ。俺も「なかったこと」にされたので口惜しくて口惜しくてたまらないのだ。
170ページ(第九話の最後)
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蓑田胸喜は主観的には日本のルネッサンス(再生)に全身全霊を投入していたのであろうが、第三者的に突き放してみるならば、自己のルサンチマン(怨念)と思い込みで目が曇り、日本の言論空間を閉塞状況に追い込み、国家破滅の道備えをした。ナショナリズムの凄みは、民族=国家のためには自己の生命を捨て去る気構えができていることだ。
大多数の人々にとって宗教が生き死にの原理でなくなった現代において、ナショナリズムは生き死にの原理を提供する代替宗教としての機能を果たしているのだと思う。自己の生命を大切にしない人は、他者の命を大切にしないし、他者の内在的論理を掴むことが苦手になる。思いやりがわからなくなってしまうのだ。そして「思い込んだら試練の道」という星飛雄馬型で閉塞した言論空間を作り出していく。
われわれが蓑田から学ぶことは、主観的には愛国心に燃え、絶対の真理を確信する型の真面目な論壇人が日本国家と日本人に対する大きな災いの道備えをするという逆説だ。
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こいつも日本を世界大戦へと追い込む、気色の悪い空気を作り出した一人だったのか。
恐ろしい人だ。
追伸:「文庫版あとがき」には著者の父母に対する感謝の思いが綴られていて切ない。
蓑田胸喜 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%93%91%E7%94%B0%E8%83%B8%E5%96%9C
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